レッツダンシング!
「さあ、これより舞台を開放します! 仮装をなさっている皆さまはどうぞ舞台に上がり、踊りを御披露ください!」
司会らしき人の声が広場に響くと同時に、音楽が流れ出す。
それを合図に多くの人たちが舞台へと集まり、思い思いに手を取り合い、あるいは向かい合うように踊り始めた。
笛と弦楽器の音が中心となって、まさしく踊りだしたくなるような音を奏でる。
ポン、ポン、と弾かれる低い音に合わせて飛び跳ねる人もいれば、なめらかな旋律に合わせて舞う人もいた。
舞台下の人たちも手拍子をしたり歓声を上げたりと、場が一体となっているのが伝わってくる。
カンテラの灯に照らされた彼らの表情は皆、笑顔一色だ。
「みんな楽しそうだね! 何て言うか、空気までキラキラしてる」
「うん。やっぱりお祭りは良いものだ」
「あ、あそこにいるのがバサークさんですね」
トキが指す方を見れば、舞台の中心よりやや左にずれた位置で深紅の少女がくるくる回りながら踊っている。
手を振ってみると、こちらに気付いて振り返してくれた。
するとバサークは、見てて、とばかりにこちらに笑いかけ、その場で宙返りをしてみせる。
彼女の見事な動きにひときわ大きい拍手と歓声が起こった。
しばらくすると、舞台上の人が移り変わり出す。
例えばある2人が下りれば別の2人が上がり、ある3人が下りれば別の3人が上がる、そんなふうに。
実に自然な入れ替わりだ。
恒例の行事だからみんな勝手は心得ているのだろう。
一方バサークは体が温まってきたのか、いっそう動きに磨きがかかっていく。
身をよじるように空中で回転しながら跳躍したり、地に手を付いてその場でぐるりと体を回したり。
舞台上の人が移り変わっていく中で、バサークだけが変わらず延々と踊り続けていた。
やがて曲もクライマックスに入る。
彼女は思い切り高く、高く、月まで届くくらいに高く宙返りをして、最後の1音と共に降り立った。
一瞬の静寂の後、響き渡る万雷の拍手。
舞台上で一緒に踊っていた人も、バサークに賞賛の言葉を送っているようだった。
中には興奮して握手を求める人も……。
こうして、スミニアの竜人祭は華々しい空気の中、幕を閉じた。
「ねえねえあたし凄かった? 凄かったでしょ?」
戻ってきたバサークがえへえへと得意げに笑う。
「うむ、文字通り飛びぬけて目立っておったぞい」
「最後のはちょっと人間の域を逸脱しすぎな気もしましたが、皆さん祭りの空気に酔っていたからか特に疑われはしませんでしたね」
「んふふ、すっごく楽しかったよ!」
つられて俺も頬が緩んだ。
熱狂の余韻に浸りつつも、ぱらぱらと人が広場から去っていく。
情報も得られたし、お祭りも楽しめたし、充実した1日になったなあ、なんて考えていると。
「バサークちゃん、みんな」
いつの間にか帰って来ていたアクィラに声をかけられる。
デレーはもちろん、ヒトギラもいた。
「お姉さんたち広場の周りを歩いていたんだけどね、バサークちゃんに会いたいって人に会ったの」
「正確には怪しい奴だと思って問い詰めたらそうだった、という話だがな」
「んもう、細かいことはいいの! はい、じゃあ自己紹介どうぞ」
アクィラに促され、後ろから1人の男性……だろうか、中性的な顔立ちの人が歩み出て来た。
「お初にお目にかかる。私の名はレス。街の西にある森の精霊、そして――竜人の弟子、と呼ばれる者だ」
「え!」
バサークが驚きの声を上げる。
俺だって驚いた。
てっきり竜人の弟子ってのは人間だとばかり……。
「あたしに会いたいってどゆこと?」
「それについては順を追って話そう。少々長くなるがね」
薄く微笑むと、彼は語り始めた。
――魔物を滅した後、街に残った竜人が1人だけいた。それがのちに我が師となる人物である。
師匠は人を好くあまり、山に帰ることを拒否した。
しかしそれは掟破りに他ならず、師匠は力を半ば封じられてしまう。
その後、森にいた生まれたばかりの私の元に師匠はやって来て言った。
私の弟子にならないか、と。
師匠は魔王の再来を予見した上で、もはや竜人のみでは魔王に対抗できぬと言った。
ゆえに、精霊である私を自身の後継として選んだのだ。
私はそれほど人間が好きなわけではなかったが、魔王のことは気に食わなかったからそれを承諾した。
そして私は師匠より、予言の法と竜人の力のほんの一部を授かった。
ほどなくして師匠は死に、私は「異端の竜人が来る」こと、そして「魔に連なる者が来る」ことを予言で知った。
前者は良い。師匠も異端児であったし、なんなら上手くやれそうだとも思った。
問題は後者だ。
魔に連なる者、とはまず間違いなく魔族かそれに類する者。
私はこのことを街の者に伝え、先だって対策を考えた。
まず、図書館の記録から私と師匠に関する記録……すなわち「竜人と竜人の弟子がいた、もしくはいる」という記録を消した。
竜人の力は魔に抗う力。
とは言え、仮に魔族の大軍が来ればこちらの勝ち目は薄い。
しかも山の竜人にはひどく嫌われているせいで、彼らとは話もできない、このことを伝えられない。
だから私は私の存在を秘匿し、「異端の竜人」の協力を得た上で魔族を迎え撃つことにしたのだ。
また、図書館に古代語で魔除けの魔法式を記した本を置き、万一侵入されても気付けるようにした。
「世界の記憶」のことはもう知っているな?
私はアクィラといったか、そこの精霊と同じく古代語の知識を持っているのでね。
師匠と共に作り上げた、いわゆるオリジナルの魔法式なんだ。
おおまかに言えばこのようにして、私は来る日への態勢を整えていたわけだ。
「わかってくれたか、『異端の竜人』よ」
レスはバサークに視線を投げかける。
「えーっと…………???」
が、話が長すぎたらしくバサークは全く理解できていない。
というわけでいつものように、トキが彼女に話をかみ砕いて伝える。
「彼はいつか来る魔族と戦うために、隠れてあなたを待っていたんですよ」
「へー! そうなんだ! でもなんであたしが竜人ってわかったの? 仮装してる人いっぱいいたよ?」
「ふふ、あれほどの動きをしていたのだからわかるさ」
「なるほどのう。竜人が現れるなら堂々と人間に紛れられる竜人祭の日だと踏んでおったのじゃな?」
「むしろそうなるように、私が竜人祭を提案したんだよ」
じゃあお師匠さんが亡くなった後ぐらいから、彼は毎年毎年、予言の竜人が来ていないかを見回っていたわけだ。
何年くらいかはわからないけれど、きっと俺たち人間からしたら途方もない時間だったろう。
「そうだ、ひとつ質問いいかしら? 図書館で古代語の予言っぽい詩が書かれた本を見つけたんだけど、あれも貴方のもの?」
「いや、あれは私の予言ではない。師匠が教えてくれたものだ。魔王侵攻と同時期に発見された文章で、誰のものかはわかっていない。ところどころかすれていたりもしたがまあ、予言と見ていいだろうな」
「ならやっぱり、あれは魔王を企みを表しているのね」
俺は口を開きかけて、やめた。
「ま、こんなことろだ。バサーク、私に協力してくれるな?」
「いいよ、魔族を退治するんでしょ? でもあたしはみんなの仲間だから、ずっと一緒にはいられないよ」
「ああ、それで上等だ。魔族との戦いに力を貸してくれさえすればいい」
満足げにレスは頷く。
そして、ふう、と軽く息を吐いた。
「さて、あとは――」
レスの剣がすらりと抜かれる。
どうしたのだろう、と疑う間もなくその切っ先がわずかに動いたかと思うと――俺の首めがけて閃いた。




