想定外
昇格云々でもめた翌日。
準備万端で意気揚々と魔窟にやってきた俺たちは、しかし予想以上の苦戦を強いられていた。
要因は大きく3つ。
「このっ……次から次へと、しつこいですわね!」
ひとつめ。
魔物の数が異様に多い。
依頼の概要欄には「巨大ネズミ型魔物の小規模集団。個体数は1~10と推定」なんて書いてあったのに、今までですでに20は倒している。
「魔物ってこんなに強かったですっけ!?」
ふたつめ。
明らかに魔物が強い。
まず魔物というのは動物をベースにしたような形をしているのだが、強力なものになると動物とはかけ離れた姿になっていくことが確認されている。
逆に言えば、姿が動物に近ければ近いほど力は弱いということになるのだが。
この魔物たちはほとんどネズミと変わりない形をしているにも関わらず、なぜかとても強い。
数のことも考えると、この魔窟で何かイレギュラーが起こったのだと思われる。
「バサーク、本当に大丈夫?!」
そしてみっつめ。
バサークが絶不調状態にある。
さすがにまだ俺たちよりは遥かに強いが、目に見えて移動速度や攻撃力が落ちているのだ。
何度か「最近、調子が出ない」と言ってはいたものの、まさかここまで悪化していたとは……。
本人は「逆に燃えてきた」なんて戦闘を続行しているのだが、やはり少し心配だ。
「はあ、はあ……。ようやく一休みできそう、かな」
やっとのことで、俺たちは目視できる範囲の魔物をなんとか倒しきった。
まだまだ魔窟は奥に続いているけれど、ここで一息つくべきだろう。
「まったく、どうなってるんだこの魔窟は」
「前情報が間違っていたのか、それとも依頼が出されてからこの状態になったのか……うーん」
トキが頭をひねる。
「後者とは考えたくないですね。急な繁殖、それに強化。嫌な予感しかしません。それに、バサークさんの弱体化も無関係とは言い難いですし」
「あたしわかった! この魔窟に何か凄いのがあるんだ!」
「まあその可能性もありますね。なんにせよ、依頼を終えたらギルド……場合によっては騎士団にまで報告した方がいいでしょう」
それから俺たちは、ひとまずここの強敵に対抗すべく作戦を練ることにした。
俺やデレーの体力や、ヒトギラやトキの魔力はかなり削られている。
バサークは元気こそあるものの思うように火力が出ない。
であれば、短期決戦しかないだろう、という結論に至った。
これを元にして話し合いをした末、俺たちはやっとこさ作戦をまとめた。
「よし、じゃあ行こうか」
俺たちは、腰を上げて再び魔窟の奥へと進み始める。
少し行くと魔物が数匹たむろしているのが見えた。
みんなと目を合わせ、頷いて合図を送る。
まずバサークが単騎で飛び出し、魔物……ではなく地面を思いっきり叩いた。
地震が起きたように洞窟全体が大きく揺れ、驚いた魔物たちがあちこちから集まってくる。
「今だよ!」
「ああ」
バサークは下がり、入れ替わりでヒトギラが前に出る。
すかさず魔法で強風を起こして、魔物たちを洞窟の奥へ奥へと後退させ始めた。
洞窟は幅の広い道を中心に、おそらく寝床に繋がる細い道や穴が何本かある、という作りだ。
しかし敵の襲来により興奮状態にある魔物たちは、細い道に逃げ込むことなく応戦してくる。
そう体が大きくはないため、魔物たちは強風にじりじりと押されていく。
俺とデレー、バサークで風から逃れて突進してくる者を迎え撃ちつつ、とうとう洞窟の最奥まで魔物たちを追い詰めた。
「みなさん、下がって!」
トキの合図で全員が一斉に魔物から離れる。
「全・力・投・擲!」
間髪入れずにバサークがガラス玉――トキの毒が入った例のやつ――を魔物の方へ投げた。
ガラス玉は集団の中の一匹に命中して割れ、途端に白い煙が噴き出す。
魔物はたちまち煙に包まれてのたうち回り始め、数十秒後にはビクビクと痙攣するだけになっていった。
「ふう……上手くいったみたいだね」
「ええ。お疲れ様ですわ」
まず平たく言えば、この作戦は「全員おびき出して一か所に集め、毒で一掃」であった。
魔物はみんな中型犬サイズ。
ネズミ型だから飛んだりもしない。
そこでトキが選んだのが、空気より遥かに重いという毒煙。
人間に使うには向いていないのだが、今回のような魔物になら効果てきめんだ。
背が低いため下に溜まる毒煙でも吸ってくれるし、上に逃れる術も無いのだから。
ちょっと残酷に思ってしまったと言えばそうなのだが、今はこうするほか無かったし、根本的には魔法で広範囲の攻撃をするのとあまり変わらない。
そこを否定しては駄目だろう、と俺は腹をくくることにした。
「さ、退散して報告に行きましょう。念のために聞きますが、体調不良者はいませんか? ……はい、大丈夫そうですね」
「トキ、解剖して行かなくていいの? 証明書出したら掃除屋が全部片付けてっちゃうよ」
「ああ、そうですね……でも仮にも毒を撒いた洞窟に長居するのは良くありませんし。持ち帰りにしましょうかね」
「わかった、なら俺が運んでいくよ」
毒を吸っておらず、かつできるだけ綺麗な個体を見繕い、念のためヒトギラに軽く風で吹いてもらってから袋に詰める。
そうして俺たちは依頼主、次いでギルドを回り、ひとまず拠点に戻った。
「ふふ……それでは、僕はさっそくこの魔物の解剖をしてきますので。あとはよろしくお願いします」
「じゃ、あたしお留守番してるよ」
「……こいつらだけだと不安だ、俺も残る」
「では私とフウツさんで騎士団に行って参りますわね」
「よろしくー!」
そんな具合で、俺はデレーと共に拠点を後にする。
「あちらの道を真っすぐ行けばすぐに駐在所ですわ。手早く済ませて、ゆっくり休みましょう」
「そうだね」
特に話すことも無く歩いていると、デレーがおずおずと口を開いた。
「近頃、私思いますの。やはり愛に勝る力なんて存在しないんだって」
「……な、なんで?」
わりかし唐突な話題に困惑しつつも相槌を打つ。
「私、フウツさんと一緒にいると、とっても力が湧いてきますの。体の芯が熱くなって、なんでもできてしまう気がするんですのよ。きっとこれは、愛の力に違いありませんわ。フウツさん。私、あなたに会えて幸せです。私はあなたがいるから戦える。あなたがいるから頑張れる。あなたは私の生きる意味そのものですわ。きっと命に代えてもお守りしますから、どうかずっとおそばに置いてくださいまし」
「えーっと……命には代えないでほしいかな」
「まあ! わかりましたわ、フウツさんがそう言うのなら、手を捥がれ足を捥がれようともあなたの元へ帰ってきますわ」
「捥がれる前に逃げてね? あー、あと、その……言いにくいんだけど……」
「ああ、皆まで言わずとも伝わりますわ。まだ私を恋愛対象としては見ていないのでしょう? 困らせてしまって申し訳ありません。でもそれに関しては、以前言った通りあなたに非はございませんのよ。私の力量不足ですもの。まあ、あなたがどこへ行こうと、死ぬまでずっとずっと追いかけますから。うふふ、絶対にその心を掴んでみせますとも」
デレーはそう言ってウインクをした。
うーん、やっぱりデレーって優しいんだよなあ。
愛はめちゃくちゃ重いし時々暴走するけど、俺が気持ちに応えられないことに関しては怒らないし、責めもしない。
俺の気持ちを酌んで譲歩してくれることも何度かあったし。
「こんなに良くしてくれてるんだから恋人になってあげるべきかな」とか最初の頃は考えたりもしたけど。
それじゃ駄目なんだよね。
中途半端な心で応えるなんてことは、彼女に対する侮辱に他ならない。
俺は俺の気持ちを偽らずに、デレーと接していくんだ。
「ええ、そうしてくださいまし」
「わあまた心読まれた」
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(謎タイミングですが思い立ったので後書きに記載してみました。)




