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才能と使命感と

第5章の「それでも、凡人のままで」まで読了

 その少年は、魔界の平和な片田舎に住んでいた。


 牧歌的な村にふさわしい、穏やかで心優しい少年。

 両親を早くに亡くすという不幸はあったが、代わりに村人たちが愛し守ってくれたため、彼は真っ当に育つことができた。


 豊かではないものの、村は少年にとって楽園のような場所であったし、少年もまた、村にとって良い影響を及ぼし得る存在であった。


 何も憂うことは無い。

 少年と村人たちは、平凡で幸せな日々を過ごしていた。


 しかし、幸せとは長く続かないのが常である。


 ある冬の日、村に2人の男女が現れた。

 1人は小柄だが目付きが悪く、威圧感のある少女。

 もう1人は大柄で、表情のよく見えない男。


 明らかに一般人ではない様子の2人組は少年を呼び出し、少女の方がこう言った。


「俺たちのボスになってくれ」


 少女曰く。

 『友好会』なる組織のボスと後継者が相次いで死んだのを発端に、組織内がかなり揉めている。

 派閥は2つあり、どちらか一方を立てるのは難しい。

 だから、ボスの孫たるお前を次期ボスとしたい。


 少年は少女の話を、啞然として聞いていた。

 さもありなん、である。


 今まで村で平和に暮らしていたのだ、急に非現実の塊みたいな話をされても困るに決まっている。


 実際、少年は非常に困った……のだが、結局、首を縦に振った。


 何も、2人組のことが恐ろしくて断れなかったわけではない。

 彼の人の好さから来る使命感が、不安と困惑に勝ったのだ。


 2人組、特に少女は飛び上がらんばかりに喜び、さっそく少年を村から連れ出す。

 そうして拠点だという建物に辿り着くと、待っていた残りの幹部共々、少年を心から歓迎した。


 居てくれるだけでいい、御身は必ず自分たちが守る、と幹部たちは繰り返し少年に説いた。


 彼女らは鬼でも馬鹿でもない。

 少年に必要以上のことをさせては、組織のためにも少年自身のためにもならないと理解していたのである。


 この新たなボスは決して戦闘に出さない。

 それが、幹部たちの方針であった。


 ところがこの方針はほどなくして転換される。

 温和で無力かと思われた少年に、驚くべき才能があったからだ。


 ひとつは、演技の才。

 彼はひとたび「その気」になれば、「威厳あるボス」を完璧に演じられた。


 そしてもうひとつは、「勝つ」才能。

 驚くべきことに、少年は本人にその気無くして戦いに勝利することができるのだ。


 例えば、少年が偶然蹴った石が板にあたり、板が倒れて棚にあたり、たまたま不安定だった棚が倒れて敵を潰すとか。


 例えば、少年が偶然倒した瓶が割れ、破片が飛んで何かの装置に刺さり、装置が誤作動を起こして敵もろとも爆発するとか。


 子ども向けの物語かと思うほど馬鹿馬鹿しい「勝ち」ではあるが、幹部や組織の部下たちは感激した。

 勝利に愛された彼こそが、我らがボスにふさわしい人物だと。


 ……本当に、馬鹿馬鹿しく思われることではあるけれど。

 部下たちの喜ぶ顔を見ると毎回、少年はまんざらでもない気分になってしまうのであった。


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