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愛は届けど留まらず

推奨:第6章の「終焉」まで読了

 燃え盛る家屋から助け出してもらったあの日から、アルケの心は魔王の虜となっていた。


 命の恩人。

 黒い大剣を振るう、強くて優しいひと。


 自分を救ったのが魔王だと知るや否や、彼は魔王城の扉を叩いた。

 無論、魔王に仕える身となるためである。


 城の者は最初、小汚い少年を追い返そうとした。

 が、その熱意と「家と両親が焼けた」という事情に心を揺さぶられ、下働きとして置いてやることに決めた。


 アルケは魔王に助けられたことは言わなかった。

 魔王本人に口止めされていたからだ。


 理由はわからなかったが、アルケは恩人のお願いを無視するような人間ではない。


 かくして少年は、晴れて魔王城の使用人となった。

 彼は昼夜を問わずあちらこちらへ駆け回り、両の翼がボロボロになってもなお懸命に働いた。


 その仕事振りが評価され、数年経つ頃には魔王の身の回りの世話を任せられるまでになり……そして、見てしまったのだ。


 魔王が部屋で1人、泣いているところを。


 アルケは困惑した。

 だって、魔王はいつも泣かないどころか感情の起伏さえろくに見せないのである。


 笑ったところを見たのは「あの日」だけで、それから何度か直接会う機会はあったけれど、一度たりとも魔王は表情を動かしたことがなかった。


 これは由々しき事態だ、とアルケは考えた。

 そしてこっそり厨房へ行き、軽食をこしらえた。


 美味しいものを食べれば多少なりとも元気が出るだろうと思ったのだ。

 子どもじみた考えだが、実際、彼は子どもだった。


 アルケは恐る恐る、魔王の部屋の扉を叩く。

 返事を待って中に入り、作った料理を差し出した。


 魔王は少し黙って、それから笑った。

 料理を口にし、「ありがとう、美味しいよ」と言った。


 予想以上の好反応に、アルケは安堵する。

 また、あの日と同じ笑顔を見せてもらえたことにこの上無く喜びを覚えた。


 その後、食器を片付けながら彼は思案に耽る。


 いったい魔王が涙を流していたのは何故だったのか。

 政の悩み? 人間関係? まさか……病?


 理由を探してみたものの、どれもいまいちピンと来ない。


 魔王は素晴らしい為政者だし、人と馴れ合ったりしないし、病とは無縁の体をしている。

 まあ事実かどうかはさておき、少なくともアルケはそう思っていた。


 原因がわからないから、どうすればいいのかもわからない。

 でもどうにか力になりたい。


 考えた末、アルケは自分にとある目標を課すことにした。

 それは、魔王の幹部となること。


 幹部になれば知れることは増えるだろうし、それなりに信頼もしてもらえる。

 そしたら魔王が抱える問題を解決できるかもしれない。


 これもまた、子どもじみた短絡的な考えではあったのだが、アルケはこれが最善策だと確信していた。

 魔王の心を救うのは自分なのだと、愚かにも信じ切っていたのだ。


 そんな彼が残酷な現実を突き付けられるのは、それから僅か1年後のことであった。


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