少年よ、正義を守れ(下)
推奨:第6章の「エピローグ」まで読了
ゼンは善い青年に育った。
仲間を想い、他人を想い、彼は人を守るためにいつも一番前に立ち続けた。
強く、優しく、人に好かれる。
故に誰もが、彼を次期魔王に推薦した。
――それが本人を苦しめることになるとは、つゆ知らず。
レジスタンスと魔王の真実を知った時からずっと、ゼンは罰を受けることを望んでいた。
組織が魔王に濡れ衣を着せ、無実の罪を糾弾していたことに気付かなかった罪を。
ちゃんと対話をしないままに、幹部たちを殺してしまった罪を。
ゼンは、償いたかった。
死んで詫びたかったのだ。
だが彼には役割と責任があった。
ここで全て投げ出してしまっては、魔界はさらに混乱する。
加えて、魔王を放置すればフウツたちの命が危なく、また一般市民の安全が保障できないのも事実だ。
自罰感情とこれらのことを天秤にかけた結果、ゼンが選んだのは「悪役になる」道だった。
魔王を倒してから「皆を騙して王座を狙った者」として罰を受ければ良いと、彼はそう考えたのだ。
かくしてゼンは仲間と共に戦いに挑み、勝利する。
さあようやく裁きの時だと安堵した彼は、しかし周囲の熱烈な支持を受けた。
その上、真実を知る者たちは誰もゼンを責めず、彼はただただ称賛を期待だけを流し込まれた。
一度はそれらを拒もうとした彼だったが、断りの言葉を口にする寸前で気付く。
ああ、これが罰か、と。
瞬間、ゼンは自ら逃げ道を閉ざした。
自分は嘘を信じ、真実を知った上でもなお嘘をついた。
であれば最後……誰かに暴かれるまで、つき通さなければならない。
心が軋み、悲鳴を上げようと、善を装うべきなのだ。
それからゼンは、全霊を以て良き王であろうと努めた。
仲間の手を借りつつも、よりよい魔界をつくるため、制度の見直しや各種調査、人間界との交流にも踏み出した。
民衆たちは懸命に働く彼をさらに褒め称え、素晴らしい指導者だと仰ぐ。
彼はそのたびに耐え難い苦痛に苛まれたが、そんなことは微塵も表に出さずに過ごした。
己を殺して王となり、最後は悪として裁かれる。
これが、ゼンが自らに課した罰だからだ。
魔王になって以降、真実を知る仲間たちにも、何も知らない人々にも、彼が弱音を吐くことはついぞ無かった。
だがそれでも、ゼンはいつの日か――それこそ数百年後であっても――自分が裁かれることを夢見ずにはいられなかったという。
* * *
――以下、約1200年後の魔界で広く使用されている教科書より引用。
「レジスタンスと彼らに賛同した者たちの蜂起により、初代魔王は打倒された。これにより、レジスタンスのリーダーであったゼンが次代魔王に就任。人間界との交流や魔界の立て直しに大きく貢献したゼンは名君と称され、現代においても、『勇者』と並び世界をまたいで大英雄として慕われている。」




