『勇者』を探そう
「では次、魔王についてじゃ」
「『時間切れ』で帰って行ったんだよね」
「ああ。そもそも、強い魔族はこちらの世界に来られぬはずじゃった。まして推定最強の魔族である魔王なぞもってのほかじゃ」
俺は以前された話を思い出した。
魔族にとってこちらの空気は毒であり、その度合いは各々の魔力量に比例する。
その毒をなんとかするのが緑の石だが、それにも限界があるとのことだった。
「だが事実として、奴はやって来た。おそらく性能の高い緑の石か、それに類する道具を開発したのじゃろう。まあ『時間切れ』と言っておったからには、持久力は無かったと考えられるな」
「でもその改良版? を沢山持ってたらヤバくない?」
「ヤバいのう。が、そこはもう連続使用不可とかの制限があることを祈るしかないな!」
あっけらかんとエラは笑う。
不安なことこの上ないが、阻止する手立てが無い以上は彼女の言う通り祈るしかないだろう。
「さて以上を踏まえて、これからの方針じゃ。我らがすべきことは2つ。1つはフウツを騎士団、竜人および魔族から守ること」
俺を守る、か。
正直、俺が死ねば万事解決な気がするけれど、さすがに助けてくれたみんなに申し訳ないし黙っておこう。
「フウツさん、まさか『俺が死ねば万事解決な気がする』とか思っておりませんわよね?」
「お、思ってないよ?」
「……死のうとしたら素手でぶん殴るからな」
「あはは、やだなあヒトギラまで……はは……」
またもや心を見透かしてきたデレーとヒトギラに凄まれ、苦笑いでごまかす。
デレーはもとより、ヒトギラがこうも怒るのは夢の中での一件があったからだろうか。
「はいはい、じゃあフウツさんが死のうとしたら僕の毒を飲ませますよってことで。エラさん、続きどうぞ」
「うむ。まあ、魔王が現状フウツの魂に手出しできないことが判明したのだから、そう心配せずとも良かろう。騎士団と竜人がそれで納得するとは思えんが」
「あ、わかる! ルシアンだったら絶対『カノウセーがある以上はうんたらかんたらー!』って言うもん」
ルシアン……今思えば彼らは、俺が『魔王の器』であることに気付いていたのだろう。
もっと言えば、先の祭りの際に会ったレスも。
あちらが勘違いで襲ってきているのかと思っていたが、間違っていたのは俺たちの方だったというわけか。
「竜人は人里には降りて来ぬし、騎士団はそもそもフウツが『器』であることを知らぬ。差し当たって、当面は山中を避けながら『勇者』を探すこととなるが、良いな?」
「うん。みんながそれで良いなら」
「では決定ですわね! フウツさん、色々と不安でしょうけれど、私がしっかり守って差し上げますからご安心くださいませ! 二度とあの魔王とかいうクソダボに負けたりなんかしませんわ!」
こうして俺たちは数日ほど拠点で休んだ後、再び旅に出ることとなった。
しかし『器』と違って『勇者』の方は未だに情報がほとんど無い。
よって、引き続きククにはエラの屋敷に残ってもらい、蔵書から手がかりを探してもらう。
ちなみにあの屋敷、実は地下まであるらしく、エラの「入手したはいいがなんだかんだでまだ読んでいない本」が山ほど収納されているんだとか。
ククを屋敷まで送り届け、俺たちは王都に向かって歩を進め始める。
俺たちも別の切り口から手がかりを探そうという魂胆だ。
ユラギノシアの王都は大陸の中心に位置する。
面積は小さいものの、人口は他のどの大領地よりも多い。
またすべての大領地と面しているので、商人、騎士、冒険者と、絶えず様々な人が行き交っているらしい。
各施設も王都の名に恥じない充実度であり、国中からこれまた様々な分野の名だたる学者も集まってきている。
よって、母数が多いぶん玉石混淆ではあるだろうが、情報収集にはうってつけの場というわけだ。
「この調子だと明日には王都に着けそうかな。フウツくん、傷痕の具合はどう?」
「なんともないよ。見た目は派手だけど、全然痛くない」
「当然です。なんたって僕が全力で回復魔法をかけたんですからね! 感謝してくださいよ」
「うん、ありがとうトキ」
「…………」
「あ、照れてるね。フウツくんが思ったより素直に感謝してくれたからかな?」
「照れてません! 喋ってないで足を動かしましょう、足を!」
日が傾き、だんだん辺りが橙色に染まってくる。
次の町あたりで宿をとることになりそうだ。
色々なことありすぎて随分と長く感じるが、冷静に数えてみるとまだ冒険者になってから2ヵ月も経っていない。
デレーに会って村を出て、冒険者活動をしているうちにみんなに会って、『器』を探す旅に出て各領地を回って魔族と戦って。
スミニアで『黒き波』を示す予言を見つけて竜人の弟子に襲われて、味方だと思ってた謎の人物が実は魔王で俺は『器』で、殺されかけたけどみんなに助けられて……。
本当に、これまでになく濃い2ヵ月弱だった。
むしろ村にいた頃の俺って何してたっけ? と思うくらいだ。
仮に俺の人生が文字に書き起こされるとしたら、冒険者になる前の出来事はほとんど端折られるのだろう。
とりとめのないことを考えながら歩いていると、前方に馬を連れた集団が見えた。
逆光で表情などはよくわからないが、シルエットからして騎士団のようだ。
「あら、巡回かしら? 健気で可愛いわ!」
「実はフウツが『器』だって突き止めててー、こっそり待ち伏せ中なんだったりして!」
「うふふ、バサークちゃんったら縁起でもないこと言わないの。エラも騎士団は大丈夫って言ってたじゃない、ね?」
「そうじゃそうじゃ、天才の推測を信じるがよいぞ!」
近付いていくにつれ、徐々に姿が露わになっていく。
見たところ、上官らしき人が部下に指示を出しているみたいだ。
「ん? あれ、あたし知ってる人だ!」
バサークが声を上げる。
と、それに気付いた騎士たちが振り向いた。
こちらに背を向けていた上官っぽい人物と目が合う。
それでやっと、俺も彼が誰なのかがわかった。
「ほんとだ、カターさんだね」
王国騎士団の……詳細は忘れたが、確か小隊長を務める騎士・カターさん。
彼はバサークと俺たちが出会うきっかけをつくった人であり、俺を嫌悪しながらも理性でそれを抑え、公平に接してくれる数少ない人でもある。
「ね、あいさつしておかない? あたしたち元気だよーって!」
「でも大丈夫なの? フウツちゃん、また嫌なこと言われるかもしれないわよ」
「ああ、それは大丈夫。カターさんは普通に喋ってくれる人だから」
思えば、『器』探しの旅を始めてからはとんと会っていなかった。
俺たちはまたあちこちを巡る旅に出るわけだし、彼女の言う通り挨拶のひとつくらいしておいてもいいだろう。
バサークが上手くやっていることの報告も兼ねて。
「やっほー! あたしあたし、バサークだよ!」
「カターさん、こんにちは」
「お久しぶりですわ」
飛び跳ねるバサークを筆頭に、俺たちは口々に挨拶をする。
ちなみにヒトギラは当然のごとく無言だ。
「……フウツか」
カターさんの視線が俺、そして後ろにいるみんなの方に移る。
そうか、最後に会った時にはまだトキまでしかいなかったから……。
「これはまた、随分と増えたものだ……待て、そこにいるのはエラか?」
「そうじゃよ。いえい」
ひょこりと顔を出したエラに、カターさんはわずかに顔をしかめた。
そういえばエラ、ブラックリスト入りしてるんだったな。
「貴様が冒険者パーティーに同行するとは、予想外だ」
「ふふん、天才は柔軟に行動するのじゃよ」
「それから……精霊もいるのか」
「ええ。初めまして、アクィラよ。よろしくね、カターちゃん」
ちゃん付けで呼ばれたことによってさらに顔をしかめたカターさんだったが、すぐにいつもの凛々しい表情に戻る。
なんというか、彼には厳格な性格ゆえの安心感みたいなものがあるよなあ、と。
いつぞやと変わらない様子に、俺は少し頬が緩むのであった。




