名状し難きもの
推奨:第4章の「稀によくある」まで読了
裏社会の頂点に君臨する組織、『友好会』。
そこにはいくつかの「名物」がある。
例えば、存在自体が稀有な「魔物使い」の部隊とか。
例えば、偶然で以て敵に勝利するというボスの意味不明な才能とか。
例えば――幹部の1人、ヴィヌの奇行とか。
* * *
ヴィヌは気が強く、また美しい女性だ。
どんな相手にも物怖じせず、思ったことをはきはきと口にする。
また誰に対しても敬語を使うが、それが却って高圧的な雰囲気に拍車をかけている。
手入れの行き届いた亜麻色の長髪、少し吊り気味の目、長い睫毛。
背筋はいつでもしゃんと伸びており、その佇まいは凛と咲く1輪の花を思わせる。
高嶺の花、という表現がぴったりだ。
退かず媚びず頭脳明晰、そのうえ魔法や指揮能力にも長けている。
文句なしで、幹部の座にふさわしい人物だろう。
だが玉には瑕があるものだ。
ヴィヌの「瑕」、それは言うまでもなく、同僚であるリュキへの拗らせきった感情であった。
発端は、ヴィヌが初めてリュキと合同で任務に当たった時のこと。
2人とも幹部としてはまだ新米で、故にチームを組んで目標を達成せよというお達しがボスから下った。
ちなみに、この「ボス」とは先代を指す。
各々の部下をいくらか連れ、2人は敵対組織――というにはいささか格下の相手――の殲滅に向かった。
ヴィヌは最初、自分にあてがわれた魔物使いの「相方」を見て鼻で笑った。
――威勢が良いだけのちんちくりん。
――どうせ魔物に全部任せるだけ、本人は役に立たないに決まっている。
同時に、この小娘に身の程を思い知らせるのが己の役割だとも思った。
ボスは言外にこの小娘の躾を自分に頼んだのだと。
結論から言うと、この後ヴィヌはリュキに惚れた。
魔物と一体になって勇ましく戦う姿に。
百戦錬磨の戦士にも劣らぬ鋭い眼光に。
荒々しくも見事に部下を統率する能に。
「カッコいい」。
「そして可愛い」。
ほとんど使い物にならない思考の中でヴィヌが抱いた感想は、極めてシンプルであった。
以降、彼女がどのような方向に走って行ったか、それは関係者であれば誰もが知るところだ。
ただ1点だけ、注意しておかなければならないことがある。
ヴィヌのこの感情は、決して恋慕ではない。
熱量だけで言えば似ているものの、どこぞの令嬢のそれとは別物だ。
では何なのか、と疑問が浮かぶところではあるが……答えを出すのは野暮というものだろう。
世の中には、名状し難きものも確かにあるのだから。




