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光る! 鳴る!

「はー面白。してフウツ、自力で戻せそうか?」


「無理っぽい……あと別の意味でまた戻しそう」


「ならまあ、日暮れくらいまで耐えることじゃな! したらば自ずとコレは消えるじゃろう」


「自ずと消える……?」


 うむ、とエラは頷く。


「コレは凄まじく脆い。外から見てわかるくらいに、先ほどからじわじわと崩壊し続けておる。魔法式も何も無いまま、偶発的に作られたのじゃから当然じゃな」


「言うなれば、大量の土を適当に盛っただけの状態ですね。コレには知性や攻撃性が無いようですし、放っておいても問題ないでしょう」


 そうか、それなら安心だ。

 俺は胸をなでおろした。

 しかし俺とは対照的に、デレーは異を唱える。


「問題ありますわ! コレがあるからフウツさんが苦しんでいらっしゃるのではなくて? 今すぐ切り倒した方がよろしいですわ」


「ん? ああ、フウツの体調不良は暴走が収まらん限り続くじゃろうから、コレがあろうとなかろうと関係ないぞい。まあ風邪が治って力を収める機能が回復するまでの辛抱じゃな」


「むむ……そうですのね。では私にできるのはフウツさんから片時も離れずに寄り添い看病をすることのみ、と……」


 普通に心配してくれているだけだろうし別におかしなことは言っていないのだが、なぜかデレーが言うと怖い。


「お望みでしたら、風邪薬くらいは作ってあげないこともないですよ」


「え、トキって薬作れるの!? あたし知らなかった!」


「もちろんです。そもそも、毒と薬の違いは紙一重ですからね。……いやちょっと待ってください。バサークさん、僕この間あなたに傷薬をあげましたよね?」


「そうだっけ?」


「そうですよ! あなたは少し目を話すといっつも細かい擦り傷切り傷を作ってくるからキリがない、魔力節約のためにもそれくらいの傷なら薬を使ってくださいって言ったでしょう!」


「あー、そんな感じのことを言われたような?」


「この鳥頭が……っ! だいたいあなたはいつもいつ、も――」


 急にトキの言葉が勢いを失う。

 加えて視線がバサークから離れ、何かを見上げる形になった。


 俺はつられてトキの見ている方、つまり俺の背後を見る。

 そこには変わらず、俺が出した謎の物体があった。

 しかしそれが、なぜか禍々しく発光している。


「光ってるね」


「光ってるな」


「これ爆発とかしませんよね?」


 未だ襲い掛かってくるような気配は無いが、不穏な雰囲気を醸し出している。


 しばらく何とも言えない気分で光って動くそれを眺めていると、にわかに大きな音がしだした。

 弦を擦るような、また獣の唸り声のような大きな音だ。

 俺は思わず耳を塞ぎ、コレから離れようと踵を返す。


「……え」


 すると俺の目に飛び込んで来たのは、地に倒れ伏すみんなの姿だった。


「ちょ、ちょっとみんな、どうしたの!? 大丈夫!?」


 一瞬の思考停止の後、嵐のような困惑がやってくる。

 サッと血の気が引いたのが自分でもわかった。


「フウツ、さんは……無事です、のね」


「デレー! どこか痛いの!?」


「いい、え。ただ、魔力を吸い取られた、ようですわ」


 途切れ途切れに彼女は言う。


「魔力を……!? まさかあれが?」


「おそらく、そうでしょう、ね。一気に、多量の魔力が、出て行ったので……皆さん、気絶してしまった、のかと」


 急激な魔力の消費による気絶。

 いつかヒトギラがなっていた状態と似たようなものだろうか。


「わかった。とにかく、あれをなんとかすればいいんだね!」


 元凶が明らかならば話は早い。

 このデカブツは脆いとエラたちが言っていたし、強い衝撃を与えれば壊せるはず。


 俺は剣を構え、思い切り攻撃してみる。

 しかし意外にも謎の物体は硬く、鈍い音が響くだけであった。

 いくら脆いと言えど魔王の力でできた物体だ、これっぽっちの力では無理らしい。


「もっと強い衝撃……そうだ!」


 きょじんくんを使えばいけるかもしれない。

 俺は拠点の方に走る。

 エラたちが動作確認をしていたのか、きょじんくんは案外近くにあった。


 急いできょじんくんに乗り込み、見様見真似で操縦室中央の机に手を当てる。

 俺から溢れ出ている魔王の魔力を使うんだ。

 魔力の扱い方なんてわからないが、やるしかない。


 掌に意識を集中させると、そこにじわりと熱に似た感覚が集まって来た。

 動け、動けと念じる。

 すると、鈍い音をたてながらきょじんくんが動き出した。


 正面の方眼紙を見、みんなの位置を確認する。

 みんなを踏みつぶさないよう、裏側から回らなければ。


 あとは俺の集中力がどこまで持つかだ。

 依然として頭痛と吐き気はあるし、魔力も少しずつ流すので精一杯である。

 周囲に大量の魔力があるのは認識できるが、それを上手く扱うことができないのだ。


 ……なんて、弱音を吐いている場合ではない。

 今度こそ間に合わせなければ。


 そうしてあと少しで、という時。


「うわっ!?」


 きょじんくんが大きく揺れた。

 何かが物凄い勢いでぶつかってきたようで、俺はその衝撃でこけてしまう。


 しまった、と思った時にはもう遅い。

 俺が机から手を放したことにより踏ん張る術を無くしたきょじんくんは、何かの激突によりバランスを崩したままである。


 空を飛んだ時と同じ機能が働いたのだろう、操縦室自体はひっくり返ることが無かった。

 だが聞こえてきた轟音からして、きょじんくんは横に倒れてしまったのだろう。


 さらにどこかの部位が破損したのか、再度机に手を当て操縦を試みるも動かない。


 こうなってはきょじんくんを使うことは不可能だ。

 俺は別の手段を探すべく、きょじんくんから降りる。


「フウツさん……!」


 さてどうするかと辺りを見回していると、デレーがふらつきながら駆け寄って来た。


「わ、駄目だよデレー、じっとしてて」


「申し訳、ございませんわ。ですがこれを、フウツさんにと」


 彼女は縦長の箱を俺に手渡した。


「これに、魔力を込めてくださいまし。アクィラさんがエラさんに注文していた、追加機能……魔力吸収魔法が発動する、はずですわ」


 きょじんくんに組み込まれる予定だったものか。

 不幸中の幸いだが、きょじんくんをアレの近くに持ってくることはできている。

 この距離ならどうにかできそうだ。


「ありがとう。絶対、成功させてみせる」


 俺は箱に神経を集中させる。

 魔法式そのものはできているのだから、大丈夫。

 落ち着いて、さっきと同じ要領で。


「っ来た!」


 掌から伝わった魔力が、装置の中を駆け巡るのがわかった。

 魔力はそのまま、きょじんくんの方へ向かって行く。


「やりましたわね!」


「うん!」


 きょじんくんが光りだす。

 魔法が発動し始めているのだ。


 またそれに呼応し、手元の装置から声がする。


『爆発までー、あと10秒ー』


「へ?」


 声はこのタイミングで聞かせられるよう、あらかじめ何かの魔法を利用して装置に組み込まれたものだろう。

 それはいい、いつものごときエラの発明だ。


 問題はその内容である。


「爆発? 爆発って言った?」


「あ、あら?」


『8ー、7ー、6ー』


 俺たちの心中などお構いなしに、カウントダウンは無慈悲に進む。


「おかしいですわね、確かにエラさんがきょじんくん用にと……」


「とっ、とにかく逃げよう!」


『3ー』


「そう、ですわね!」


 謎の物体の方へ、俺はデレーの手を引いて一目散に走り出す。


『2ー』


 正直焼け石に水だろうけど、少しでも離れた方がマシだ。


『1ー』


 そしてゼロ、の声はせず。

 代わりに地を揺るがすほどの轟音が、辺りに響き渡ったのであった。


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