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閑話:彼の過去あるいは未来
間に合わなかった。
間に合わなかった。
みんなが託してくれたのに。
俺がやらなければいけなかったのに。
世界を塗り潰した黒い波が引いて行く。
やめろ。
やめてくれ。
みんなを連れて行くな。
ああ、海が消える。
思い出が飲み込まれる。
幸せな記憶が蹂躙されていく。
――そして今日も俺は、物言わぬ人形のようになった彼らの前で目を覚ます。
嫌悪から来る吐き気を抑え、立ち上がる。
行かなくては。
みんなを取り戻さなくては。
大嫌いな世界。
大嫌いな人間たち。
全部全部、ぶち壊してでも。




