いわゆる天丼
後ろに控えている騎士たちを見る。
するとその中に、ひと回り小さい者がいるのが目に付いた。
矢筒を背負い、弓を携えたその少年はどこか見覚えがある。
さて誰だったか、と俺は記憶を探った。
弓……少年……。
「あ、もしかして……ナオ? だっけ」
トキが仲間になって間もない頃に、俺たちは人攫いを追い詰めんとしたことがある。
彼はその人攫いに捕まって無理やり従わされていた少年だ。
カターさんたちと協力してなんとか救い出すことができたのだが、彼はとにかく卓越した弓の腕を持っていた。
諸々の事情やその辺りを汲まれたのだろう、その後ナオは騎士団に勧誘されたのである。
「…………」
「そうだ。ナオは正式に騎士見習いとして、我々第一小隊が教育している」
自分を木から落とすくらい暴れたデレーがいるからだろうか、目を泳がせる本人の代わりにカターさんが答えた。
しかし、心なしか顔つきが以前見た時より明るく、そしてたくましくなっている気がする。
なんにせよ元気でやっているなら、それは喜ばしいことだ。
「じゃあ、俺たちはこの辺で」
「待て」
彼らの横を通り過ぎようとする俺たちを、カターさんが呼び止めた。
まだ何かあるのだろうか。
「貴様らはいつも予想外のことばかり起こす。留置場の襲撃に始まり、問題児の竜人に気に入られたり、なぜか任務先で鉢合わせたり。極めつけはエラと精霊を仲間に入れる始末だ」
彼はゆっくりと話す。
なんだかその口調がやたら優しいというか、哀れみを帯びているというか。
「とは言え、ナオを救出できたのは貴様らの助力もあってのことだ。それには感謝している。そこの問題児を引き受け、世話を見てくれていることにもな」
今度は謝辞を述べ始めた。
……なんだろう。
この流れ、すごく嫌な予感がするぞ。
「だが。それらを棚に上げた上で、私は騎士として、小隊長として行動せねばならん」
駄目だ、もうこの先のオチが見えた。
俺は冷や汗をかきながら頭をフル回転させ、逃走経路を考え出す。
同じく察したトキが、何もわかってなさそうなバサークの手を引いて後ろに下がらせていた。
「許せとは言わん。恨むなら私を恨むが良い、青髪。いや――『魔王の器』よ」
ほーらね!
やっぱりこうなった!
カターさんの言葉を合図に、騎士たちが一斉に剣を抜く。
ナオも迷いの無い表情でばっちり矢をつがえている。まあそうなるよね。
「あー……あの、カターさん。ちょっと話し合いとか」
「不要だ。せめて苦しまぬよう、一撃で首を落としてやる」
取り付く島も無いし、なんなら悲壮感みたいなものももうあまり無い。
「味方だと思ってたら敵でした」のパターンはもうお腹いっぱいなのである。
ここまで短期間のうちに3回もやられると、いっそ笑い話にでもなりそうだ。
というか誰か笑ってくれ。
「仕方ないのう。ここはおとなしく……撤退!!」
エラによる迫真の号令と共に、景色が切り替わる。
彼女がワープ魔法を発動してくれたようだ。
「ふう。ひとまず一番遠くのセジューにワープしたぞい」
セジューというと、第二領地か。
確か、水と氷の中を自在に移動する魔族と対峙した街だ。
「ありがとう。でもこれだけ飛んだら魔力の消費とか大きそうだけど、大丈夫?」
「気にするでない。推測を誤った詫びじゃ」
バツが悪そうに頬をかく。
エラにしては珍しく、殊勝な態度だ。
「しかし、騎士団はどこでフウツのことを知ったんだ? あの様子だと、すでに組織としてフウツを追い始めてるだろう」
「うーん。竜人から直接聞いたとか……でも、少なくともカターさんたちは竜人についてあんまり知らないよね? バサークの時も、実在するなんて予想外って感じだったし」
「確かにカターさんたちはそうだったかもしれませんが、上層部ならどうでしょう? 騎士団の上司である王族は竜人を認知しているわけですし」
トキは王宮にて、図らずも竜人の戸籍を発見したことがある。
そのため「王族と竜人が繋がっているのでは?」という疑いはなんとなくあったし、有り得ない話ではない。
「こうなってくると『勇者』探しは諦めて、どこかで身を隠すことに徹した方がいいんじゃないかしら」
「ううん、ひとところに留まるのは危ないと思う。どの層にどの程度情報が行ってるかにもよるけど、変装でもすれば旅くらいはできる……かも」
魔王がやって来てから約1週間。
騎士団はすでに末端まで情報が行き届いているとして、ギルドや一般市民はどうなのか。
そこが重要だ。
「では私が軽く聞き込みに行って参りますわ」
「じゃ、ボクも」
デレーとフワリを送り出し、俺は薄い闇に覆われ始めた空を見上げた。
本当に、笑えるくらい前途多難である。
せめて嫌われ体質が無くなってくれれば、騎士団にもちゃんと話を聞いてもらえるだろうに。
あちらが何か新たな方法をとってこない限り、俺が魔王に体を奪われることはないと伝えられたらなあ。
「じゃあ殺すのやめるね」とはならないだろうが、もうちょっと、こう……。
……不毛なことを考えるのはやめよう。
俺はとにかく、みんなが生きていてくれと言うならそうするだけだ。
死ぬのは最後の手段。
俺に優しくしてくれたみんなへの恩返しに、俺はできる限りみんなの望むことをするのだ。
「只今戻りましたわ」
「ただいまー」
2人の声にぎょっとする。
少しぼんやりしていただけだと思っていたら、もうそんなに時間が経っていたのか。
「おかえり、どうだった?」
「良い報告と悪い報告、どっちから聞きたい? って聞くとみんなだいたい悪い方からって答えるよね。じゃあまず悪い報告」
謎のフェイントをかましつつフワリが話し出す。
「端的に言うと、ボクら指名手配されてた。パーティーごとお尋ね者ってことになってるらしいから、ギルドに行ったら即騎士団に通報されるよ。ちなみに情報源はギルドから出てきた冒険者」
「そっか……。まあ『器』が誰か特定できたんだし、そうなるよね。良い方は?」
「外見の情報が回ってるのはフウツさんだけでしたわ。手配書には『青髪、左目が赤色で右目が空色、やや小柄な少年』と」
みんなのことが書かれていないのは、むやみに情報を出して人違いや混乱を招くのを避けてのことか。
例えばデレーを指して「薄ピンクの髪、目も同色、少女」なんて書いたとしても、そう珍しい特徴でもない。
その点、俺は「左右で目の色が異なる」というわかりやすく珍しい外見的特徴があるから、他の情報も合わせれば人違いはまず起きないだろう。
例外的に、わかりやすい外見にも関わらずバサークについての記載が無いのは、竜人であることを配慮しての判断だと思われる。
竜人全体の威厳や信頼にも影響するため、「指名手配されてる一行に竜人がいます!」とは言えないはずだ。
「よしわかった! ならばわしがとっておきの魔法式を編んでやろう。ちと時間がかかるから、ひとまず宿へ行くぞ!」
よほど自信があるのか、エラは意気揚々と歩き出す。
ぶっちゃけ不安である。
彼女の腕を疑っているわけではないが、別方面で不安である。
「フウツ、今はこれでも着ていろ」
ぱさりとヒトギラに何かをかけられ、視界がやや狭まった。
真っ白な布――彼がいつも羽織っている、フード付きの短いケープのような上着だ。
「ありがとう。これなら顔が隠れるね」
にこりと笑ってお礼を言うと、彼はそっぽを向いてしまった。
そして後ろからデレーが物凄い目で見てくるのが背中越しに伝わってくる。
若干いたたまれない気持ちになりつつ、俺はそそくさとエラの後に続くのであった。




