天才エセ少女と愛玩癖の精霊
「え……?」
唖然とするデレー、初め俺たち。
「ど、どうしてそうなりますの……?」
「……契約の魔法式を発動してる最中だったから……その、勢い余ってうっかり……みたいな……」
アクィラの声はどんどん尻すぼみになる。
「えーと、契約は破棄できませんの?」
あまりの落ち込みように、デレーは怒る気が失せてしまったようだ。
ぎこちない愛想笑いで問いかける。
「不可能よ。相手が死なない限り、契約はずっと結ばれたままよ」
「…………殺し合いでもします?」
「それも無理。お姉さんも貴女も、互いを傷付けることはできないの」
場は完全にお通夜状態である。
こんな悲惨な事故が今までにあっただろうか。
「仕方ないわ。心の底から遺憾だけど、お姉さん、貴女たちについていくことにする」
「でもキミ、泉の精霊なんでしょ? ここを離れてもいいの?」
「良くはないわよ。ただ契約相手とは一定の距離内にいないといけないから」
精霊って聞くと自由なイメージがあるけれど、案外制約が多くて大変なんだな。
不可抗力も甚だしいが、アクィラも旅に同行することが決まったので、俺たちは彼女に旅の目的と事のあらましを伝えた。
「最近、結界外に魔物が多いと思ってたら、そんなことになってたのね。魔王の体の代替品である『魔王の器』、体替えのエネルギー確保を目的とした魔族による殺人行為……。一方で魔王に反対する魔族の勢力もある、っていう認識でいいかしら?」
「あとは魔王に打ち勝てる『勇者』だね。俺たちが『器』を保護して、その間に騎士団が『勇者』を見つけて魔王を打倒……っていうのが一番理想かな」
アクィラは目を閉じて、しばらく情報を吟味するような仕草をする。
そしてパッと開き「いいわ」と言った。
「一筋縄ではいかない状況だけど、フウツちゃんのためだもの。お姉さん、精一杯手伝っちゃう!」
「ありがとう、そう言ってくれると助かるよ」
「わーい! これで7人だね! 賑やか賑やかー!」
「む? 全員で8人じゃぞ」
仲間が増えたことを喜ぶバサークに、エラが訂正を入れる。
あれ? 俺も7人だと思うんだけど数え間違いかな。
俺はみんなをそれぞれ視線で追って数える。
やっぱり7だ。
「エラ、7人で合ってるよ?」
「いいや、8人じゃよ。おぬし、デレー、ヒトギラ、バサーク、トキ、フワリ、わし、アクィラ。ほれ、そうじゃろう」
「待って凄いナチュラルにエラが入ってるんだけど」
「何か問題でも」
エラは首を傾げた。
「表立って国に逆らったらマズいんじゃなかったの? それに、ククはどうするのさ」
「ああ、なんかもう気にするのが面倒になったんじゃよ。あと、あやつなら……」
肩にかけた鞄から何やらガラスでできたロウソクのような物を取り出す。
かと思うとそれは淡い光を放ちだした。
「ククよ、聞こえるかえ」
謎の道具に語りかけるエラ。
『はい。こちらクク、ばっちり聞こえます』
するとしばらく間を置いて少女の声が道具から聞こえて来た。
少しくぐもってはいるが、紛れもなくクク本人のそれだ。
「これってフワリのアトリエにあったやつ?」
「その改良版じゃ。名付けてソウオンデン」
「なるほど。双方向型音声伝達機……いえ、遠話機ですか。これはまた便利な物を発明しましたね」
「勝手に改名するでないわ!」
『確かにエラさんの名付けセンスはダサ……独特ですからね』
「ん? ダサいって言いかけたかおぬし?」
『あはは』
笑って誤魔化すクク。
最初に会った時に比べると、幾分か明るくなっている気がする。
まだ数日しか経っていないが、エラと上手く打ち解けられたのだろう。
「ともあれ、ククにはこうしてわしの屋敷からサポートをしてもらうことにした。ククは想像以上に優秀でのう、教えたことは何でもすぐに覚えよる。これなら屋敷の管理も任せられると思ったわけじゃ」
「でも1人だけで置いて行くのは危ないんじゃ……」
『大丈夫です。エラさんから認識阻害の魔法も教えていただきましたから、少しくらいなら外も出歩けます。それに私、腐っても魔族なので、ご心配なく!』
「うーん、まあククがそう言うなら」
エラのお墨付きもあるのだし、あまり心配しすぎるのも却って無礼か。
「ではこれから頼むぞい、クク」
『はい! 期待にはバッチリ応えてみせます!』
そう言って声は途絶え、エラは遠話機を再び鞄にしまった。
……それにしてもこの道具、一般人にも普及すれば社会が変わるんじゃないか? っていうくらいの便利さだ。
国がエラの研究費要求に応じているのも頷ける。
「ようし、では行くとするかの!」
「なんでお前が仕切ってるんだ」
「年長者じゃもん」
「それを言うならお姉さんの方が……どうだったかしら。エラ貴女結局いくつなの?」
「秘密じゃ!」
年齢不詳に拍車がかかってきたエラと、いくらか元気を取り戻したアクィラを引きつれて、俺たちは出発する。
アクィラは自分の縄張り内なら「魔界の力を持った魂」を感知できるらしい。
そのことから第五領地には『魔王の器』はいないだろうという結論に至り、早々に第六領地に行くことが決まった。
「さっきはフウツちゃんに夢中で気付かなかったけど、このパーティー、可愛い子がいっぱいね! 貴方、お名前は?」
「トキです」
「ん~! 可愛い! 可愛いわ! そっちの貴方、それから貴女は?」
「フワリだよ」
「あたしバサーク!」
「トキちゃん、フワリちゃん、バサークちゃんね! うふふ、しっかり覚えたわ。お姉さんがたっくさん可愛がってあげるわね」
古い付き合いのエラとすでに「可愛くない」宣言されたデレーはともかく、ヒトギラにはなぜノーコメント?
と思って彼の方を見ると、心底安心した顔をしていた。
まあ本人がこの様子ならスルーしておこう。
最短距離で第六領地を目指して歩く俺たち。
第五領地は町が少ないため途中で野宿をしたが、アクィラの結界のおかげで安心して休めた。
そうして翌々日、第六領地の端にある村・デルカルに無事到着。
森を抜ければ町まであと少しというところまで来た、のだが。
「はーっはっはっは! ようこそ脆弱な人間諸君!」
俺たちを待ち構えていたのは、やたらテンションの高い魔族の男性。
彼は家屋の上に仁王立ちをして俺たちを見下ろしていた。
「また変なのが出ましたわね」
げんなりした声でデレーが言う。
「さて諸君! 少しばかりゲームをしようじゃないか」
「しません」
「死ね」
「戦いの方がいい!」
「はっは! 元気があってよろしい。ゲームには豪華景品もあるから、頑張ってくれたまえ」
男は罵声をガン無視して続ける。
なかなかに強靭な精神の持ち主のようだ。
「豪華景品とは、すなわち……この村の人間の命さ! 諸君が負けると景品は没収、魔王様に献上するからね」
「要するに人質でしょ。小物感増すけど大丈夫?」
「むむむ! 言ってくれるじゃないか奇抜でグッドな服のキミ! 諸君にやる気を出してもらうためだ、悪く思わないでくれたまえ」
再び男は高らかに笑った。
ふざけた態度だが、嘘は言っていなさそうだ。
かと言って馬鹿正直に「ゲーム」とやらに付き合うこともない。
隙を突いて取り押さえ、魔界にお帰りいただこう。
「どりゃー!」
同じことを考えていたか単に戦いたかっただけなのか、バサークが跳躍して男に突っ込む。
空中で身を捻って回し蹴りを男の横っ面に命中させた。
「ぐほっ!?」
男は屋根から叩き落されるようにして墜落する。
「む、ちょっと強い!」
対して軽やかに着地したバサークは、思ったより手ごたえがなかったのか男を警戒して距離を取った。
「よ、よくもやってくれたね……。フライングをする悪い子にはペナルティをくれてやろう!」
男が言うが早いか、視界が手で塞がれたかのごとく真っ暗になる。
何も見えない。
「みんな、大丈夫!?」
叫べども返答は来ず、これが魔族の攻撃だと確信する。
気付けば音もしなくなっており、さらに地に足が付いているのかすら、次第にあやふやになる。
マズい、このままでは、と焦るけれど。
見えない。聞こえない。触れない、動けない?
何が、どう?
なんだか、思考、がぼんやり、して――。
ああまるで眠る時みたいだ、と思ったのを最後に、俺の意識は途切れた。




