加勢、そして新たなる地へ
相手は4人。
いるかどうかわからないが、これ以上の人数になる前に突破したいところだ。
ワープ装置もきょじんくんも爆発したので、何でどこに逃げるかは白紙なのだけれど。
「大切な遺跡をわざと破壊するとは、なんて卑怯で残忍な奴らなんだ!」
「ひどい……地形まで変わってるじゃないか」
俺たちの後ろに広がる異様にさっぱりとした風景を見、竜人たちは怒りに震える。
それは本当にごめん。
「ルシアンを待つまでもないわ、私たちで片付けましょう!」
「ああ、そうだな」
竜人たちはぐっと腰を落とし、今にも飛びかからんとする。
俺たちも迎え撃つべく、各々構え直した。
――来る!
と思った、その時。
「慢心は狩人を獲物にする」
風に乗って、聞き覚えのある低い声がした。
かと思うと次の瞬間には、竜人たちが皆、バタバタと倒れていった。
いったい何が起きたんだ?
理解が追い付かずに唖然としていると、声の主がゆっくりと姿を現した。
2対の手を鎧のような殻で覆った、角のある男性。
彼は薄く、こちらに微笑みかける。
「久方ぶりだな、狼の少年」
「メイルさん!」
クアナで出会った魔族にして、妹を守るために人間界で暮らすお兄さんだ。
エラの屋敷にいるはずだったが、どうやら駆け付けてくれたようである。
「こんにちは! わたしもいるよ」
その妹、キャルラも後ろからひょこりと顔を出した。
この2人がいるということは……。
「皆さんご無事でなによりです」
思った通り、同じくエラ邸で暮らすククも来ていた。
彼女の姿を見たエラは、パッと表情を明るくする。
「おお、ククか!」
「はい、ククです! エラさん、その……」
「皆まで言うな、わしに聞いてほしいのじゃろ? 良い良い、存分に尋ねてやろう。さあクク、おぬしがいかにしてこの状況を察知したのか、わしに教えておくれ」
「はい!」
ククは頬を赤くしながらも、切々と語り出した。
「実はですね。遠話機を改造して、相手側の遠話機を勝手に起動させて盗み聞きができるようにしてみたんです! それで試しにエラさんの遠話機に繋いでいたら、どうも竜人に追われてるみたいだってことがわかったので。エラさんが持ち歩いている指標釘を利用して、急ぎワープしてきたというわけです」
「ふむ、遠話機を改造とはやりおるのう! して、その改造遠話機はどこじゃ?」
「それが……式が甘かったのか、負荷がかかりすぎて壊れてしまいまして。この通り、真っ二つです」
「ほうほう。いや、しかし強制的に起動させ盗聴するとは、なかなか良い発想じゃったぞ!」
「え、えへへ……」
満足げに、そして照れくさそうにククは笑う。
なるほど、彼女は自分の成果をエラに聞いてほしかったらしい。
「ともあれ、助かりましたわ。また竜人たちがやってくる前に移動しましょう」
「あ、それなんですけど」
ククが鞄を漁り、蓋の無い小箱を取り出す。
まだ何かあるのだろうか。
「これは何じゃ?」
「えっと、中に入れた魔法道具の効果範囲を広げることができるものです」
「それはまた面白いものを作ったのう。おぬしの範囲選択魔法を基にしてあるのじゃな?」
「はい。それで、ひとつ提案なんですけど……魔界に、行きませんか?」
「魔界!?」
予想外の単語に、つい素っ頓狂な声が出る。
けれどククはふざけているわけでもなんでもなく、真剣に言っているようだった。
「今や町の人々までもが『魔王の器』を恐れ、憎んでいます。こうなってしまってはもう、事態の好転は望めません。ならばいっそ、魔王を打ち倒し根本から解決するのはどうでしょう?」
あの魔王を倒す……。
そうか、以前は成すすべなく負けてしまったが、今なら『勇者』がいる。
それに俺も魔力を扱えるようになってきているのだから、勝ち目はあるはずだ。
「うん、俺は良いと思う。隠れたり逃げたりするのにも限界があるだろうしね」
「なら私も賛同いたしますわ」
「元凶を断てるなら、それが一番だ」
みんな賛成してくれるようだ。
メイルさんも、少し考えてはいたがやがて頷いた。
「どうあれ、いずれは成すべきことだ。魔王の凶行を止めなくては、魔界にも人間界にも平和は訪れない。私たちも魔界へ行こう」
「? お兄ちゃん、もうお家に帰るの?」
「ああ。任務はもうお終いだ」
メイルさんはキャルラに優しく語り掛ける。
「……皆さん、ありがとうございます。向こうに行けばレジスタンスの仲間がいますから、彼らと合流して協力しましょう」
「わかった。もしかしてその道具って魔界に移動するための?」
「そうです! ワープ魔法と違って、緑色の石は元から対象が固定されているため私の魔法そのままでは複数人を移動させることはできません。ですので、この道具を使って強制的に範囲……つまり対象を増やそうというわけです」
よくわからないけれど、上手く使えるようにしたのか。
なんだか良識のあるエラって感じだ。
「では追手が来る前に行きましょう。メイルさん、キャルラさん、緑色の石をここに」
「了解した」
「はあい」
カランカラン、と小気味の良い音をたてて3人分の石が小箱に入れられる。
「行きます!」
ククが小箱に魔力を流す。
パリンと石の割れる音。
すると淡い光が俺たちを照らし、輪郭をぼかしていくのがわかった。
同時に周りの景色も滲んでいく。
一瞬、意識が闇に溶け――気が付くと眼前に広がっていたは爆発による窪地ではなく、薄暗い空に覆われた湖畔であった。
「はー、良かった。無事成功です」
ククがほっと息をつく。
「ここが、魔界……」
あんまりにもあっさり移動したものだから、いまいち実感が湧かない。
空が赤く、見たことのない植物が生えているくらいで人間界のそれとそう変わらない景色は、ここが生き物の住む、れっきとした「世界」であることを物語っていた。
「じゃあ早速、仲間のところに案内しますね! ええと、ここから近い支部は……」
「ねえ、ちょっといい?」
フワリがこれからの段取りを考え出したククに声をかける。
「さっきさ、緑色の石3つとも使ったよね」
「? はい。1つ2つだとどうしても足りなかったので」
「……ナオを迎えに行けなくない?」
言われて、俺はハッとする。
そうだ、緑色の石の力を利用して来たんだから、あれが無いと向こうに行けてもこっちに来られない。
石を入れた段階で気付くべきだった!
……いやでも、ククのことだし何か代替の方法を用意しているだろう。
俺は焦りかけた心をまた落ち着かせた。
だがククは、心底不思議そうに首を傾げる。
「ナオ? って誰ですか?」
「あれ、名前知らなかったっけ? ほら、『勇者』のあの子だよ」
名前を呼んでいるところは聞いていなかったのかな、と俺は彼女にナオのことを説明する。
しかし彼女の反応は思いもよらぬものだった。
「え……『勇者』って、見つかったんですか?」
「ん?」
待て待て、その口ぶりはまるで。
まるで『勇者』が味方になってくれたことを知らないような。
俺はおそるおそる尋ねる。
「えーっと、『勇者』が見つかったから魔王を倒せるかもって話じゃ……」
頼むクク、そうだと言ってくれ。
俺は祈るように答えを待つ。
が。
「…………あの、初耳です」
帰って来たのは、そんな蚊の鳴くような声であった。
これにて前半戦終了です(多分)! 読者の皆様、いつも本当にありがとうございます。良ければちょこっと感想なんか書いてくださると非常に励みになります。前にも言いましたが強欲なのでまた言います。
ともあれ引き続き、当作品をお楽しみいただけると幸いです!




