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フワリの芸術

 ボクはこの世界が大好きだ。

 植物も、動物も、人間も。


 全てが鮮やかで、時にはくすんだりもして、いくら見ても飽きない。


 ボクはそれらを絵で、彫刻で、様々な形で表現した。

 いや、表現なんて大したものじゃないかもしれない。

 それでも、この溢れんばかりの衝動を何かしらの作品として昇華させていた。


 そうすると不思議なもので、衝動は収まるばかりか激しくなる。

 足りない、まだまだ足りない。

 もっと見て、描いて、聞いて、彫って。


 どんどん芸術にのめり込んでいくボクの周りからは、いつの間にやらほとんど人がいなくなっていた。

 しかしそんなことはどうでもいい。

 ボクは活動を続けた。


 色々なものを目にする中で、特に人の行動を観察するのは格別だった。


 例えば困っている人を見かけた時。

 ある人は迷わず手助けをした。

 またある人は気にしながらも見ないふりをした。


 あるいは不愉快な出来事に遭遇した時。

 1人は怒りを露わにして反抗した。

 別の1人は顔をしかめて耐え忍んだ。


 西へ東へ足を運び、ボクは様々な人を見た。

 偶然見つけた竜人の里に置いてもらったりもした。

 そしてある日のこと。


 ボクは森の中で、魔物に襲われている少女を見かけた。

 幼く、か弱そうな少女だ。


 彼女は薬草でも採っていたのか、手に持っているのは籠ひとつだけ。

 対して魔物は狼のような姿をしており、恐ろしげな唸り声を上げて今にも襲い掛からんとしている。


 少し観察していたい気持ちもあったが、目の前で死なれては寝覚めが悪い。

 スキルを使うにしても、そのためにはまず「ボクと会う」ことが必要だ。


 魔物が飛びかかり、少女の上に覆いかぶさる。

 ボクは鞄を放って助けに入ろうとした。


 が、その瞬間。


 少女が近くにあった石を握り、魔物を殴った。

 ボゴ、とかそんな感じの鈍い音がした。


 魔物が怯む。

 少女は間髪入れずに、何度も何度も魔物を殴りつける。

 肉や骨が潰れる音がして、遠目で見てもわかるほどに血が飛び散った。


 どれくらいそうしていただろうか。

 ついに魔物はぐらりと力を失って倒れた。

 あの少女が、魔物を殴り殺してしまったのだ。


 それを認めた刹那、ボクの背中に、稲妻に打たれたような衝撃が走った。


 ボクはたまらず、少女を放って走り出した。


 幼い少女が。

 あのひ弱な人間が、魔物を!


 我に返ると、ボクはアトリエで1枚の絵を描き終わっていた。


 あの光景にインスピレーションを受け、これを描いたのだと沸騰しそうな頭で理解する。

 それでも高揚感は留まるところを知らない。


 窮地に追い詰められた人間が発揮する力の、なんと醜く美しく魅力的なことか!


 もう一度、あの焼け付くような光を見たい。

 そうすればもっと先の、何かが見えてくる。


 ボクは友人のエラに頼み、アトリエを改造してもらった。

 地下に罠の仕掛けられた通路を作り、疑似的に命の危険にさらされる場を用意したのだ。


 それからボクは「良さそう」な人を探しては、アトリエに連れ込んで通路に落とした。

 無傷で戻ってくる人もいれば、怪我で動けなくなる人もいた。


 しかしながら、どれも違った。

 あの少女のような力を見せてくれる者は誰もいなかった。


 何がいけないのだろう。

 改築や増築を重ねながら、ボクは人を観察し続けた。


 そして。


 ボクは彼に出会う。


 彼の名はフウツ。

 青髪の少年、なぜか友だちの竜人が血眼で探しているという人。


 ボクは彼を一目見て、少女の時とはまた異なる衝撃を受けた。

 有り体に言えば、彼を気に入ったのだ。


 彼……いや、彼らを連れて行けば、絶対に面白いものが見られる。

 ボクはそう確信して、半ば脅すように彼らをアトリエに案内した。


 結果。

 ボクがずっと探していた力を見ることはできなかったけれど、別方向に愉快な姿がそこにはあった。


 思えば、複数人を招くのはこれが初めてだった。

 彼らは揉めながらも協力し、かと思えばまた揉めて、しかし最終的には無事に上まで上がって来た。


 彼らをエラのところへ連れて行き、ボクは作品作りにいそしんだ。

 身を焦がすほどの熱ではなく、跳ね回る小鹿のような心が筆を、ノミを動かした。


 楽しい。

 ひたすらに、楽しかった。


 ボクは彼らの、中でもフウツくんのことが忘れられなかった。

 もっと近くで彼を見ていたいという思いは、とうとうパーティーの仲間に入れてもらうにまで至った。


 彼らはボクの期待を裏切らず、実に愉快な集団だった。


 一方、近くに来たからこそ気付く歪みもあった。

 他でもない、フウツくんのことである。


 彼は曰く「嫌われ体質」らしく、行く先々で他人から蛇蝎のごとく忌避されていた。

 けれど彼は「体質だから仕方ない」と、自分に冷たくする人に少しも怒らない。


 ボクはそれを聞いて、ひとつ新たな目標を見出した。


 それは、いつか必ず彼の怒る姿を見ること。


 彼は怒らない。

 だからこそ、心の底から、他でもない自分のために怒る様が見てみたい。


 その姿はきっとボクに、これ以上ない刺激を与えてくれる。

 彼の「怒らない」という……いや、あるいはもっと根本的な歪みが消えるその時まで、彼の近くに居続けよう。

 

 ……とまあ、そういうわけで。

 ボクは今日もパーティーの一員として、彼を観察するのであった。


 なんだか大層なことのように語ったけれど、何のことはない。

 結局のところ、ボクは今も昔の自分の欲のままに生きているという話である。


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