アクィラの愛情
気が付くと、私は生まれ落ちていた。
また、その瞬間から自分が何者であるかを理解していた。
泉の精霊、名はアクィラ。
「世界の記憶」として古代語の知識を有する個体。
それが私。
すでに確立された自我は、まず不愉快な気配を感じ取る。
この世界にとっての異物……魔物が私の縄張りに入ってきていた。
私はすぐさま魔除けの結界を張った。
ほどなくして、全部ではないけれど、ほとんどの魔物がこの地から去る。
これで快適になった。
私は泉に潜り、しばらくぼうっとしていた。
すると、今度は人間の気配がした。
泉から上がる。
そのままでは形が安定しないので、土をこねて体を作った。
小さいが、それなりに動きやすい体を手に入れた。
地に足を付けてみる。
上手くバランスがとれず、どうも歩きにくい。
仕方がないので浮くことにした。
気配のする方に行くと、思った通り人間がいた。
私はその人間を見て、「可愛い」と思った。
理屈は無い。
ただ、可愛いと。
この人間は私が庇護し、愛そうと思った。
私が話しかけると、人間は驚きながらも喜んだ。
きっと私に愛されるのが嬉しいのだろう。
私はその人間が寿命で死ぬまで、林の中で可愛がった。
その後も様々な人間がやって来た。
皆、可愛かった。
だから全員、死ぬまで可愛がってあげた。
ところがある日のことである。
奇妙な雰囲気をまとった少女が林を訪れた。
不思議と、可愛いとは思わなかった。
少女はエラと名乗った。
魔法式がどうとか実験がどうとか言って、彼女は我が物顔で泉の水を汲む。
なんだこいつ、と思った。
力づくで帰そうとしたが、彼女はやたら強かった。
それで結局、私は少女が林に居座ることを許してしまったのだ。
少女はおかしなことばかりした。
ぶつぶつ何かを呟いては、急に「できた!」と叫び、よくわからない魔法を発動させて爆発を起こす。
無論、この爆発は失敗だ。
また、彼女に仕返しをするのだと憤って林に踏み込んで来る人間が増えた。
可愛いから愛してあげようとするも、彼女が周囲の木々ごと吹き飛ばしてしまうのでできなかった。
そんな具合で少女は迷惑を振りまき、一度去ったかと思っても忘れた頃にまたやって来るの繰り返しだ。
やがて私が体を成人女性のそれに作り替えた後くらいに、奴はまた現れた。
冒険者の一行にひときわ可愛い子がいたので庇護下に置こうとしたところ、可愛くない子に邪魔をされた時のことだ。
彼女の乱入後、最終的になぜか私は可愛くない子と契約を結ぶ羽目になった。
勢い余って、という完全な事故である。
うろたえはしたが、いくらわめいても契約は覆らない。
私は腹をくくり、旅をしているという彼女らに同行することとなった。
まあ可愛い子――フウツちゃんがいるし、同行自体はそれほど嫌ではなかった。
それから私は、生まれて初めて自分の縄張りを出た。
魔族特有のおかしな魔法にかかったり、人間の祭りに紛れて調査をしたり。
可愛くないデレーのことを、ちょっと見直したりもした。
まだ日数にしてみれば4日かそこらだけれど、気付けば私はすっかり慣れてしまっていた。
不快ではない、むしろ……ほんの少しだけ、楽しいとか思ってみたり。
縄張りを出た私は、正直へっぽこ精霊だ。
でも、それでも。
フウツちゃんたちについて行って良かったと思うのである。




