ジュネの街
俺たちは傷の手当てを行いつつ、エラの話を聞いた。
きょじんくんの肩には毒矢、右腕には石化ビーム砲、左腕には剣が仕込んであることが判明した。
それぞれトキ、フワリ、ヒトギラの案を採用したものである。
付け加えると、石化ビーム砲は本当に相手を石にするわけではなく、拘束魔法を撃ち出すものとのことだ。
また、単純な歩行だけでなく、人間のように蹴りやパンチを繰り出すことも可能。
動く速度はさすがに少し遅いものの、破壊力は抜群である。
なにせ鉄の塊なので。
とまあこのような戦闘機能も盛り込まれてはいるが、さすがにいざ使うとなると魔力消費量が馬鹿にならない。
複数人が同時に魔力を込めないと間に合わないほどらしい。
よってエラ曰く、よっぽど追い詰められない限りこれらの機能は使わない予定だ。
対してよく使うことになりそうなのが、飛行機能周辺だ。
どうあがいても鉄人形、きょじんくんの中からは外の様子が見えない。
そこでエラは、そこを補う機能を付けた。
操縦室の壁にある方眼紙がそのひとつだ。
方眼紙には特殊な魔法がかかっており、きょじんくんの周囲の生体反応? を黒い丸で示す。
例えば乗り込んだ時にあった2つの黒丸は、カターさんとナオの位置を示していた。
さらに、それだけではやはり心もとない、と外の景色を直接見る装置も。
操縦室のあちこちに設置してある管がそれだ。
管はきょじんくんの目や足など各部分に繋がっており、中に鏡を入れることで実際にそこから見える景色を、管を覗くことで確認できるという寸法である。
そこは魔法じゃないんだ、と思ったが「天才はひとつの方法にばかりは頼らぬものよ」らしい。
「であるからして……おっと、もうそろそろ目的地じゃ」
どのくらい経ったか、エラはそう言うとまた中央の机に手を当て、きょじんくんを着陸させた。
「どれ、確認するとしよう。ちゃんと残っとると良いがのう……」
ひとりごちながら彼女は外に出て行く。
どうやらここには、何かを求めて来たようだ。
俺たちも続いてきょじんくんの外に出ることにした。
狭い階段を通り戸を開ける。
途端に、ひやりとした風が舞い込んで来た。
「わ、なんだか涼しいね」
「そうですわね。もうすぐ夏だというのに……よほど北の方なのでしょうか」
足元に気を付けつつ、地面に降り立つ。
見るとそこは、山間の少し開けた場所のようだった。
山ということは竜人の里があるかもしれない。
俺はぐるりと辺りを見回した。
みんな怪我の手当ては済んだけど体力は戻っていないんだ、お願いだから竜人とかいませんように。
「おーい、デレー! ちょっと来とくれー!」
木々の隙間を縫ってエラの声が飛んでくる。
名指しで呼ばれたデレーは首を傾げながらも「今行きますわ!」と駆けていった。
鬱蒼とした森の中は、外からではよく見えない。
何だろう、気になるな……。
「ここを斧でがつんとやってほしいのじゃ」
「森林伐採に目覚めましたの?」
「違わい。まあ斬ったらわかるから、思い切りやっとくれ」
「はあ、わかりましたわ」
漏れ聞こえてくる声からして、木を切り倒すつもりなのだろうか。
そんな予想は的中し、ややあってガンッという音、次いでメキメキと木がへし折れる音がした。
「おお、あったあった。よいせっと……ご苦労、デレー」
少し間を置き2人が出てくる。
エラの手には、お目当ての品らしき直方体があった。
かなり大きく角材のようなそれを掲げ、彼女は言う。
「やあやあ、喜ぶが良いぞ皆の者。これなるは初期型ワープ魔法発動装置、えーっと……ナントカカントカじゃ」
名前は忘れたらしい。
初期型と言っているし、随分と前に作ったのだろう。
「ああ、それを取りに来たんですね。木の中に隠してあったんですか?」
「そうじゃ。木とは言っても半分ハリボテじゃがの。ともあれ、これで移動がまた楽になる。きょじんくんではどうしても目立つからのう。さて、もう少し進むぞい」
エラに促され、俺たちは再びきょじんくんに乗り込んだ。
きょじんくんは森の中をゆっくりと歩いて行く。
日は傾き始めており、夕陽を反射する鉄の体はさぞ眩しいだそうな、とどうでもいいことを思った。
しばらく坂を下り続け、平地に着いたところできょじんくんはぴたりと動きを止める。
「ふう、ぎりぎり辿り着けたな。以前のわしめ、魔力を必要分ちょうどしか溜めておかんとは、いったいどういうことじゃ」
過去の自分にぷりぷり怒るエラに続いて、再び地上に降りる。
そこは相変わらず山の中であったが、さきほどとはひとつだけ大きな違いがあった。
「建物がたくさん……いや、廃墟?」
「ああ、どうやら街があったようだな」
山に囲まれた平地に規則正しく廃墟が並んでいる。
ヒトギラの言う通り、かつて人が住んでいた場所のようだった。
「そうとも。ここは1000年前の戦いで滅びた街じゃよ」
「第八領地北の盆地……ジュネの街ですか」
「ジュネの街?」
「昔はドラゴンがいたでしょう。人は平地に、ドラゴンは山に。2つは親交が深い一方、住む場所は分かれていました。ですがジュネは両種が共に暮らしていたとされる街なのです。今は遺跡ですけどね」
初めて聞いたけれど、有名で重要そうな場所であることはわかった。
「あれ、でもドラゴンって寒さに弱いんだよね? こんな北で暮らせたの?」
「いいえ、冬は眠りについていたそうです。代わりに夏は風を起こし、暑さを和らげてくれたとか」
「ちなみに! 学者が頻繁に訪れていたのですが、数十年前に謎の大爆発が起きて以来、立ち入り禁止となっておりますわ」
デレーが割り込むように解説を付け加える。
謎の大爆発、か。
「…………」
俺たちはなんとなくエラの方を向く。
「ねえ、まさかとは思うけど……」
「ん? 爆発ならわしがやったぞ!」
「普通に重罪じゃない!?」
1000年前の大事な遺跡で爆発なんて、学者が聞いたら憤死しそうだ。
「む、別にわざとではないぞい。すこーし忍び込んで実験してたらうっかり街の中心が吹き飛んだだけで」
「国王にチクったら死刑になりそうですね!」
「じゃろうな。あやつ遺跡とか大好きじゃし」
うっかりで遺跡破壊、国王様を「あやつ」呼ばわり。
大物通り越してもはや厄災ではなかろうか。
「ねえエラ、それでここに来たのはなんで? 貴女の爆発の罪を告白するためじゃないでしょ?」
「もちろん。えー、諸君。我々は現状、いくつか問題を抱えておる」
エラは手を後ろで組み、その場を行ったり来たりしながら話す。
「ひとつ、騎士団に拠点を抑えられた。ふたつ、きょじんくん操縦またはワープのための魔力が無い。みっつ、きょじんくんは知っての通りであるし、ワープ装置も初期型のため膨大な魔力を必要とする。よって我らは、少なくとも魔力が回復するまでどこかで身を潜めねばならん。はいというわけでここジュネの街で数日間過ごしまーす。以上。わしは寝る」
そこまでほとんど一息で言うと、エラは地べたに寝転んだ。
さらに、数秒もせず寝息をたて始めた。
「ほ、ほんとに寝た……」
表に出ていなかっただけで、相当疲れていたようだ。
思えば拠点からここまで彼女に頼り切りだったな……。
「えーと、とりあえず屋根のあるところに行こうか」
「そうだね。あ、エラはボクが担いで行くよ」
ジュネの街に住んでいた皆さん。
彼女は破壊的でもあるけれど、時々すごく良いこともするし根はきっと良い人です。
どうか許してあげてください。
……いやちょっと無理か。
許すまでは行かなくてもせめて見逃してください。
そんなことを思いながら、俺はジュネの街に入って行くのであった。




