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以心伝心、少女現る

 翌朝、俺たちはククをエラのところへ連れて行った。

 エラは「研究がはかどる」と彼女を歓迎し、屋敷に置くことを快く了承。

 これまでのことを報告し、俺たちはエラ邸を後にした。


 さて次の行先は第五領地。

 すなわちここから見て、第三領地とは反対側にある場所だ。


 第五領地は9つの大領地の中で3番目に小さく、おそらく今まで巡って来たどこよりも早く捜索を終えられる。

 さらに山らしい山も無くなだらかな平原が広がっているというので、比較的容易に進めそうだ。


 そんな想像に違わず、数日の後に第五領地に入った俺たちは、悠々と穏やかな景色の中を歩いていた。


「この辺りは魔物が少ないね」


「そうですわね。いっそ不自然なくらいですわ」


 さわさわとゆるい風が草木を揺らす。

 本当に、平和そのものである。


「むー、なんか誰かに見られてる感じがして落ち着かないや」


 バサークがきょろきょろしながら言った。

 俺もつられて周囲を見回すが、何かがいる様子は無い。


「見たところ、誰もいないみたいだけど」


「むしろ何もいなさすぎて、違和感があるのかもしれませんよ」


「うーん、そうかなー」


「ちょっと休憩する? もう少し行くと泉があるみたいだし」


「そうするー」


 俺たちは少し進路を変え、林の方へ向かう。

 林に入ってもやはり魔物の気配は無く、木漏れ日を浴びながら進んでいくとほどなくして目的の泉に着いた。


「わ、きれい!」


 泉は誰が立ち入った形跡があるでも無いのに、周りの草木が整っており、水も澄んでいる。

 まるで絵画の景色がそのまま現実に出て来たようだ。


 各々適当なところに腰を下ろし、体を休める。

 俺はせっかく綺麗な泉に来たのだから、と近くでよく見てみることにした。


「こうも美しい場所だと、精霊でもいそうなものですね」


 トキの声が後ろから飛んでくる。


「確かに。なんだっけ、泉の精霊が出てくる昔話とか無かった? 精霊が村人に恋をして、その人に会うために土で体を作って……みたいな」


「いえ、僕は聞いたことないです。第四領地辺りに伝わる話なんじゃないですか?」


 他愛のないことを話しながら泉に近付く。


「あー、そうかも。デレーは知って――」


 そして岸に立って水面を覗き込み、言葉を途切れさせた。


 右手に何か冷たい感触。

 水にはまだ触れていない。


 ぎこちない動きで視線を向ける。


 そこには、俺の手首をがっちりと掴む手……の形をした水があった。


「わーーーーー!?」


「いかがなさいましたのフウツさん!!」


 一瞬でデレーが隣に飛んでくる。


「ななななんか掴まれてるんだけど! え、これ俺の幻覚? じゃないよね?」


「ええ私にもしかと見えますわ! なんたる狼藉! このっ……お放しなさいませ痴れ者が!!」


 バチャバチャと手を叩くが、水なのでまったく効いていない。

 というか自分が掴むのはできて相手の攻撃はすり抜けるとかズルくないかな!


 なんだなんだと他のみんなも集まってくる。

 しかしこの水の手、なかなかに力が強く、踏ん張っていないと引きずり込まれてしまいそうだ。


「誰だか知りませんけど、その手を放さないなら泉に毒をぶち込みますよ! 二度と生き物が棲めない泉にしてやりましょうか!?」


 トキが鞄から取り出した小瓶を片手にそう叫ぶ。

 すると水の手はあっさりと俺を解放し、泉の中に消えていった。

 一方、いきなり力を抜かれた俺は反動で後ろに転ぶ。


「いたた……。あ、ありがとう、助かったよ……」


「肝が冷えましたわ。何だったんでしょう、今の」


 溜め息混じりにデレーが呟いた。

 全くもって同感だ。


 魔族? それとも魔法?

 いずれにせよ、悪意か敵意はあるのだろう。

 俺たちは泉から距離をとるように後ずさった。


 と、その時。


「もう、毒だなんてヒドイじゃないの」


 どこからともなく女性の声が聞こえた。


「誰ですの!?」


 出所はわからない、強いて言うなら林全体が発しているような声。

 しかしなぜだか俺たちは皆、泉の方を警戒する体勢をとる。

 声の主は泉にいるのだと、理由も無しにそう強く感じられた。


「うふふ。お姉さんの名前、知りたい?」


「ええ! 墓石に名くらいは刻んでさしあげましてよ!」


 くすくす、くすくす、と声は笑う。

 水面が波立ち始めた。


「いいわ、教えてあげる。お姉さんの名前は――」


 泉の水が盛り上がり、何かを形作っていく。

 その様子に先日戦った魔族を思い出し、無意識に剣の柄に手が伸びた。


「アクィラ」


 言葉と共に一陣の風が吹き……そこには、1人の女性が凜と立っていた。

 女性は泉から上がり、こちらに歩いてくる。


「……? なあに、貴方たち。あんまり驚いてないじゃない。お姉さん、張り切って登場したのに」


「最近似たような魔族に会ったので」


「魔族! 魔族ですって!」


 アクィラは心外だとばかりに声を上げた。


「あんな凡庸な種族と同じにしないでほしいわ。いい、ようく聞いてね? 何を隠そう、お姉さんは精霊なの! どう? 今度こそ驚いたわよね?」


「ダウトですわ。こんなアバズレ精霊がいてたまるものですか」


「…………ま~可愛くない。こんなに可愛くない人の子は初めてだわ。どういう教育を受けてきたのかしら? お里が知れるわね」


「……上等でしてよ。ぶち転がしてやりますわ」


「待って待って待って! 落ち着いてデレー! アクィラさん? も!」


 俺は慌てて2人の間に割って入る。

 魔族を「凡庸な種族」と言うくらいなのだから、きっとアクィラは相当強いのだろう。

 デレーが怪我をしないうちに、どうにか収めなければ。


「あら、青髪ちゃん。可愛い貴方の頼みなら聞いてあげなくもないわ。ほら可愛くないお嬢さん、今謝れば許してあげるわよ?」


「フウツさんに近付かないでくださいまし。泥の臭いが移りますわ」


 あ、もう駄目だこれ。


 諦めかけたその時、ポンと俺の肩が叩かれた。

 振り向いた先にはフワリが。


「これ」


 彼は手に何やらねじった紙を持っている。

 紙を受け取り開いてみると、中から釘が出て来た。

 ただの釘ではない、指標釘だ。


「鞄に入ってたの、さっき気付いた」


「? うん」


「たぶんこの前、エラが入れたんだと思う。だから」


 フワリは指標釘を手に取り、振りかぶる。


「きっとこういうこと」


「え」


 ひゅん、と。

 フワリに投げられた釘は空を切って飛んでいく。


 それは今にも取っ組み合いを始めそうなデレーとアクィラの間の地面に、さくりと突き刺さった。


 2人は動きを止める。


「なんですの、釘なんか投げて。危ないですわよ」


「? 何これ。なんだか妙に嫌な感じが――ハッ!」


 訝しげに指標釘を眺めていたアクィラが、急に血相を変えて後退した。

 いったいどうしたというのだろうか。


「この忌々しい雰囲気……! まさか」


「そのまさかじゃよ」


 一瞬、空気が揺らいだかと思うと、口調とはちぐはぐな声と共に1人の少女……エラが現れた。


「ね」


 フワリが自慢げに笑う。

 さすが付き合いが長いだけある、以心伝心とはこのことだろう。


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