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トキの背徳

 「教会の一人息子は優秀で誠実な良い子だ」


 いったい誰が言い出したのか、僕に対する周囲からの評価はそればかりだった。


 役職は【聖徒】、スキルは《診察》《蘇生》という、お手本のような才能。

 信心深い両親、質素だが何不自由ない暮らし。

 純粋無垢な子どもが育つのは当たり前とも言える環境であった。


 しかし、だ。

 それは僕が自分の隠された欲望に気付かなければ、の話である。


 事の発端は、僕が6歳の時にまで遡る。


 当時、すでに優秀な子どもだと一目置かれていた僕は、他の子どもよりずっと早く、役職判定もまだなのに【聖徒】としての勉強を始めていた。


 【聖徒】という役職は宗教との関係が深くて、教会の子は高確率でその適性がある。

 不幸にもそのように生まれた子どもは、もし【聖徒】の適性が無くとも、それに類する生き方を定められるのだ。


 まだそのことに何の疑問も抱いていなかった僕は、実に一生懸命、親の期待に応えようと勉学に励んでいた。

 ――ある課題を親から示されるまでは。


 「毒物について調べなさい」。

 これが、僕の人生を変えてしまった、本来なら何のことはない課題だった。


 【聖徒】は人を癒す者。

 怪我や病気を治すためには、医者と同様にその症状を理解していなければならない。


 つまり、親の出した課題は、毒を受けた人を治すために必要な知識だからひとまず自分で調べてみなさいと。

 ただそれだけのことなのであった。


 それだけのことだったのだが。


 何をどう間違えたのか、僕は毒物そのものの方に関心を持ってしまった。

 その蠱惑的な危うさに魅了されたのだ。


 優秀な僕は、いずれ【聖徒】になるであろう教会の子が毒物にご執心だなんて知れたらマズい、くらいのことはわかっていた。

 だからひとまずそのことは隠して、勉強の範疇を逸脱しない程度に知識を吸収した。


 やがてそれだけでは満足できなくなり、僕は隠れて毒を生成するようになる。


 忘れもしない、僕が初めて毒を盛ったのは自宅で飼っていた犬だった。


 自分の作った毒が生き物の命を奪った。

 この事実に、僕の心はどうしようもなく打ち震えたのだ。


 人間というのは一度味わった快楽を忘れられない生き物で、僕もその例に漏れず。

 こっそり材料を集めては毒を作り、適当な動物に投与した。


 そんなことを繰り返しているうちに、僕は表向きの優秀さを認められて王宮に招かれた。

 あとはいつかフウツさんに話した通りである。


 ……そう、フウツさん。

 哀れにも僕に目を付けられてしまった善人。


 馬鹿な人だなあ、と思う。

 いくら面倒事を引っ提げて脅してきたとはいえ、僕は所詮ただの子どもだ。

 その剣で斬り捨てるくらい簡単なことだろうに。


 適当に利用するだけして捨てるかとも思っていたけど、こんなに愚かな人を手放すのは惜しい気もする。

 彼が七転八倒する様は馬鹿らしくも滑稽だし。


 だからとりあえずは、行けるところまで行ってみようと決めた。


 つまり。僕が彼について行くのはあくまで利用するためと、彼を馬鹿にするためである。


 断じて「なんか放っておけないから」とかではない。

 断じて。


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