夢とロマンと欲望と
「秘密兵器……?」
「ええ。昨晩フウツさんが眠った後、エラさんから手紙が届きましたの。何か必要なものがあれば作ってやる、と」
「それで、なんかすっごいのみんなで考えよーってなったの!」
「な、なるほど」
唐突な上にやたらふんわりした説明だが、単純に戦力増強ということだろう。
秘密兵器、というと仰々しいけれど、魔物が活性化して魔族も来ている今、切り札を用意しておくのは良いことだ。
「意見がある方は挙手で。はい、フワリさん」
「石化ビーム砲……。生きたまま人間を石にできるやつ。モデルの負担が減るし、いざとなったら盾にもなる。どう?」
「実用的で素敵な案ですわね! ですが人道に反しておりますので却下ですわ!」
絶妙に私欲を隠しきれていないところが彼らしくはある。
しかしデレーの言う通り、少々倫理観に欠ける。
というかなんで対人前提なんだ……?
「じゃあ次あたし!」
「はいバサークさん」
「でっかくて強い鉄人形! 物見台より背が高くて、自由に動かせるの! 魔物も魔族も踏みつけるだけでぺちゃんこだよ。あ、でもそしたら自分で戦えなくなっちゃうや……」
「斬新かつ効率的ですわね。でもそのサイズですと周囲への被害が洒落になりませんので要検討ですわ」
巨大な鉄人形か……。
色々無茶な気もするけど、なんというかロマンがある。
できることなら是非お目にかかりたい。
「次、トキさん」
「毒針が矢より速く発射されて狙った相手を追いかける武器、なんてどうです?」
「なかなか高度ですが、エラさんなら作れるかもしれませんわね。これも要検討でしょうか」
夢半分、現実半分みたいな案。
もし本当にできたら味方に当たることのない、安全な武器になることだろう。
「はい、ヒトギラさん」
「手を触れずに人体を切断する」
「便利は便利ですが物騒ですわ! あと人に使うつもりではありませんわよね!?」
「はは」
「少しも笑っていない笑い方はおやめなさいまし」
これはヒトギラ流ジョークなのだろうか。
……いやちょっと本気で欲しがってそうだな。
「そういうお前は?」
「私はフウツさんと一体化して戦いさえできれば、あとは何も望みませんわ」
「無欲に見せかけたドぎつい強欲やめろ」
うーん、一体化はさすがに恐怖を感じるのでやめていただきたい。
そもそも俺と一体化して戦うとかどういう願望なんだ……楽しいのかそれ……?
「フウツさんはいかがです?」
「俺?」
みんなの会話に聞き入っていたので、話を振られたのがやや不意打ちのようになる。
「そうだな、俺は……何かこう、みんなと力を合わせて使う武器とかあったらいいなあ、みたいな」
「まあまあまあ! フウツさんらしい、素晴らしい案ですわ!」
「わかった、6人乗りの馬車にしよ! 全員馬に乗るの!」
「馬車は武器じゃないですよ」
「えー、じゃあ馬にトゲ付けてさ――」
その後も議論は白熱し、宿の主人が「正午を越えて居座るなら追加の宿泊料金貰いますけど」と部屋にやってくるまで続いた。
完全にはまとまらなかったものの、俺たちはひとまず出た意見をまとめてエラへの返信とした。
「海を陸にする装置」とか出だした時はもうこれ収拾つかないだろ、と思ったけれど、まあいつものことなのでご愛敬。
実になる話だったかは別として、楽しい時間を過ごせた気がする。
「フウツ、元気になった?」
「え」
宿を出て次の目的地へと歩いていると、バサークがふと俺の顔を覗き込んで言った。
「お、俺はいつも……とは言い切れないけど、だいたい元気だよ。昨日も今日も」
「うっそだー。昨日すっごい顔してたもん。ね、トキ」
「それは言わないって話だったでしょうに……。まったく、アホの口は留めようがありませんね」
トキは溜め息を吐いた。
「まあいいだろう。今にも死にそうな面は治ったんだ」
「え、え、待って俺そんなに酷い顔してたの?」
「してた」
満場一致である。
「じゃ、じゃあ……もしかして、さっきまでのあれって……」
「うふふ、気付かれてしまいましたわね。ええ、フウツさんに元気を出していただこうと思いましたの」
「わ~~~~~~~!!」
なんだかもう嬉しいやら恥ずかしいやら。
俺は手で顔を覆ってしゃがみ込んだ。
「あうう……。し、心配かけてごめん……でもありがとう……」
「ん。フウツくん、照れてる?」
「照れてマス……」
「ほほう」
見えないけど、フワリが俺の周りをぐるぐる回ってる気がする。
というか足音がする。
「あのタイミングでエラさんから手紙が来たのは幸運でしたね。千里眼でも持ってるんでしょうかあの人」
「持っててもおかしくはないよね」
さて、とデレーの声が上から降ってくる。
「お立ちになって、フウツさん。荷物が重ければお持ちいたしますけれど」
顔を上げると、彼女は俺に手を差し伸べていた。
「ううん」
俺はその手をとって立ち上がる。
「大丈夫。自分で持てるよ」
みんなと肩を並べて、再び歩き出す。
空の上では、太陽がさんさんと光を振りまいていた。
それから2日ほどかけて、俺たちは第二領地の中心都市・セジューに到着した。
いくつもの河が流れるセジューは、あちこちで舟を漕ぐ運送業の人々が見られ、中心都市の名にふさわしい賑わいぶりらしい。
……らしい、のだが。
「やけに人通りが少ないですわね」
「舟も全然いないよー」
河は静かに流れるばかりで、舟なんてひとつも見当たらない。
そればかりか、通りを歩く人も数えるほど。
活気とはほど遠い光景がそこにはあった。
「何かあったのかな」
「依頼をとるついでに、ギルドで聞いてみましょう」
閑散とした街並みを眺めながら俺たちはギルドへ向かう。
道行く人々は皆、速足で何かに怯えているような様子だった。
さすが都会、ギルドの建物も立派なものであったが、やはり全く人がいない。
いるのは暗い表情をした受付の男性のみ。
「すみません、依頼を受けたいんですけど」
「ああ……ほらよ、好きなのを選びな」
彼は気だるげな視線で俺を一瞥し、半ば投げるようにして紙束を寄越してくる。
あまりにも疲弊した風だったので街の様子について聞こうにも聞けず、ひとまず依頼を見繕うことにした。
「……ん?」
ぺらりと1枚目をめくったところで小さな疑問が湧く。
が、まあそういうこともあるだろうと次をめくり……疑念が強まった。
次のページも、そのまた次のページも。
一緒に見ているみんなも小首を傾げる。
「……ねえおじさん」
ついにフワリが口を開いた。
「なんでこんなに『運送代行』の依頼ばっかり並んでるの?」
そう、これだけたくさんある依頼がありながら、そのほとんどが運送業者からの「荷物を運ぶのを手伝ってほしい」というものだったのだ。
これが別の街ならまだ納得できるかもしれないが、よりにもよってこのセジューでというのが気にかかる。
見たところ河に異常は無かったし、天気の荒れた痕跡も無かった。
いったいなぜ冒険者に運送を頼まなければいけないのだろうか。
「魔族だよ」
男性は言った。
「この頃、魔族が街のあちこちで悪さをしてるんだ。奴は河に潜んでいるから運送業者たちは恰好の餌食さ。それでみんな河に近付きたがらなくなって、この有り様だよ」
「道路を使えばいいんじゃないの」
「それで解決してれば苦労は無い。元々ここの運送業は河があってこそ成り立っていたんだ、急に陸路だけに切り替えるなんてできっこない」
「ならその魔族を退治しちゃえば」
「無理だ。言ったろ、あいつは河に潜む。完全に溶け込んじまうんだ。神出鬼没で追うことができないんだよ」
「ふーん」
フワリがこちらを向く。
いつもは考えが読めない彼だが、今は手に取るようにその意図が理解できる。
俺もみんなも、こくりと頷いた。
フワリはもう一度、男性の方に向き直り口を開く。
「じゃあ、ボクらが退治するよ」




