無垢なる罪人
推奨:第5章の「悲鳴は届かず」まで読了
イリア。
イリア。
過去を見ることのできる子。
きっと世界に選ばれた、特別な子。
あなたは何も考えなくていい。
私たちの言う通りにしていれば、あなたも皆も幸せになれる。
さあ台に上って。
迷える信者たちにお告げを与えて。
そして、そして。
「おかあさん。私、魔王様と一緒に行く」
* * *
「過去の出来事を鑑賞する」。
それが少女イリアの固有魔法のひとつであった。
世界の記憶に触れることができる稀有な魔法。
彼女の母親はじめ、周囲の人間たちはイリアを選ばれしものだと担ぎ上げた。
イリアを崇める人々は、やがて組織を形成する。
ともすれば宗教に近いものだったかもしれない。
しかしその形は歪で、組織がやっていたのは単なる金儲けであった。
悩める者が相談に来る。
イリアが過去を見る。
「お告げ」と称して解決策を教える。
……ただし、その悩みは組織の者が仕組んだものであり、故に的確な解決方法がわかるというだけの話なのだが。
要するに全てはマッチポンプで、イリアの能力は相談者を盲目にさせるために利用されていたに過ぎなかった。
組織の中心人物たちは、そうして獲得した信者たちからの「奉納金」で私腹を肥やした。
その中にはもちろん、イリアの母親も含まれる。
彼らは規模をじわじわと拡大させていったが、ある時、話を聞きつけた魔王によって文字通り壊滅させられた。
魔王にとって、幼子をいいように使う大人というものは、殺されて然るべき悪であったのだ。
インチキ組織が潰された後、愚かしいほどに無知で無垢なイリアは魔王の部下に転身した。
彼女が魔王に仕えることに決めたのは、何も脅されたからとか命が惜しかったからとかではない。
自分の世界をいともたやすく破壊した魔王に、どうしようもなく惹かれたからである。
イリアは初めて、自分の意思で選択をした。
――自分で選択したからこそ、余計に盲目的になった。
世界を変えてくれた魔王こそが全てだと。
魔王のためならば何を捧げても構わないと。
かつて自分を崇めていた信者たちのように、魔王に陶酔したのだ。
魔王に尽くすことは正義だった。
魔王に反感を抱く者は悪だった。
どれだけ仲の良い相手でも、悪だとわかればすぐ殺した。
己の胸が痛もうとも、正義は遂行されなければならなかった。
およそ正常とは思えない思考と行動。
考えられる原因はただひとつ。
彼女は、無垢であり過ぎたのだ。




