憧憬
推奨:第4章の「それでも、凡人のままで」まで読了
ガルディは、裏社会で生きるために生まれて来たかのような男だ。
父親は『影の会』の大幹部、母親は傘下の組織の頭。
体が頑丈で毒の類はそうそう効かず、大抵の外傷は放っておいてもころっと治る。
肝も据わっており、7歳の頃、武器を持った大人10人に囲まれた時でさえ平然としていた。
優れた戦闘能力、判断力、カリスマ性、容赦の無さ。
彼は闇の中で生きるための力を、全て持っていた。
負け知らずのまま少年期が過ぎ、青年になったガルディ。
そこに大きな壁が立ちはだかる。
壁、すなわち『友好会』のボスだ。
無論それは当時の話であり、今となっては「元」であるが。
若き日のガルディは彼に勝負を挑み、端的に言えば完敗した。
直接的に戦ったわけではないが、派遣した部下と綿密に組み立てた計画を、完膚なきまでに潰されたのだ。
ガルディは初めて敗北の味を知り、それまで順調すぎるくらいに育っていたプライドも粉々に砕かれた。
しかし同時に、『友好会』のボスに対して強烈な憧れを抱いた。
自分より強く、自分より頭が良く、自分よりカリスマがあり、自分より容赦が無い。
完全に上位互換だ、とガルディは感じ、そして惹かれた。
もしも当時『影の会』の幹部という立場にいなければ、ガルディは彼の元へ下っていただろう。
それほどまでに、心酔していたのである。
その後のガルディがどうなったかというと……以前にもまして、向上心が強くなった。
「憧れ」という名の目標を得たことで、彼の心に火が付いたのである。
ガルディは数年も経たずして『影の会』のボスの座を奪い、さらに数年で『影の会』を裏社会No.2の組織にまで成長させた。
まだ『友好会』のボスには及ばななかったが、彼は努力し続けた。
部下を束ね、勢力を拡大し、他組織と駆け引きを行い、彼の者を超えるボスにならん、と。
だが。
ある日、その目標は突如として潰えた。
彼のボスが死んだのである。
ガルディは知らせを聞いても特段、何の反応もしなかった。
しかしながら、『友好会』が片田舎の少年を次代のボスに選んだ時、彼は明確に怒った。
ふざけるな、彼のボスの代わりがあんな頼りない奴だなんて認めない、と。
後継者候補がボスと共に死んだことも、そのせいで組織内で対立が危惧されていることも、ガルディは知っていた。
それでも「血が繋がっている」というだけの一般人をボスにするなど、言語道断であったのだ。
このままではどう考えても『友好会』に未来は無い。
しかし自分の敬愛した男の組織が無様に滅びて行くところなど、ガルディは見たくなかった。
ならば、と彼は考える。
その前に自分の手で引導を渡してやろう。
かくして、ガルディは部下を引き連れて『友好会』へと攻め入ることとしたのだ。
以後のことは――語るに及ばないであろう。




