第三支部の愉快な仲間たち(一部)
通されたのは、大きな楕円形の机がある部屋だった。
椅子も数十ほど並んでおり、なるほどいかにも会議室らしい場所だ。
「適当に座っててくれ」
鍛冶師――ジェシカさんに促され、俺たちは席についた。
玄関ホールもそうだったが、この部屋も壁床天井全てが真っ白で、つい物珍しさにきょろきょろしてしまう。
しばらくすると、先ほどの青年が魔族を2人、引き連れて入って来た。
「待たせたな! みんな集めて来たぞ」
「ご苦労さん。というかみんなって言っても2人だけじゃないか」
「ははは……。まあ定時集会でもないしな」
上座に立ち、青年は咳ばらいをひとつ。
「えー、では改めて! みんな、集まってくれてありがとう。何の用かは見ての通りだ。ククが無事に帰還し、新入りまで連れて来てくれた! そこで、新入りたちに諸々の説明をし、また同時にククからの報告もしてもらおうと思う。っと、まずは自己紹介だな! オレはゼン。レジスタンス全体のリーダーをしている者だ」
言い終えると、ゼンはジェシカさんの方に目線を送った。
「はいはい。あたしはジェシカってんだ。一応、ここ第三支部を纏めてる。支部長ってやつだ。普段はもっぱら上で鍛冶屋と見張りをやってるけどね。はい次、カラン」
カラン、と呼ばれた少女は「はあい」と返事をする。
「わたしがカランだよ~。えっとね~、他にはね~、ん~と、特に無いかなあ~。よろしくねえ~」
穏やかそうな見た目に違わず、のんびりとした口調で彼女は言い、かと思うと机に突っ伏して寝息をたて始めた。
「こらこら、まだ寝てはいけませんよ。すみません皆さん、彼女は少し過眠の気がありまして」
彼女に代わり、三つ編みの男性が続ける。
「私はリーシアといいます。この建物を管理しているので、何かあれば私までどうぞ」
そういえば、リーシアさんの声は入ってくる時に聞こえて来た声と同じものだ。
仕掛けの管理も彼がしているのだろう。
彼が会釈をしたのを見届け、ゼンは話を次に進める。
「とりあえず、以上が今ここにいる仲間たちだ! それじゃあ、キミたちの名前も聞いて良いか? まず……青髪のキミから!」
「あ、うん。初めまして、フウツって言います。ここに来たのはちょっとした事情があるんだけど……その辺の話は後でした方がいいか。とりあえず、よろしくお願いします」
新入り云々の訂正も、今するとややこしくなりそうだしね。
そんな感じで、他のみんなも順に自己紹介をしていく。
「私はデレーと申します。フウツさんに色目を使ったら殺しますので、そのつもりでお願いいたしますわ」
「……ヒトギラだ。できれば視界に入るな」
「あたしバサーク! 戦うのがだーい好き! よろしくね!」
「トキです。試毒に興味のある方はぜひお声がけくださいね。他意はありませんよ」
「ボクはフワリ。面白いものを見せてくれる人募集中」
「わしが稀代の若返り天才美少女、エラじゃ。ちなみにククはわしが育てたと言っても過言ではない」
「お姉さんはアクィラっていうのよ。うふふ、ここは可愛い子ばっかりで嬉しいわ。お姉さんがたっぷり可愛がってあげる!」
「俺はメイル。こっちは妹のキャルラだ」
「はじめまして、キャルラです!」
兄妹はまともだが、それ以外のみんなは良くも悪くも、いや若干悪くもいろいろ駄々洩れである。
「あー、クク? こいつらって味方なんだよね?」
案の定というか、引きつった顔でジェシカさんが問うた。
「み、味方です! 少々その、個性的なだけで……あまり悪い方たちではないので!」
「あまり」を付けなくてはいけないのが悲しい。
そうだね、嘘はつけないもんね。
「それと、この方たちは新入りではないんです。協力者……と言った方が正しいですね」
「ん、そうなのか? オレの早とちりだったんだな、すまん。では協力者というのはどういう?」
「えっと……皆さん、全て話しても良いですね?」
俺たちは各々頷く。
「わかりました。ゼンさん、こちらのお2人は見ての通り魔族です。が、他の方たちは人間界からやって来た人間、竜人、精霊なんです」
ククはそれから、ゼンたちにこれまでのことを説明した。
人間に危機を伝えようとするも、無条件に敵視されてしまい上手くいかなかったこと。
俺たちと出会い、『魔王の器』を探すために協力していたこと。
魔王が人間界を『黒き波』で蹂躙しようとしているかもしれないと判明したこと。
魔王が襲撃してきたこと。
俺が『魔王の器』であったこと。
騎士団やら竜人やらに追われる身となったこと。
そして魔王に対抗できる力を持つ『勇者』が見つかったこと。
話していくにつれ、ゼンたちは目を丸くしたり顔を険しくしたりと忙しそうであった。
「――そして、魔王を打ち倒すべく皆さんと共に帰還したというわけです。その、肝心の『勇者』を向こうに置いてきてしまったのですが」
「そうか……。いや、けど凄いぞクク! キミは最高のタイミングで帰って来たんだ!」
「と、言うと?」
「ふっふっふ。実はな、魔王は今、深い眠りについているとの情報があるんだ!」
「え、魔王様が!?」
ククは驚きの声を上げる。
「オレも最初は半信半疑だったんだけどな。ククの話を聞いて納得したよ。魔王はきっと、無理して人間界に行ったせいで体に負荷がかかり、回復に専念せざるを得なくなっているんだ」
「ふむ。道理であれ以来、何もしてこないわけじゃな」
エラがうんうんと頷いた。
魔王は以前、俺たちのことを監視していたかのような発言をしていたが、その監視も今はできていないのだろう。
もししているなら、力を扱えるようになってきた俺や『勇者』であるナオを放っておくわけがない。
「そういうわけで、動くなら今なんだ。3000年に渡るレジスタンスの悲願を達成するのに、これほどの好機は無いだろうな!」
「ん、3000年? ねえ、レジスタンスってここ最近できたんじゃなかったかしら?」
アクィラが言う。
確かに、ククは「20日足らずのうちに抵抗軍ができた」と話していた気が……。
「ああ、それは『新生』レジスタンスがーって意味だな。大元の組織は3000年前からあったんだよ」
「あら、そうなのね。『新生』ってことは、体制がガラッと変わりでもしたの?」
「いいや。先代の時に魔王側と争って大負けしたんだ。これで決着を! っていう戦いだったんだけど、そのせいで組織は壊滅状態、残ったのはオレたち含む十数人だけ。でも最近そこへ魔王の動きに反対する人たちがどんどん集まってきて、新生レジスタンスが誕生したって感じかな」
当時のことを思い出しているのか、ゼンは遠い目をしながら言った。
「ま、気になることがあったらリーシアに聞いてくれ。オレよかずっと詳しいからな。というわけで、オレは他の支部と本部に伝達に行ってくる! じゃ!」
気を付けて、という間もなく怒涛の勢いで部屋を去るゼン。
彼がレジスタンスのリーダーを務めているのは、この行動力ゆえでもあるのだろう。
同じ「リーダー」でも、ただ最初に募集をかけたからというだけの俺とは大違いだな、なんて思うのであった。




