しあわせになってほしかった
推奨:第6章の「終焉」まで読了
数年前、レジスタンスの大規模蜂起により魔王軍は大打撃を受けた。
魔王自身は無傷そのものだったが、一般兵のみならず、3人の幹部も戦いにより死亡した。
反乱を鎮圧した後、その空いた席に着いたのがイリアとアルケである。
どこか幼さの残る女性と真面目で働き者の少年。
お世辞にも馬が合うとは言えない2人だったが、魔王に尽くそうという気持ちはどちらも同じだった。
魔王はいつでも彼女らに対して他人行儀であったが、それでも2人は構わなかった。
なぜなら彼女らは知っているのだ。
ごくごく稀に、魔王が見せてくれる笑顔を。
ごくごく稀に、聞かせてくれる優しい声を。
イリアは考えた。
この少年は信用に値する。
アルケは考えた。
こいつになら例の件を相談できる。
幹部となってしばらく経った頃、彼女らはどちらからともなく集まった。
厚い雲で月が見えず、いつにもまして暗い夜のことだ。
かつて目にした魔王の部屋での一件を打ち明けたのち、彼が心を痛める原因を探りたい、とアルケ。
じゃあ自分の固有魔法で過去を見よう、とイリア。
敬愛する魔王の過去を勝手に探るのはいささか気が引けたが、背に腹は代えられない。
2人は合意し、共に魔王の過去を見た。
そう。
彼が「魔王」になるまでの顛末を、全て。
3000年分のそれを見終えて、彼女らは愕然とした。
自分たちでは魔王の心を救うことができないと、気付いてしまったのである。
彼らを、魔王のかつての仲間たちを無事に蘇らせる……彼の人が幸せになる道はそれしか無い。
その事実を呑み込み、2人は決意した。
必ずや魔王の計画を成功させるのだ、と。
彼を幸せにするのは自分たちではない。
が、その幸せの実現を手助けすることはできる。
魔王の隣が自分たちの席ではなかった、ただそれだけのこと。
イリアとアルケは以前よりも輪をかけて、懸命に働いた。
魔族が人間界で安全に活動するための魔法道具をこっそり作ったり。
魔王の名を借りて、血気盛んな魔族でその効果を試したり。
人間界から帰還した魔王が眠りについた後も、彼らは2人ぼっちで奔走した。
『魔王の器』たちを捕らえようと試みた。
レジスタンスに与する者を嬲り殺した。
城内の人間だろうと軍の者だろうと、障害になりうる輩は徹底的に排除した。
愛する魔王に、幸せになってほしい。
その心の前では、いかなる悪逆も正当化されたのである。
だが奮闘虚しく、彼女らはレジスタンスたちに敗北した。
死を条件に発動する魔法を残し、跡形も無く消えた。
そして。
長く短い戦いの末、魔王がどのような最期を迎えたかは……先に死んだ彼女らの知るところではない。




