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手口が詐欺師のそれ

 トキは答えない。

 全力で目を逸らし、女性の言葉に反応すまいとしている。


「ねえあなた、トキよね? ね? どうして女の子の格好をしているの?」


「…………」


 「誰ですかそれ?」としらばっくれさえせず、沈黙を貫くトキ。

 それもそうだ、ただでさえ顔を見られたのに、声まで出してしまったら完全に逃げ場が無くなる。


「申し訳ありませんが奥様、どなたのことを仰っておりますの?」


 それを察してか、デレーが助け舟を出した。


「その子よ、金髪の子。ねえ、どうして黙っているの? トキなんでしょう?」


「いいえ、この子の名前はルゥラですわ。私の親戚の子で、故あって口がきけませんの。それに、とても人見知りなので……どうかそう問い詰めないでくださいまし」


 さすが貴族、弁が立つ。

 少しも言い淀むことなく、見事に即興で事情を捏造してしまった。


 それに呼応するように、トキもデレーの服の裾を掴んで不安げな表情をする。

 鮮やかな連携だ。


 しかしなおも女性は食い下がる。


「嘘よ、私が息子の顔を見間違えるものですか。その横髪の白くなっているところだって、トキが魔法に失敗してできたものよ。他の子についているはずがないわ!」


「ルゥラのこれは毒薬を作る実験の事故で変色したのですわ」


 これについてはデレーが正しい。

 というかトキ、親にはそうやって言い訳してたんだ。


 女性が言葉に詰まった隙を突き、デレーはさらに追い打ちをかける。


「この子は魔法ではなく、毒に興味がありますのよ。なんなら毒について、筆談で解説していただきましょうか? 毒好きの子どもなんてそうそういないでしょう。そうすれば、あなたの息子さんとは別人だとご理解いただけるかと」


「で、でも……本当に、トキと瓜二つで……」


「奥様。この世には他人の空似というものがございますわ。それはきっと、主が結んだ運命の証。トキさんがどのような方かは存じ上げませんが、いつかルゥラと出会う運命にある方なのでしょう」


 追撃をするかのように、宗教に絡めて話を自然にすり替える。

 少なくとも人間界には、信心深い人に対し悪印象を抱く人なんてほとんどいない。

 斜に構えた若者ならまだしも、相手は成熟した大人だ。

 効果は少なからずあるだろう。


「もしよろしければ、息子さんのことを聞かせてくださいまし。いずれルゥラと巡り合う運命の子……きっと清廉潔白な魂を持つ子なのでしょう」


 駄目押しに「良い話」風の雰囲気を醸し出す。

 優しく歩み寄る態度はまさに善人。

 ここに「歩み寄りは善、拒絶は悪」が成り立ってしまった。


「…………」


 女性は押し黙る。

 デレーの完勝だ。


「息子は……トキは、とても優秀で利口な子です。大領地内で最も優れた子として王宮に呼ばれたこともあったんです」


「それは素晴らしいですわね。奥様も鼻が高いでしょう」


「ええ、自慢の息子です。しかし……王宮から帰った翌日、トキは忽然と姿を消してしまいました。すぐ騎士団に通報して捜索しましたが見つからず……今日もこうして王都に出向き、手がかりを探していたのです」


「まあ……そのようなことが」


 デレーは口元を覆って、驚き悲しむ顔をして見せた。

 白々しさが留まるところを知らない。


「言いがかりをつけてごめんなさい。トキを探すのに必死になって、冷静さを失っていたわ。ルゥラちゃんもごめんなさいね」


「謝らないでくださいまし。子を想う親の気持ちは何より美しいものですわ」


 ルゥラ、もといトキもこくりと頷く。


「息子さんが無事に見つかること、私どもも祈っておりますわ」


「ありがとう。あなたに会えて良かったわ。これも主の思し召しね」


「ええ。それでは、ごきげんよう」


 女性は幾分か晴れやかな顔をしている。

 これで心置きなく場を後にできそうだ。

 デレーには感謝してもしきれないな。


 と、その時。


「こんにちはシックさん」


 数人の騎士がやって来て、女性――シックさんに挨拶をした。


「こんにちは騎士様。見回りご苦労様です」


「いえ、仕事ですので。そういうあなたこそ、今日も……その、捜索活動に励んでおられるようで」


 どうやら息子を探すシックさんのことを知っているらしい。


 ますますタイミングが良い。

 新たな会話相手も来たことだし、注目されないうちに去ろう。


「どうか心身に無理の無いよう――おや?」


 騎士の目がトキに行く。


「金髪の少年……?」


 さてはこの人も勘付いたか。


 でも今度はもう心配いらない。

 先ほどと同じように嘘の事情を話せば良いし、シックさんも味方に付けている。


 さあ何とでも言うといい、デレーが相手だ!

 なんて凄くカッコ悪いことを思っていると、騎士は予想外の言葉を口にした。


「それに、派手な服の青年……黒髪の青年、薄ピンクの髪の少女、マントの少女、少女に連れ添う謎の女性……」


 俺たちを1人1人、確認するように指差す。

 またもや嫌な予感がするのは俺だけか。


「そして……エラ!」


「えっなんでわしだけ名指し!?」


 突然の名指しに驚いてうっかりエラが声を上げる。

 その言葉を聞いた騎士の目に、確信の色が宿った。


「この口調、間違いない! クアナからの報告通りだ! 肝心のフウツはいないが、こいつらが指名手配の冒険者パーティーだ!」


「クアナ……あやつらか! ムキーッ! これだから最近の若いもんは~!」


 どうやらクアナの騎士がエラに気付いていたようだ。

 容姿は違えど、特徴的な喋り方とその強さからバレてしまったのだろう。


「言ってる場合ですか! ほら逃げま――あ」


 口を滑らせたエラに苛立ってか、トキも勢い余って声を出してしまう。


「や……やっぱりトキじゃない!」


 当然のごとく真実に気付いたシックさんが、そう叫んだ。

 せっせと作り上げた退路が一瞬にして崩壊する。


「やっちゃったね」


「ねー」


「そこ2人、うるさいですよ!」


 顔を見合わせるフワリとバサークに怒るトキ。

 「助けてやった恩を仇で返しおって!」とこの場にいないクアナの騎士に憤慨するエラ。

 ヒトギラは遠い目をし、アクィラとデレーは呆れ返っている。


「気を付けろ、第四部隊の話だと一瞬で姿を消すらしい」


 騎士たちは剣を構えて俺たちを取り囲み、シックさんはわなわなと震えている。

 騒ぎを聞きつけた野次馬もとい市民が群がり、場が混沌としてきた。


「いいか、おとなしくしろ。フウツの身柄さえ引き渡せば、君たちの罪も軽くなる」


「舐めないでくださいまし! よしんば世界が滅ぼうとも、フウツさんだけは私が守る所存でございましてよ。騎士ごときに、どうしてそうやすやすと渡しましょう?」


 デレーが啖呵を切る。

 と、後ろの方にいた騎士が「あれ?」と言って前に出て来た。

 さらなる混沌の予感。


「デレー様? デレー=ヤン様ですよね?」


「親とは縁を切りましたから、ただのデレーでよろしくてよ。それで、何か?」


「僕ですよ僕! 数年前にお屋敷の前で……」


「記憶にございませんわ」


 知り合いっぽいことを言う騎士を、デレーがばっさりと切り捨てる。

 感動の再会とはいかなかったようだ。


「待て。ヤンとは、あのヤン家か?」


「はい隊長。第四領地を治めるヤン家、そのご令嬢がデレー様であります。昔は箱入り娘として……」


「ええい、そこはどうでも良いわ! どういうことだ、大貴族の令嬢が指名手配の一行にいるだと!? これは由々しき事態である! 至急本部へ連絡せよ!」


「確保が先では?」


「阿呆、相手は貴族だ! 下手に確保なんぞしたら我らの首がまとめて飛ぶぞ!」


「しかし隊長! 市民の安全を守るのが我々騎士団の第一の目的であります! 政も大事ですが、今すべきことは――」


 俺たちをよそに白熱しだす騎士団。

 人という動物は、自分より慌てふためき混乱する者を見ると逆に冷静になったりするもので。

 彼らを横目に、俺たちはワープ装置でその場を後にしたのであった。


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