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ちなみに2人はまだ喧嘩してる

 そうこうしているうちに日が傾き始め、そろそろ屋台を中心に回っているはずのバサークたちと合流しようということになった。


 街をあげての祭り、とはいえどこもかしこも屋台だらけなわけでもない。

 東西南北、それぞれに決められた区画があり、そこで出店が開かれているのだ。


 当初は各区画に1人ずつ向かってもらおうともしたが、バサークを1人にするのは少々不安があるので彼女はトキと共に行動してもらうことに。

 その流れで、昨日の作戦会議では担当場所を決めるのではなく、各自で自由に回ることが決まった。


 と、いうわけで。


 まあどこから行ってもそう変わらないから、と俺たちは東の区画へ向かう。

 どうしても見つからなかったら最悪、街の中心部で行われる催し物の会場近くで集合すると予防線も張ってあるし、心配は無い。


「にしても、本当にすごい人混みだね。スミニアってこんなにたくさん人がいるんだ」


「それもあるでしょうけれど、他の町からも人が来ているのだと思いますわ。なにせ規模が大きいですし、仮装や屋台といった、とっつきやすい楽しみがありますので」


 喋りながら歩いて行くうちに、だんだん人の密度が高くなってきた。

 がやがやと話し声も多くなり、自然と俺たちも声が大きくなる。


「あら、あの子可愛いわね! あそこの2人もいいわ」


「ちょっと! ちゃんとバサークさんたちを探すのに集中してくださいまし!」


「してるわよ! ちょーっと目を引かれただけ!」


「まったく、これだから節操無しは困りますわ」


「なんですって!?」


「ですが安心しましたわ。あなたと違って私はフウツさんひとすじ。一途な乙女心が邪な欲望に負けるはずありませんもの!」


「あーら! 言ってくれるじゃない! お姉さん、知ってるんだからね? 貴女がフウツちゃんのことになるとすーぐ暴走する暴れ馬だってこと! 真にフウツちゃんを思うなら、冷静に行動するべきよね?」


「むむ……!」


 この2人、放っておいたら永遠に口論し続けるんじゃなかろうか。

 手は出さないというか出せないからいいけど、この辺で止め……いや、いいか。

 今は喋ってもらっていた方が良い。


「あ! あそこにいるの、フワリじゃない?」


「どこだ? ……ああ、あれか。そうだな」


 大きな屋台用テントの下、何人かの客と並んで座っている。

 こちらに背を向けているため後ろ姿しか見えないが、あの派手な配色の服と水色の髪は間違いなく彼だ。


 人と人の隙間を縫うようにして近付く。

 屋台の看板を見ると、「木彫り体験」とあった。

 なるほど彼が好みそうな屋台だ。

 遊ぶのが目的ではないんだけどね!


「フワ……」


 言いかけて、言葉を引っ込める。

 見たところ彼は作業の真っ最中だ。

 邪魔するのも悪いし、終わるまで少し待つとしよう。


 道の端に寄り、フワリの様子を眺める。

 おそらく屋台側の人であろうおじさんたちが、彼の手元をじっと食い入るように見ていた。


「何を彫ってるんだろうね」


「さあな。またわけのわからん物だろう」


 フワリは時々、どこからか木を拾って来ては自前の刃物で削り、ちょっとした置物みたいなものを作る。

 出来上がるのは花っぽいものだったり動物っぽいものだったり色々だけれど、どれも実在はしていなさそうな形のものだ。


 一度「それは何?」と尋ねたことがあるが、曖昧な笑みを返されただけだった。

 いったい何を考えているのか、いつまで経ってもわかるようでわからない。

 彼の作品と同じだなあ、となんとなく思った覚えがある。


 フワリについて思いを馳せていると、屋台の方でワッと歓声が上がった。

 どうしたのだろうか。


「おわっ……!」


 近付こうとするも、いつの間にかできていた人だかりに押し返される。

 そして残念ながら俺の身長では人が邪魔で屋台が見えない!


「ヒトギラ、どうなってる?」


「屋台の奴らがフワリに何か言っている。こいつらはたぶん、フワリの彫った物を見ようとして群がっているんだろうな」


「フワリの様子は?」


「一応受け答えはしているが迷惑そうだ」


「そっか……じゃあちょっと行ってくるね。すぐ戻るから」


 本人が楽しんでいるならいいけれど、迷惑がっているなら多少強引にでも連れ出さないと。


 俺は「すみません、すみません」と言いながら目の前の人たちの間をかき分けて屋台の方に向かう。

 はじき出されるみたいに人混みから出ると、確かにそこではフワリが屋台のおじさんに詰め寄られていた。


「なあ、頼むよ。俺の師匠になってくれ!」


「やだってば……」


「あんたが師匠になってくれるなら、何だってするからさあ!」


「だから弟子とかいらないって。第一、ボクそんなんじゃないし」


「そこをなんとか!」


 おじさんは元からそうなのかは知らないが、結構な大声でフワリに師匠になってくれるよう頼み込んでいる。

 そうか、この声量のせいで、何事かと人がどんどん集まっていているんだ。


 ちらりと作業台用に設置された机を見る。

 フワリが作ったであろう、見事な木彫りの人間……っぽいものが置かれていた。

 相変わらず、素人目にもわかるくらいの上等な出来具合だ。


「こんな衝撃を受けたのは生まれて初めてだ。あんたは常人には持ち得ない何かを持っている! そしてそれは俺が求めてやまないものなんだよ」


「褒めてくれてありがとう。これはあげるから自力で頑張って」


 おじさんの熱弁にも一向になびかないフワリ。

 しかし手をガッチリ握られており、これでは逃げようにも逃げられない。


「フワリ!」


 俺はごく自然に見えるよう努めて話しかける。


「あ、フウツくん」


 パッと振り返る顔が、いつもより少しだけ明るい感じがした。


「もうそろそろ時間だよ。みんなも待ってるし、早く行こう」


 言うほど時間に余裕が無いわけでもないけれど、ここはこう言っておいた方が角が立たないだろう。

 さあフワリ、話を合わせてついてきて。


「わかった、ごめんね。時間のこと忘れてた」


 フワリはするりとおじさんの手から抜け出して立ち上がった。


 よし。

 これで堂々と立ち去れるぞ。


「ま、待ってくれ! そいつは連れか?」


 そんなことはなかった。

 おじさんはかなり諦めが悪いらしい。

 あれだけ拒否されておいてよく折れないもんだ。


「うん。ボクの仲間」


 フワリが足を止めて答える。

 意外と律儀だ。


 するとおじさんは、これが最後のチャンスだとばかりに早口で喋り出した。


「あんた、なんでそんな気味の悪い奴と一緒にいるんだ? 俺の勘だけどよ、そいつといても良いことは無いぞ! いいか、俺はそこそこ売れてるし、金には困らない。そんな奴の仲間よりも俺の師匠になってくれた方が絶対に得――」


「うるさい」


 フワリがおじさんの顔面を掴む。


「《回帰》」


 彼がそう言うと、おじさんは糸が切れたように崩れ落ちた。


「行こ」


 ふん、と口をとがらせてフワリは踵を返して歩き出す。

 俺は呆気にとられる人々を半ば押しのけて行く彼を、慌てて追いかけた。


「え、ちょ、あれ大丈夫なの?」


「スキル使っただけだから平気」


「! ああそっか、回帰って君のスキル名だったね」


 フワリのスキル《回帰》。

 対象の体と記憶を彼と会う前の状態に戻す、というよく考えるとかなり強力な技だ。

 話には聞いていたけれど、あんなふうになるんだ……。


「アトリエの地下に落とした人以外にはあんまり使いたくないんだけど、むかついたから」


「……またなんか余計なことしちゃった、かな」


「ううん。来てくれて助かった。あのままだとあの人の腕をちぎらなきゃいけないところだったし」


「え」


「冗談」


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