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危険物の管理、怠るべからず

 俺は先ほど……きょじんくんが爆発した時のことを思い出してみる。

 あの時の位置関係は、ほぼ一直線上にきょじんくん、俺とデレー、他のみんな、謎の物体といった感じだった。


 謎の物体が壊れるくらいの爆発ということは、中間にいる俺たちもただでは済まないはず。

 しかし、実際のところは全員、爆発による怪我は無かった。


 それはなぜか?

 考えられる理由はひとつ。

 俺がなんらかの魔法を発動させて爆発をしのいだから、だ。


 魔王の力の暴走は、あの爆発を境に収まった。

 最初は暴走によってできた物体が消えたからだと思っていだが、ではこういう仮説はどうだろう。

 「火事場の馬鹿力的に力のコントロールに成功した。だから暴走が収まったし魔法を使うこともできた」。


 たぶん、こういうことではなかろうか。

 俺は体の中で魔力を巡らせてみる。

 今の感覚からしても、以前より魔力が言うことを聞いてくれている気がした。


 加えてこのジュネの街に来ている竜人は、目の前にいる十数人のみ。

 隠れている者がいたとしても、そう多くはないだろう。


 俺は一触即発の空気の中、そっとナオに耳打ちをする。


「ナオ、君まで竜人を敵に回すことはない。味方をしてくれるっていうなら、騎士団の方に行って進行を止めてほしい。ここは俺に任せて。今なら魔王の力を扱える気がするからさ」


「駄目」


「だっ……!? ど、どうして?」


 かっこよくキメたつもりが即却下。

 予想だにしていなかったので同様してしまった。


「魔王の力を使ったら、その分、周囲の人間への影響も強くなるでしょ。そしたら周囲はますますあんたを嫌うし、正常な判断力も失っていく。前までのおれみたいにね。これ以上、嫌悪憎悪が増したらみんな何をしだすかわからないよ」


 じりじりと竜人たちを牽制しながらナオは言う。

 確かに、それもそうだ。


「わかった、じゃあ力は使わないように戦うよ」


「いや、それより良い方法がある」


 ふわり、と下から風が巻き上がる。

 この感じは、まさか。


「竜人たちはおれを殺せない。だったら、おれが戦うのが一番だ」


「待っ――」


「あんたらが飛んできて墜落するの、実は見てたんだよね。あの魔法、真似させてもらうよ」


 俺たちの体が勢いよく持ち上がった。

 ナオに出会う直前、人攫いを追いかけるためにヒトギラが使った魔法だ。


「じゃ、健闘を祈る。それと」


 今まで酷い態度ばっかりとって、ごめんなさい。


 ……それが最後であった。

 俺たちは森の上空、そして北へ北へと飛ばされ、ナオの姿はあっと言う間に見えなくなる。


 やがて着陸したのはジュネの街の北の端、俺たちが拠点としていた建物だった。


 ずっと南の方から、わずかに争う音が聞こえてくる。

 俺はそちらに向かって足を踏み出した。

 が、ヒトギラに腕を掴まれて止められてしまう。


「何やってるんだ馬鹿、さっさと逃げるぞ」


「で、でもナオが……! 『勇者』っていっても目覚めたばかりだし、1人じゃ危ないよ!」


「お前が行ったら本末転倒だろうが。竜人も言ってたろ、殺さず捕縛すると。だったら本気を出してはこない。あいつの心配より自分の心配をしろ」


「そうだよフウツ。だってルシアン、絶対にウソつかないもん! だからナオは大丈夫だよ。ね!」


 バサークがにこりと笑う。

 ルシアンと付き合いの長い彼女が言うのなら、それは本当なのだろう。


 俺は少し考え、そして頷いた。


「……わかった。そうだよね、ナオの助けを無駄にはできない」


「ようし、話は済んだようじゃな」


 エラが建物の中から出てくる。

 手には初期型のワープ装置。

 どうやら俺がごねている間に、それを取りに行っていたようだ。


「ではわしの屋敷に移動するぞい! ふっふっふ、ようく見ておくがよい。この初期型は若い頃のわしがちょっと調子に乗って魔法発動時の演出を付けまくったからのう、それはもう華やかでかっちょいいぞ? もうめちゃくちゃ凄い、試しに王子に見せてやったら腰を抜かして以後わしが王宮を出禁になるくらい凄い」


「いいからさっさとしろ」


「む、そう急かすでない。心の準備は良いか? さあ行くぞ、まばたき厳禁じゃぞ。耳かっぽじって目を見開いておくのじゃ」


 ニヤリと笑い、エラは装置に魔力を込める。

 すると装置が七色に発光し始めた。


「まっ、眩しい!」


 俺は思わず目をつむる。

 暴力的なまでの光が瞼を貫通し、視界を赤く染める。


「ほれ目を閉じるでない、まだまだ序の口じゃぞ!」


 言われて仕方なく薄目で見ると、今度はいくつもの魔法陣が現れ、集まり、新たに大きな魔法陣を形成した。

 かと思えばその魔法陣に光が収束し、柱となって天高く伸びていく。


「へえ、面白いね。光を使った作品……いいかもしれない」


 通常運転を続けるフワリはさておき、激しく明滅する光景に俺たちの目はそろそろ限界であった。

 トキに至っては完全にバサークを盾にして隠れている。


「そろそろじゃぞ、ここからが肝じゃ!」


 光の柱は細く分裂してぶんぶんと空をかき回し、四方八方を照らす。

 やがて無数のそれらは4本に纏まり、色もそれぞれ赤、青、緑、黄となった。


「これは確か四元素を表現して――お?」


 何に気付いたのか、エラが間の抜けた声を出す。

 嫌な予感しかしない。


 エラの手元に目を向けると、装置が小刻みに震えていた。

 それと連動し、魔法陣やそこから出る光の柱も揺らぎ出している。


「エ、エラ?」


「うーむ、これはあれじゃな。爆発する」


 言い終えるが早いか、装置が先ほどとは明らかに異なる光を発した。


 叫ぶ間もなく響き渡る轟音。

 地面がひっくり返るような揺れ。


 土煙が晴れた時、俺たちの目の前に広がっていたのは更地を通り越して窪地であった。

 中心部よろしくえぐれたそれは、俺たちは無事だったがそれは単にヒトギラが障壁を張ってくれたからであり、決して爆発が弱かったからではないのだと言外に語る。


「おいエラ……次やったらお前だけ外に放り出すからな……」


 当然のごとく、めちゃくちゃキレているヒトギラ。

 次があるだけ優しいものである。


「もう爆発はお腹いっぱいですわ……」


「いやー、すまんすまん。色々盛りすぎて次使ったら負荷で爆発するからあそこに隠しておったのを、すっかり忘れておったわい」


「忘れないでくださいよそんな大事なこと……。というかエラさん、今ので確実に居場所が割れたので下手したら」


「見つけたぞ!」


 ――と、トキの言葉を遮って何者かが上から降ってきた。

 言わずもがな竜人だ。

 続けて数人、同じく上から飛び降りてくる。


「ほらもーこうなるじゃないですか」


 言わんとしていたことが起こり、トキは大きく溜め息を吐いた。


「さっきの子たちとは顔ぶれが違うわね。別動隊かしら」


「どっちにしろ、ぶちのめして差し上げるだけですので問題ありませんわ」


 まあ見つかってしまった以上、戦って逃げる隙を作るしかない。

 俺は万が一にも魔力を出さないよう気を付けつつ、剣を構えた。


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