『勇者』になった少年(下)
推奨:第6章の「エピローグ」まで読了
帰って来たナオが騎士たちに伝えた話は、彼らにとって驚くべきものだった。
曰く、『魔王の器』はその特性から、無条件で人間から嫌われる。
曰く、そのせいで騎士団はじめ国中の人々は、正常な判断を失っていた。
曰く、故に自分は『魔王の器』本人を竜人の手から逃がしてきた。
話し終えると、ナオは『勇者』の力を使って、騎士たちから『器』に対する嫌悪感を掃った。
その後、正気に戻った彼らが何を思ったかは言うまでもないだろう。
こうしてナオは、事情を説明するべくカターらと共に国王の元へ向かった。
ナオから真実を聞いた国王は驚愕し、また同時に歓喜する。
――とうとう、『勇者』が現れたのだ!
彼は目の前の少年を城に引き留め、国民にその存在を大々的に知らせた。
最高級の待遇を以て歓迎し、王族総出で何やかやとほめそやした。
尤も、これらの対応はナオの望むところではなかったのだが。
その後も騒ぎは続く。
『魔王の器』の話はどこへやら、あちらもこちらも『勇者』の話題で持ち切りだった。
国王は『勇者』に各大領地を回るよう命じ、ナオは渋々ながら応じた。
正直、彼は本気で嫌がっていたのだが、わがままを言って万一カターに迷惑がかかったら……と考えたのだ。
「勇者様」「勇者様」「勇者様」。
これで人間界は救われると、誰もがナオに期待を寄せた。
熱狂はまだまだ止みそうもない、そんなある日のことだ。
やっと自由な時間を得たナオは、恩人にして恩師のカターと言葉を交わしていた。
他愛のない、しかし心地良い時間を堪能していた彼は、突如として姿を消す。
そう、文字通り忽然と。
普通ならば大騒ぎになるとろだが、カターは『器』一行にいるエラのことをよく知っているがために、何が起きたかを察することができた。
彼に「ナオは魔界へ行った」と説明された国王らは納得し、『勇者』の帰りを今か今かと待った。
数日後。
どこからともなく帰還したナオは、左の手足を失っていた。
聞けば、仲間たちのおかげで魔王を倒すことはできたが、戦いの中で負傷したとのこと。
一部の騎士たちを除き、人々はそれを「名誉の負傷」だともてはやした。
そして人間界を救った英雄だと、皆一様に『勇者』を称えた。
『魔王の器』のことやレジスタンスのことも説明されたが、そちらにはあまり興味を示さずに。
かくして『勇者』は英雄という名の偶像となり、人々に語り継がれることとなった。
歴史に残ったのは、魔王討伐の英雄譚と魔界との交流に尽力した功績のみ。
ナオ本人は英雄として扱われることを終始不本意に思っていたが……そのことは、後世に伝わることがなかった。




