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物騒な芸術家

 そうこうしていると周りの景色がぐにゃりと歪み、かと思ったら俺は元の砂浜に立っていた。

 もちろん、隣にはフワリもいる。


「よかった、みんななんとかしてくれたんだ――」


 安堵の言葉を口にした俺は、しかし視界に飛び込んで来た光景に固まった。


「ああ! もっと! もっとです!」


 豚の丸焼きよろしく、棒に縛られ火炙りになっている魔族の男。


「っこの……! えい! えい!」


 どこから持ってきたのか、彼に鞭を振るうデレー。


「…………」


 物凄く離れた所から魔法で炎を出し続けるヒトギラ。


「ねーこれいつまでやるのー? 飽きたよー」


 男の体を支える棒をくるくると回すバサーク。


「人間以下の負け犬! オス豚! えっと……廃材!」


 男の正面に立って絞り出すような罵倒をするトキ。


 あまりの地獄絵図に絶句する。


 なんだこれ。

 何が起きているんだ。


 近付いて良いのかすら判断しかねて立ち尽くしていると、こちらに気付いたデレーが顔を上げた。


「フウツさん!!」


 一瞬でその表情は歓喜の色に染まり、彼女は鞭を投げ捨てて駆け寄ってくる。


「ご無事でしたのね! いえ危害を加えられていないことは存じておりましたけれども、ああ本当に安心しましたわ!」


「フウツお帰り! 大丈夫だった?」


「お前、お前……本当にお前……」


「良かったです。じゃああの変態はもう殺してもいいですね!」


 それに続き他の3人も詰め掛けて来て、思い思いの言葉を口にした。


「ごめんね、俺が油断してたばっかりに。……で、その、あれは……何?」


「……話せば長くなりますわ」


 デレーは物憂げに目を伏せて語りだした。


 俺を謎の魔法で消し去った――これはデレーたちから見ての話であり、実際はあの奇妙な場所に飛ばされただけなのだが――後、あの魔族はデレーたちにある要求をしてきたという。

 曰く、「私をいたぶっていただきたい」「さもなくば今しがた捕まえた者の命は無い」と。


 男はみんなが逆らえないのをいいことに、鞭打ち、火炙り(火加減担当)、火炙り(回転担当)、罵倒とそれぞれに役割を与え、実行させた。

 ちなみに最初はヒトギラも鞭打ちを、バサークは火炙りをさせられていたが、前者は開始早々ガチ吐き、後者は男が消し炭になるレベルで火力を上げてきたのでチェンジになったらしい。


 ヒトギラは言わずもがな、デレーとトキも酷い心労だっただろう。

 何が悲しくて見知らぬ男を鞭で打ったり罵倒したりしなきゃいけないんだ。

 いや俺が人質になってたからか!


「ごめん! 本っっ当にごめん!!」


「まあ、完全に不意打ちでしたし、フウツさんだけに非があるわけではなくってよ。というかそもそもあの変態男が悪いのですわ」


「心の底からごめんなさい……以後気を付けます……」


 よくよく思い出してみれば、攫われたり捕まったりするの3回目では……?

 どうしてこんなに狙われるんだろうか。

 いっそ何か理由があってくれとさえ思ってしまう。


「あのー」


 ふと、後ろからぼんやりとした声が飛んできた。


「そろそろボク喋ってもいい?」


「あっ」


 つい彼のことを忘れてしまっていた。

「フワリだ! 久しぶり!」


「うん、久しぶり」


「なぜフワリさんがいますの?」


「えっと、ついさっきのことなんだけど――」


 俺は謎の空間に飛ばされていたこと、そこへ魔魂探知機を指標にしてフワリがワープしてきたことを説明した。


「つまり……密室で2人きり……? 何も起きないはずはなくってよ!?」


「落ち着いて、何も起きなかったから!」


「でも名前が似てるって話はしたよ」


「一番どうでもいいとこ切り取ってきたね!?」


 フワリは変わらずつかみどころが無いけれど、デレーの思考がいつもより輪をかけて明後日の方向に爆走している。

 やはり疲れているみたいだ。


「あれ? だったらなんで出てこられたんですか?」


 トキが首を傾げた。

 確かに、みんなはずっとアレをやらされてたわけだし、俺たちはもちろん何もしていない。

 魔法を使った本人が自ら解くはずもないし――。


「人数オーバーですよ、単純にね」


 いつの間に拘束から逃れていたのか、炙られていた魔族の男が背後に立っていた。


「来ないでください、変態に付ける毒はありません!」


「フウツさんから速やかに離れてそのまま海に突っ込んでくださいまし!」


「んっん……新鮮な罵倒をありがとうございます。突然の放置プレイもなかなかキきましたよ」


 恍惚とした笑みを浮かべながら男は紳士的に、しかし絶望的に気持ち悪……もとい独特の感性で返答した。


「えっと、人数オーバーってどういうこと?」


 この人のペースで喋らせちゃいけないような気がして、俺は強引に話を戻す。


「私の魔法では、小さな空間を作り出して複製するのが精いっぱい。それに中に入れておけるのも1人だけでしてね。2人以上いると空間を維持できないのですよ」


「! じゃあ、あそこから出られたのはフワリのおかげってことだ」


「ふーん。偶然ってすごいねえ」


 事もなげにフワリは続ける。


「それよりキミ、何しにこっちの世界まで来たの?」


「当然、魔王様の命を果たすため……というのは建前で。なに、こちらの人間に蔑み、罵り、嬲っていただきたく思ったからに他ありません」


「へえ」


 自分から聞いておいて、凄まじく興味の無さそうな生返事だ。

 彼のことだからもしかしたら男からインスピレーションを得たりするかとも思ったけれど、どうやら琴線には触れなかったようである。


「なら、もう目的は達成したよね? 魔界に帰ってくれるの?」


「いえ。まだ足りません。もっともっと人間界を堪能したく」


「立ち去らないのでしたらここで殺しますわよ」


「ようし、満足したので帰らせてもらいましょう!」


 暴力を受けることには喜んでいたものの、やはり命は惜しいみたいだ。

 男は手のひらを返し、高らかに帰還宣言をした。


「それでは皆様、ごきげんよう!」


 懐から取り出した緑色の石を砕く。

 輪郭がぼやけたかと思うと、彼は跡形も無く消え去っていた。


「変な人だったね。あたし叩かれて喜ぶ人なんて初めて見たよ」


「まったくだ。次来たら即焼き殺してやる」


 これで俺たちが遭遇した魔族は3人ということになる。

 そのうち先ほどの男含む2人は人間を殺そうとはしなかったが、おそらくああいうのは少数派だ。


 魔物の活性化も広がってきているようだし、決して油断はできない。


「そうだ、フワリは用があって来たんだよね。何の用?」


「ああ。キミたちのパーティーに入ろうかと思って」


「えっ? あ、そう、だったんだ」


「駄目?」


「ううん、むしろ歓迎するよ」


 有り得ない、とまでは行かないがそこそこ意外な回答だ。

 てっきりエラからの伝言とかかと……。


「まあ状況が状況ですし、戦力が増えるに越したことはありませんね。フワリさんは何の役職なんですか?」


「【格闘家】」


「なるほど、かくと……【格闘家】!?」


 またもや彼の口から飛び出した、有り得なくはないけどかなり意外な回答にトキは驚きの声を上げた。


「え、拳で芸術について語ったりするんですか?」


「別に。でも、殴る蹴るの暴行は得意」


 この芸術家、果てしなく物騒である。


「じゃー今度あたしと戦ってよ! ね! 素手だったら怪我しにくいから! いいでしょ?」


「気分だったらいいよ」


「わーい!」


「それ断る時の常套句だろ」


「いや、たぶんあれ素で言ってる」


「天然ですのね。……厄介なライバルが増えましたわ」


 ――こうして、俺たちのパーティーに新たな仲間が加わったのであった。


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