愛犬家
推奨:第4章の「凡ミス」まで読了
『友好会』の幹部、魔物使いのリュキ。
彼女は口が悪ければ手もすぐに出る、絵に描いたような乱暴者だ。
幹部という立場上、多くの部下を持っているものの、彼らにだって少しも容赦はしない。
褒める時は褒めるが、失敗や怠慢をした者には即座に殴る蹴るの暴行を降り注がせる。
同僚のオーレイアも荒くれ者の部類に入るが、彼女よりかはずっと優しい。
それはもう、天と地ほどの差がある。
故にリュキの部下たちは、彼女の近くには行きたがらなかった。
信頼も尊敬もしているものの、不用意に近付くことは憚られたのだ。
加えて言えば、リュキの隣の席は既に埋まっている。
彼女の傍らには常にある男が控えているため、そもそも近寄る必要が無いというわけだ。
ある男。
いつも無言で、服装のせいで表情も読めない、謎めいた巨漢。
すなわち、ベットである。
リュキはベットをいたく気に入っていた。
特段、対応が甘いとか、優しい顔を見せるとか、そういうのではない。
むしろ他の人よりも何割か増しで、暴言暴力を浴びせている。
しかし、それでもリュキはベットを気に入っているらしかった。
彼女がベットを『友好会』の仲間に引き合わせたのは、もう5年ほど前になる。
豪雨と雷鳴が騒がしい日のことだった。
リュキは部下たち、次いで幹部たち、最後に当時のボスにベットを見せてこう言った。
「俺の直属の部下として、こいつを組織に置いてください」
なぜ彼女がそんな「お願い」をしたのか、彼女らの間に何があったのか、それは誰も知らない。
無論、当時のボスらもまるで話が見えなかった。
だがリュキの表情は真面目そのものであり、またどこか悲壮感を漂わせてすらいた。
尤も、弱みを見せることを嫌う彼女はそれを最大限、隠そうとしていたが。
リュキは一切の誤魔化し無く、ありのままにベットのことを語った。
彼は何に秀でているわけでもない。
しかも、固有魔法すら持っていない。
それでも自分には必要な存在なのだ、と。
彼女の主張を聞いて、ボスも他の幹部たちも、リュキの願いを受け入れることにした。
ベット本人は毒にも薬にもならない。
が、彼が居ることで、リュキにはおそらく精神面での得がある。
ならばまあ、良いだろう、との判断だ。
果たしてリュキは、今日に至るまでベットを傍らに置き続ける権利を勝ち取った。
ベットの正体は何なのか、それは完全に秘匿されたままだ。
ただ――ひとつだけ、解に繋がるヒントを述べるならば、おそらくそれはこうなるだろう。
「リュキは犬が好きである」




