秘密基地っていいよね
聞くところによると。
どうやらククが聞いていたのは、初期型ワープ魔法装置が爆発するあたりの会話だったらしい。
そのため、「ワープ装置が壊れたので帰還できない」「しかも何者かが襲撃してきた」ことは知っていたが、ナオのことは何一つ知らなかったというわけだ。
「す、すみません……私が確認を怠ったばかりに……」
「でも緑色の石があればいいんでしょ? だったらその辺の魔族からぶん取ればいいじゃない」
「いえ、それはちょっと厳しいです。あれは魔王様かその部下が直接渡して回っているらしいので……。魔王城に行けば予備があるのでしょうが、たぶん私が盗ったせいで警備が強化されているかと。……なんというか、何から何まで私のせいですね……」
どんどん尻すぼみになり、うつむいていくクク。
するとエラが近付き、ぽんと肩を叩いた。
「まあそれはそうじゃが、おぬしの失敗は師たるわしが補うものじゃ。あまり気にするでない。それより今は、やれることをやるとしよう」
「エラさん……!」
ククは顔を上げる。
エラもたまには良いこと言うんだな。
「わかりました。今はとにかく、レジスタンスのところへ向かいましょう!」
元気を取り戻したククは、「ついてきてください!」と歩き始める。
木々の間を抜けていくと、小高い丘のような場所に出た。
下には街が広がり、ずっとずっと遠くの方にはぼんやりと城らしきものも見える。
「ここは『東の大地』ですね。文字通り、魔界を5つに分けた時、東に位置する地域です。あのあたりにレジスタンスの第三支部がありますから、日が暮れないうちに行きましょう」
ククは指し示しながら説明し、誘導しようとする。
しかしそこでデレーが待ったをかけた。
「お待ちくださいまし、ククさん。私たちが人間だということは隠した方が良いのではなくって?」
「ああ、そうですね。疑われることはそう無いと思いますが、もし尋ねられたら魔人だということでお願いします」
「魔人?」
「はい。実は1000年前の侵略の時、何人か人間がこちらに連れて来られたんです。彼らの中には魔族と結婚する者もいて、その影響で今も時々、人間と同じ見た目で生まれてくる方がいるんですよ。そういう方のことを特に魔人と呼ぶんです」
つまり魔族と人間の混血、その子孫か……。
異種族間でも子どもができるなんて意外だな。
もしかして、体のつくりが似ているから可能なのだろうか。
「その、たまーに人間や魔人を嫌ったり見下したりする方もいるんですけど。とにかく、人間がこちらに来られるなんて誰も思っていませんから、堂々としていれば大丈夫です!」
そうして俺たちは丘を下り、市街へ出た。
慌ただしく走って行く人、入り口のランプに火を灯しだす店、逆に品物を中にしまい片付けを始める店。
人が魔族ばかりであるということを除けば、人間界と何ら変わりない夕暮時である。
そんな中、ぞろぞろと大人数で歩く俺たち――傍から見れば魔人7人とそうでない魔族4人――は、少しばかり浮いていた。
魔人がこれだけ揃っていることが珍しいのか、道行く人々は皆、ぎょっとした目でこちらを見る。
しかしただそれだけで、何をするでもなくすぐに目線を戻す人ばかりだ。
……なんだけど、なんか違和感あるなあ。
「どうしましたの、フウツさん。『なんか違和感あるなあ』みたいな顔をなさっていますわ」
「いや、街を歩いていても睨まれないし石も投げられないから、こんな感じなのかーって思ってただけ」
さも当然のごとく心を読んできたデレーに、つい自然に返答してしまった。
こう何度も読まれていると、否応なしに慣れてしまうものである。
俺たちは賑わう通りを抜け、少し静かな路地にやって来た。
先ほどとは違い、並んでいるのは商店や飲食店ではなく、工房のような建物ばかりだ。
そしてククは、ある鍛冶屋の前で立ち止まった。
「ここです」
彼女に促されるまま、俺たちは扉を開けて入って行く。
と、中で棚の整理をしていた女性、おそらくは鍛冶師がこちらを向いた。
「こんにちは。頼んでいた物はできていますか?」
ククが鍛冶師に尋ねる。
「おや、誰だったかな? 名前と注文したものを教えておくれ」
「『名前は関係ありません』。『折れない剣が欲しいのです』」
何やら意味深なことを言うクク。
対する鍛冶師はニヤリと笑い、奥の戸を開けた。
「そうかい。ならついてきな」
よくわからないが、レジスタンスの支部に行く道がそこにあるのだろうか。
戸の向こうには薄暗く狭い階段が続いており、俺は足を踏み外さないよう、慎重にククの後をついて行った。
「迷子になるなよ」
鍛冶師は言う。
階段が終わると、今度は地下通路が現れた。
通路もまた狭く薄暗いのだが、道が何本にも枝分かれしていて迷路のようになっている。
なるほど、それで「迷子になるなよ」か。
右に曲がり、三叉路の左の道を行き、階段を上がり、かと思えば下り。
方向感覚が完全に狂う頃、やっと鍛冶師は立ち止まった。
「『とっておきの得物ができたぞ』」
彼女がそう言うと、壁の向こうから声が返ってくる。
「『どんな物だ』」
さらに彼女はこう返す。
「『お前の想像とは反対のものさ』」
しばしの沈黙。
そわそわと見守っていると、どこかでカチリと軽い音がした。
「よし、行くよ」
彼女が石造りの壁の一部を押す。
するとズズズ……と壁が動き、また新たな扉が現れた。
フワリのアトリエの地下通路にある仕掛けみたいだ。
鍛冶師、そしてククに続いて扉をくぐると、そこは玄関ホールのような広間だった。
加えてお屋敷よろしく、左右にはそれぞれ3つの部屋、正面には左右に分かれる階段とさらに奥へ続くと思しき扉、階段を上がった先の2階にも部屋がズラリと並んでいる。
「こ、ここがレジスタンスの支部……?」
「はい、そうです」
「真っ白できれいだね、お兄ちゃん」
「ああ。立派な建物だな」
「ね、ね、それにすっごく広いよ! エラのお家よりおっきいかな?」
「そうじゃのう。わしの屋敷の倍くらいありそうじゃな」
「少なくとも、人が入れる面積は確実にこちらの勝ちですね」
「お姉さん、もう全然わからないんだけど、ここって地下なのかしら? それとも地上?」
「地下だな。だいたい3階分くらいの深さだ」
「あら、よくわかりますわね」
「ふうん、かなり頑丈そうだね。素材は何かな……」
わいわいと騒いでいると、2階の扉が勢いよく開いた。
「ジェシカ!」
かと思えば明朗な声がし、部屋から出て来たであろう人物が上から飛び降りて来る。
「どうした、何かあったか?」
鮮やかな赤色の短髪、金色の瞳。
背に大剣を携えるその青年は人間と変わらぬ見た目をしており、ククの言っていた魔人なのだとわかった。
「ん!? おお、ククじゃないか! 無事で何よりだ! む、後ろの人たちは新入りか? ようこそレジスタンスへ! キミたちを歓迎しよう!」
彼は矢継ぎ早に言葉を紡ぎ、俺の手を握ってぶんぶんと振る。
「距離が近くってよ!」
どう返したものかと考えている間に、デレーが俺を彼から引き離した。
初対面からの熱烈握手はアウトだったらしい。
「そうだよ、ゼン。あんたの勢いが良すぎてみんな困ってるじゃないか」
「す、すまん……」
鍛冶師に注意され、眉を下げる青年。
素直に反省するあたり、悪い人では無さそうだ。
「立ち話も何だ、会議室に行くよ。あたしもこいつらのこと知らないし、そこでじっくり聞かせてもらおうじゃないか」
「ああ、そうだな! オレはみんなを呼んでくるから、ジェシカは先に新入りたちを案内してやってくれ! よろしくな!」
「おいおい、まだ新入りと決まったわけじゃ……あー、もう行っちまった」
まったくせっかちな野郎だよ、と彼女はぼやく。
しかしその口は綻び、目は笑っているのであった。




