多面、あるいは
推奨:第4章の「それでも、凡人のままで」まで読了
その青年は、一見するとどこにでもいるならず者のようであった。
声が大きく、笑い方に品が無く、足癖が悪く、喧嘩っ早い。
筋肉がしっかりと付いた体、無造作に跳ねる髪を押さえるように巻かれたバンダナ、愛用しているやたら装飾の多い槍。
これらから導かれるイメージは、大抵「粗暴」とか「野蛮」とか、そんな感じだろう。
少なくとも初対面の者は、彼――オーレイアが回復魔法に長けているだなんて、思いもしないのである。
だが事実としてオーレイアという人物は、所属する組織で治療班の班長に任ぜられるほど、戦闘よりも治療の方が得意だった。
加えて言うならば、彼は決して弱くない。
むしろそこらの魔族が束になっても勝てないくらい、武術の腕は確かなものだ。
ただそれを踏まえても、回復魔法の方が得意であった。
天賦の才とでも言うべきか。
彼は幼少の頃より、魔力量、技量共に申し分無く備えていた。
この子はきっと立派な医者になるぞ、と周囲から期待が寄せられたのは言うまでもない。
そしてオーレイアが出奔して闇組織に参入した、と知った彼らが腰を抜かしたのも言うまでもないだろう。
彼の家は裕福な方で、彼自身も学校では優等生として一目置かれていた。
もし魔界に魔法の学校があれば、さらに注目の的になっていたに違いない。
そんなオーレイアが突然、整えられた道を外れて獣道を走り出したのは、驚愕に値することであった。
所属した闇組織の中でも、意外と言うほかないその印象と実態の差を気に入られ、実力も相まって彼はあっと言う間に幹部の座まで駆け上って行った。
雷光のごとく刹那的に生き、しかしその内側には何か深い海のようなものが在る。
彼は粗暴で野蛮な気性をしていたが、それだけで片付けるには足りない何かが在る。
その有り様に最も強く惹かれたのは、とある青年――後に幹部として彼と肩を並べることになる人物――だった。
青年とオーレイアの間に何があったかは割愛するが、この出会いが青年の人生を変えた、とだけ記しておこう。
さて。
オーレイアについての事実を並べるのはここまでである。
するとひとつ、疑問が浮かんで来るだろう。
「出奔の前後で、彼の気質がガラリと変わったのはなぜか?」
出奔以前は演技をしていた?
彼を変えてしまうような出来事があった?
それとも……。
おまけの情報を添えて置くと、出奔以前の彼は確かに名実共に優等生であった。
素行、成績、どちらをとっても、多くの人が想像する「優等生」と遜色無かった。
果たしてこの問いの答えはどこにあるのか。
優等生の彼と粗暴な彼、どちらが真実なのか。
あるいは、どちらも真実であり、ただふたつが重なっていて片一方しか見えないだけのか。
それを知るのは本人だけである。




