『勇者』になった少年(上)
推奨:第3章の「煽るなキケン」まで読了
少年ナオの人生は、お世辞にも恵まれたものではなかった。
まず幼くして両親を亡くし、引き取られた先の親戚の家で少々冷たい扱いを受ける羽目になった。
というのも、彼の両親とその親戚とはあまり中がよろしくなかったのである。
子どもは関係ない、とはよく言うが、子が親に似るのもまた真実。
虐められこそしなかったものの、投げかけられる視線や言葉はよそよそしく、いつも腫れ物に触るような態度を取られていた。
それでもまあ、仕事さえすれば食事は出たし、年中使える寝床も与えられたのだからマシな方ではあろう。
だがその最低限の平穏も、数年で崩れ去った。
ナオが9つになる頃、親戚一家が彼を人攫いの組織に売り渡したのである。
理由は単純に、お金。
この頃、親戚一家の営む店が思うように繁盛しなくなっており、生活が苦しくなっていたのだ。
お金が手に入るし、厄介者を追い出しつつ口も減らせる。
彼らからすれば、まさに一石二鳥の選択肢だった。
そんなわけで売買されてしまったナオの次の居場所となったのは、件の組織に所属する下っ端の男の隠れ家。
要するに、どこかに商品として売られるのではなく、その男の所有物になったというわけだ。
それからというもの、ナオは悪事の片棒を担がせられたり、嗜虐心の受け皿となったりと、散々な日々を送った。
逆らえないよう魔法をかけられ、文字通り踏んだり蹴ったりの毎日。
ナオは、もはやこの人生に救いは無いとさえ思った。
しかし。
そこへ1人の騎士が颯爽と現れた。
いや、正確に言うなら現れたのは1人の騎士と、その部下たちと、偶然合流した冒険者たちなのだが、ナオの目に最も鮮烈に映ったのはその騎士だった。
騎士の名はカター。
王国騎士団第四部隊所属、第一小隊隊長というお堅い肩書きに負けず劣らずの、厳格な精神を持った人物。
彼は見事に部下を指揮し、悪党どもをお縄にかけてナオを自由の身にした。
のみならず、裁きが終わった暁には、彼を騎士見習いとして受け入れても良いと言う。
一連の出来事を経て、ナオがカターを「恩人」として認識し、これ以上ない尊敬の意を向けるようになったのは言うまでもないだろう。
かくして騎士見習いとなったナオは、日夜訓練に励みその才能を磨いていった。
また、彼の才は【射手】としての範囲にとどまらず。
ほどなくして【魔法戦士】として開花し、いつの間にやらカターの横で戦えるほどになっていた。
1年も経たずにここまで成長したことを、カターはじめ第一小隊の面々は驚きつつも褒め称えた。
「期待の新人」。
ナオの話は他の隊にまで伝わり、いつしかそれが彼を指す言葉になっていった。
だが「期待の新人」の躍進はまだ止まらない。
『魔王の器』が誰なのかが判明し、その一行を追っていた時のことだ。
ナオは、『勇者』として覚醒したのである。
自分が『勇者』であることと、遠方で魔王の力が暴走していることを知った彼は、すぐさま『魔王の器』の元へ向かった。
その場にいた騎士のうち何人かは、まるで物語の中にいるような気さえしていた。
悪党に利用されていた少年が騎士に救われ、騎士見習いとして奮闘し、最後には『勇者』であったことが明かされる――そんな英雄物語の中に。
だが。
悲しいことに、これは現実であった。
正しい者が報われるとも、きれいに物事が解決するとも限らない、現実なのであった。
『勇者』となった少年の辿る末路が露わになるのは――もう少し、後のことである。




