優秀、特別、されど常人
推奨:第6章の「エピローグ」まで読了
竜人は魔法を扱うのに向いていない。
ドラゴンの力を継承している影響で、通常の人間と比べて保有魔力が極めて少ないからだ。
しかしながらどういう原理か、ごく稀に魔法を使える者も生まれる。
高い身体能力を有するのみならず魔法まで扱える彼らは、いつの世も周囲から人一倍の祝福を受けた。
村によっては祭が催されたり、村人が一同に会して祝ったりするところもあるのだとか。
それほど、「魔法適性のある竜人」の誕生は稀少で喜ばしいことなのである。
皆から望まれる特別な竜人。
ルシアンもその1人であった。
彼は両親や周りの人々から、優秀な戦士であれ、人間を守る戦士であれ、お前ならばそれができると言われて育った。
魔法が使えることに加え、同じ年に生まれた少女・バサークが問題児であったこともあり、いっそうの期待を寄せられていたのだ。
ルシアンはその期待に応えようと尽力した。
能力を褒められているのだから悪い気はしなかったし、何より彼は正常な思考回路と理性を持っていたから。
そう、ルシアンには一般的な良識と、協調性と、倫理観と、正義感があった。
だから。
友だちだったバサークが里を追い出されることになった時、彼は強くは反発しなかった。
『魔王の器』を無力化するのも、自分の役目だと自ら任を買って出た。
バサークと敵対することを受け入れた。
お偉方の意見よりも人間を守ることを優先し、『器』の追跡に乗り出した。
そうして――全てが終わって真実を知った後、彼はひどく後悔したのだ。
バサークから話を聞いたルシアンは己の過ちを認め、心の底から彼女に謝罪した。
あっけらかんとした様子で「いいよ」と返されたので重ねて謝ることはなかったが、その代わりに、彼は人間界から去ろうとするバサークを引き留めなかった。
彼女と共にまた過ごしたいという気持ちが少なからずあった、にもかかわらず。
ルシアンはそれを口にしなかった。
なぜならばそれらしい理由が見当たらなかったし、何より彼は正常な思考回路と理性を持っていたから。
すなわち……ルシアンは常人であったからだ。
常人であるがゆえに、まともであるがゆえに、彼は諦めた。
枠から1歩、はみ出すことができなかった。
ルシアンは魔法が使える特別な竜人だ。
ただ、それだけだ。
我を貫くために他者を排することも、害することも、無理を押し通すこともできない。
正しくないことができない。
魔界へと帰って行くバサークの背に、ルシアンは少しだけ羨望を抱いたのであった。




