表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
29/32

「おまえの顔なんか見たくない」って言ってくれ 1

 図書室の窓を、雨のしずくが流れ落ちる。この窓からは、一年生の昇降口が見える。

 玄関にひとりで立っているのは千翔先輩だった。靴を履き替えた一年生たちが、不審な目で先輩を見て、通り過ぎていく。


 しばらくすると、赤い傘を差した女子生徒が駆け寄ってきた。胡桃さんだ。話しかけられた千翔先輩は、雨のなかに黒い傘を開き、胡桃さんとふたりで歩きだした。


 わたしは小さく息を吐き、窓から視線をそらす。そして机の上の参考書を見下ろした。


 最近放課後は、図書室で勉強してから帰るようになった。一年生の昇降口で、千翔先輩がわたしを待っているからだ。それを避けるために、わたしはここで遅くまで時間をつぶす。


「ふう……」


 なにをやっているんだろう、わたしは。


 静かな室内にチャイムが響いた。まもなく閉館時間だ。わたしはゆっくりと荷物をまとめ、椅子から立ち上がった。




 ひとりで階段を降り、ひとけのない昇降口で靴を履き替える。そして降り続く雨のなかに、傘を開いたとき、後ろから声をかけられた。


「瞳子ちゃん」


 そっと振り返る。


「久しぶりだね」

「元気?」


 そこには部活帰りらしい福丸先輩と柳楽先輩が、苦笑いしながら立っていた。




 雨のなか、なんとなく三人並んで駅に向かった。ふたりの先輩の間に、なぜかわたし。先輩たちとこんなふうに歩くなんて、思ってもみなかった。


「あいつ……千翔のやつ、最近全然元気ないよ」


 わたしの右隣で口を開いたのは、白いワイシャツの下にピンク色のTシャツを着ている福丸先輩だった。


「瞳子ちゃん。もう千翔のこと、嫌いになっちゃったの?」


 そう言ってわたしの顔をのぞきこんでくるのは、左隣の柳楽先輩。背中にギターケースを背負っている。

 わたしはきゅっと傘の柄を握りしめて答える。


「嫌いなわけじゃありません。でもいまの先輩に必要なのはわたしではなく、胡桃さんなんです」


 傘のなかで、ふたりが顔を見合わせている。


「あー……たしかに胡桃さん、彼氏と別れたって言ってたよな」

「うん。最近よく、千翔と一緒にいる」

「でも……」


 福丸先輩がつぶやいた。


「あんなに夢中だった胡桃さんといても、全然嬉しそうじゃないんだよ。千翔のやつ」


 柳楽先輩も続けて言う。


「あいつさ、いつのまにか胡桃さんよりも、瞳子ちゃんのことが好きになっちゃったんじゃないのかな?」


 傘に響く雨の音と、先輩たちの声。わたしは勢いよく顔を上げた。


「ダメです! そんなの……千翔先輩は胡桃さんと付き合わなければダメなんです!」

「瞳子ちゃん……」


 ふたりの先輩が、傘の影からわたしのことを見つめている。


「瞳子ちゃんは……本当にそれでいいの?」


 わたしは先輩たちの顔を見上げて、こくんっとうなずく。


「はい」


 先輩たちは、なにか言いたそうな顔でわたしを見ていた。


 そしてその日、わたしは家に帰ると、両親に伝えた。

 高校を辞めて、海外に留学したいということを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ