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緑色の石の正体

 デレーは戦うのが上手い。

 陳腐に聞こえるかもしれないが、本当に上手い。


 傍から見れば俺とデレーが連携して立ち回っているように感じられるかもしれないけれど、それは違う。

 デレーが俺に連携してくれているのだ。


 例えば俺が左から右へ剣を振ると、デレーは右側に斧を振り下ろして相手の逃げ場を潰す。

 例えば俺が力を込めた一撃を繰り出すと、デレーはその攻撃後にできる隙をカバーする。


 俺は思うままに剣を振るっているだけであり、連携が成立しているのはデレーの技に依るところだ。

 情けない話、俺は彼女に頼り切り、ということになる。


「滅相もございませんわ。全てはフウツさんが私を信頼してくださっているからでしてよ?」


「そ、そうかな……」


「なになに? 内緒話か?」


「黙らっしゃいこの軟派男!! 私とフウツさんの愛の語らいを邪魔しないでくださいまし!?」


 デレーの敵意は留まるところを知らない。

 しかし理不尽な叱責を受けてなお、魔族の少年はケラケラと笑いながら戦闘を続行する。


 もしかして魔界ってみんなこんな感じだったりするのかな?

 いやそれは風評被害が過ぎるか。


 そうこうしていると突然、ふ、と地面に影が落ちた。

 反射的に上を見上げる。


 逆光でよく見えないが、誰かが頭上からもの凄い勢いで迫ってきている……ということに気付いた次の瞬間には衝撃と共に土煙が舞い上がり、バサークが少年の襟首を掴んで立っていた。

 少年はぐったりと伸びている。


「いえーい、あたしの勝ちー!」


「まったくもう、いいところでしたのに……」


 横から、というか上から勝利をかっさらわれたデレーは、少々不満げに呟きながら少年に縄をかける。


「フウツさん」


「ああ、トキ。そっちも済んだんだね。もっと時間がかかるかと思ってたけど、さすがだよ」


「いえ、それなんですが……建物の中には誰も取り残されてなかったんです。それに、怪我人もあの騎士たち以外には見当たりませんし、彼らは彼らで小さな傷しかありませんでした」


「え、そうなの?」


 いったいどういうことだろう。

 この間の男は人間を殺そうとしていて、それが「仕事」だと言っていた。

 だからこちらに送られてくる魔族は人間を殺すことを目的としていると思っていたけれど、違うのか?


 思えば、先日の彼はこんなふうに通りで暴れることもしなかった。

 もしかして……この少年は魔王の命令を受けたわけではない?


「終わったか」


 援護はしつつも遠巻きに見ていたヒトギラがやって来る。


「うん。死人が出なくて良かったよ」


「あのロン毛小僧は気絶したようだな」


 ヒトギラも髪長いじゃん、と言いかけたがそこは飲み込んでおく。


「あ、でも――いま起きたみたい」


 縄で縛られバサークにつつかれていた少年の体が、もぞもぞと動き出した。

 トキの言っていたこととか、気になることがいくつかある。

 俺たちは彼を尋問すべく近寄った。


「うへえ、今の凄かったぜ。上から不意打ちかましてきたのはお前か?」


「そーだよ! あたしバサーク、よろしくね」


「おう、よろしく! 俺はウラハってんだ。ってかお前、竜人だろ。いいのかこんなとこにいて」


「いいのいいの。あ、紹介するね! 青いのがフウツ、薄ピンクがデレー、黒いのがヒトギラ、金髪がトキだよ。みんなあたしの仲間!」


「へー! なんかいっぱいいるんだなー」


 なぜか2人とも、さっきまで戦っていたとは思えないほど和気あいあいと喋っている。

 というかバサーク、まさかとは思うけど、髪色で俺たちを判別してない……?


「バサークさん、当初の目的をお忘れでありませんこと?」


 デレーに言われ、ようやく彼女は思い出したように「あ、そうだった」と手を叩いた。


「ゴーモン!」


「それは駄目だってば!」


「ですがフウツさん、ここにちょうど毒がありまして」


「ありましてじゃないよ!」


 トキは理性的な雰囲気を醸してはいるが、その実わりと欲望丸出しなので油断ならない。


 ひとまず物騒な2人を遠ざけておき、俺は少年――ウラハに質問を投げかけた。


「君、緑色の石って持ってる?」


「緑……ああ、あれか。持ってるぞ」


「じゃあそれの使い道を教えてもらえるかな」


 自分で問うておいてなんだが、そう簡単には口を割らないだろう。

 ここからどう交渉、あるいは脅しをするかが問題だ。


「知らね」


「しらばっくれると酷いですわよ」


 思った通り、白を切るウラハにデレーが斧を突き付ける。


「知らねーって。あ、でもこっちに来てる奴らが全員持ってるのは確かだぜ」


「……? なんだか他人行儀な言い方ですわね」


「だって他人事だし」


 その瞬間、頭の中で歯車がカチリと噛み合った。

 そうか、そういうことだったのか。


「ウラハ、君は魔王とは関係無く、自分の意志でこっちの世界に来た……ってこと?」


「そうだけど。……あれ、わかんなかったのか」


 やっぱり。

 俺たちは根本からこの少年のことを誤解していたのだ。


「あー、なるほど。うん。今理解しました」


 トキも俺と同じ考えに辿り着いたようである。


 ウラハは好戦的ではあったものの、人を殺しはせず、また対峙したであろう騎士以外には手出しさえしなかった。

 加えて先ほどの、「こっちに来てる奴ら」のことは「他人事」という発言。


「大方、本来こちらに来るはずだった人の席を奪ったんでしょう。で、ついでに所持していた緑色の石も持ってきた、と」


「正解! その通りだぜ」


「では重ねて2、3尋ねたいことが。ひとつ、この世界に来られる人と来られない人の違いはありますか?」


「そりゃあもちろん、あれだよ。魔力量。ここの空気は変だからさ、魔力が多い奴は長いこといられねーじゃん? だから弱い奴しか来られないんだ」


「空気が変……?」


「そう、なんか変。質が違うってーの? なんか偉い奴らが言うにはそうらしい」


「…………???」


 申し訳ないが、まったく話が見えてこない。

 おそらく俺たちが彼にとっての常識を持ち合わせていないからだろう。


 その旨を伝えると、彼は頭を捻りながらもイチから説明してくれた。


「まず、俺らの世界とこの世界じゃ空気の中にある魔力が違う。お前らにとってはどうか知らないけど、俺らの魔力とお前らの魔力が混ざると毒になるらしい。で、どのくらい悪いかはそれぞれの魔力量によって変わる。自前の魔力が多いほど毒もいっぱいできるからな。だから、魔力量が多い奴ほどこっちに来られない」


「ふむ……なるほど。魔力量と個人の強さは比例するので?」


「そりゃそうだよ。……その感じだと、こっちでは違うんだな」


「はい」


 となると、緑色の石の用途は――。


「魔力同士の反応を抑える道具、かな」


 もしそうなら、先日の男が石を奪われて焦っていたのにも納得がいく。

 この世界で魔族が活動をするための必需品というわけだ。


「確かにその可能性は高いですね」


「ですが、魔物はどうなんですの? あれは石なんか持っていませんわよ」


「ここにいるのは1000年前の魔物の子孫だろ? なら魔力なんてほとんど持ってないぞ」


 情報が混雑してきたので一度まとめると。


 この世界と魔界では空気中や体内に存在する魔力の質が違う。

 ふたつが混ざると、魔族にとっては毒となる。

 魔力量が多いほど生成される毒も多くなるから、魔力が多い=強い魔族はこちらに来られない。


 緑色の石は毒ができるのを抑制するはたらきを持つが、まだそこまで性能は良くない。

 よって、この世界にいられるのは、緑色の石で抑制できる程度の毒しかできてこない=魔力の少ない魔族か、元々魔力をほとんど持たない魔物だけ。


 ……こんな具合だろうか。


「んーと、じゃあこないだの人が消えちゃったのは? 死んじゃったってこと?」


「いや、おそらくあれは……安全装置だ」


 ヒトギラが口を開いた。


「比較的弱かろうと仮にも戦力だ、『割れた時』の対策も無しに送り出すのはリスクが高すぎる。つまりあの男は『消えた』んじゃなくて『帰った』んじゃないか」


「割れると強制的にワープ魔法が発動して、持ち主を魔界に帰す――理にはかなっていますね」


 それを聞いて、俺はこっそり胸をなでおろした。

 良かった。あの人を殺しちゃったわけじゃないんだ。


 と同時に、少しの不安が心をよぎる。


 この先も魔族と戦っていくとして。

 人を殺す覚悟が無い俺は、自分やみんなを殺そうとしてくる相手に太刀打ちできるのだろうか。


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