スミニアの祭り
「あのね、あたしすぐに変だなって思ったの! で、それをトキに言ったら『じゃあこれは夢ですね』って! ね、連携プレーだったよね!」
「はいはい、そうですね」
「私たちは大変でしたわ。なにせ、アクィラさんが全くのポンコツで……」
「し、仕方ないでしょ! 本体である泉から離れれば、お姉さんだって少しくらい弱くなっちゃうの!」
「あ、でもエラは魔法が弱くなってるので気付いたよね」
「うむ。わしの魔法があんなにへなちょこなわけがあるまい」
少し速足で移動しながら、先ほどのことについて各々話す。
どうやらみんな、2人1組で夢の中にいたらしい。
「そうだ、ヒトギラはなんであれが夢って気付いたの?」
「……あの家が存在するはずのないものだったから、とだけ言っておく」
あの家というと、最後に移動した場所のことか。
彼があれを「存在しない」と断言する理由はわからないが、たぶん深くは聞かない方が良いだろう。
そんな調子で他愛のない話をしながら歩き続け、日が暮れる前にはなんとか次の街に到着することができた。
通りに沿って宿屋を探していると、ふと道行く人の様子がどこか楽しげなことに気が付く。
「なんか賑やかだね」
『その街、スミニアでは明日からお祭りが開催されるのだとか。それで活気づいているのだと思いますよ』
俺が疑問を口にすると、遠話機越しにククが答えてくれた。
「へえ、よく知ってるね」
『皆さんの行くルート上にある場所については、ある程度調べていますから。というか、それが私の仕事ですのでどんどん頼ってください!』
彼女は声を弾ませる。
楽しそうで何よりだ。
「ねーねークク、お祭りってどんなの?」
『よくぞ聞いてくれました! このお祭りは、人々を魔物の脅威から守ってくれる竜人に感謝を捧げるものなんです。街の住人たちは屋台を出したり野外の舞台で踊ったりして、自分たちが元気であることを山に棲む竜人に伝えようとするらしいですよ』
「へー! すごいね!」
『さらにこのお祭り最大の特徴として、人々が竜人の仮装をする、というものがあります。つまり……』
「つまり?」
『バサークさんが角や翼を隠さなくてもいいんです!』
「おおー! じゃあこれ脱いでいいってことだ!」
バサークが目を輝かせる。
彼女には竜人であることを隠してもらうため、今まで人目に付くところではいつもフード付きのマントを羽織ってもらっていた。
特に『魔王の器』を探すことに決めてからは、人の目を集めるようなことは避けなければならなかったからだ。
「竜人が人里に下りてきている」なんて噂になれば、そもそも他の竜人が黙っていない。
『それと、これはあくまで噂ですが……この街に竜人の弟子がいるという話があります。もしかしたら何か新たな情報を入手できるかもしれません』
「なるほど。祭りに乗じて情報収集、というわけですね」
『はい。お祭りの空気で、街の人たちは多少なりとも普段より口が軽くなるかと思いますし、絶好の機会です』
それなら聞き込み調査の形になるだろうから、俺がいると邪魔になるかもしれない。
大人しく宿で待機していた方が良いだろうか?
「いえ、フウツさんは私と一緒に来てくださいまし」
「わ、わかった」
デレーに心を読まれて驚いてしまった。
最近あんまり無かったから油断してたや……。
『では皆さん、明日はそういうことでよろしくお願いします』
「了解」
こうして俺たちはひとまず宿に泊まり、それぞれのグループ分けや具体的な動きを練った。
竜人の弟子なる者が本当にいるのかはわからないが、そこも含めて街の人に聞き込みを行う。
そのためにはまず怪しまれないことが肝要であるので、できるだけ目立たないよう行動する方針となった。
翌日、早朝。
俺たちは大きく二手に分かれて聞き込みを始めた。
一方は俺、デレー、ヒトギラ、アクィラ。
旅の冒険者を装い(まあ実際そうなんだけど)、直接的に話を聞く。
もう一方がバサーク、トキ、フワリ、エラ。
こちらはある程度ばらけて行動してもらい、祭り客に紛れて間接的に情報を集める。
ちなみに俺はヒトギラに「人混みに入るけど大丈夫? 宿で待っててもいいんだよ」と言った。
しかし彼が「俺もついて行く」の一点張りだったため、結局、本人がそう言うならと同行してもらうことになったのだ。
『それでは皆さん、頑張ってください。こちらでも引き続き調べものはしておくので、何かあればエラさん経由で連絡しますね』
ククに応援をもらい、俺たちは行動を開始する。
バサークたちは各所に散らばり、俺たちは街をぐるりと巡る予定だ。
「ちょっとアクィラさん、浮かないでくださいまし。無駄に目立ってはいけないと言われたでしょう」
「あら、棘のある物言いね。お姉さんにフウツちゃんを取られたくないからって」
「どっちもどっちだろ」
「…………」
えー、非常に今さらなんだけど、これは人選ミスな気がする。
デレーとアクィラは離れられないらしいからもう仕方がないとして、せめてヒトギラとは離すべきだった。
デレーとアクィラが喧嘩をし、さらにヒトギラが両方の火に油をぶっかけている。
すでに険悪感が半端ない。
「……ところでヒトギラさん、あなた少しフウツさんに近すぎませんこと?」
「別に。他の人間が多いから仕方なく寄ってるだけだ」
「まだ全然人いませんけど幻覚か何か見ていらっしゃいます?」
「み、みんな仲良く! 仲良くいこう!」
俺は強引に仲裁に入る。
今から予定を変更するのも何だし、いっそ3人に仲良くなってもらう良い機会だと考えよう、うん。
「とりあえず話しやすそうな人を探して――」
「やあ、お嬢さん方。見ない顔だが旅人かい?」
と、向かい側から歩いてきた若い男性がデレーたちに話しかけてきた。
俺はさりげなく後ろに下がる。
「ええ。私たち、冒険者ですの。この街にはお祭りのことを聞いて立ち寄ってみたのですが、あまり詳しくなくて。もしよければ、いろいろ教えてくださらない?」
「もちろん!」
デレーに微笑みかけられた男性は気を良くし、そのままつらつらと語り出した。
「竜人のことは知っているね? そう! 魔王軍と戦った、人間の友人たる種族・ドラゴン……その力を受け継いだ気高い種族さ。他の町とか領地の人たちはそれほど信じていないようだがね、僕たちは心の底から彼らの存在を信じている」
「それはどうしてですの?」
「まあ単純に、記録の多さだね。魔王軍の撤退後、この街は特に大量の魔物に襲われていたんだ。そこを竜人に助けられ、当時の人々はそれをしっかりと記録に残した。街の中央にある図書館にはもう行ったかい? あそこにたくさん史料があるよ。貸出はしていないけどね、この機会に読んでいくといい」
その後も男性は延々と話し続けた。
デレーの相槌1に対して10くらいは話し続けた。
ついでに言うとそのほとんどが竜人がいかに人々を救ってきたか、という話だ。
「おっと、もうそろそろ屋台の準備があるから戻らなくては。お嬢さん方、スミニアの竜人祭を存分に楽しんでおくれ」
男性が去ると、デレーはスン、と表情を戻す。
「無駄に話の長い男でしたわ。目ぼしい情報は図書館のことくらいでしたわね。さあ皆さん、次に行きましょう」
道端の石でも見るような目で男性を一瞥すると、彼女はまた歩き出した。
何度見ても、やはり彼女の人付き合いの上手さは流石としか言いようがない。
「あ、貴女……なかなかやるわね」
その切り替えっぷりに感心したのか、アクィラは若干引きながらも賛辞を送るのであった。




