ふたり
推奨:第4章の「組織名詐欺」まで読了
いつのことかは明確ではない。
おそらく、10年前から20年前の間だと思われる。
ともかくその時、後に「ジギ」と呼ばれる存在は、この魔界に生まれ落ちた。
なぜ?
それもわからない。
親から生まれたのか、人工的に作られたのか、はたまた自然にぽんと出てきたのか。
全くの謎であるが、まあ、生まれた。
人の姿をしていたかも定かでない。
そもそも魔族かどうかさえ怪しい。
端的に言って、それは意味不明な存在だった。
後の「ジギ」は日陰に座り込んだり、路地裏でじっとしたり、そんな感じで毎日を過ごした。
その間、食事というものを知らないので何も食べなかったが、特に問題は無かったらしい。
時おり通行人に声をかけたりもしたが、あいにく意味は伝わらなかった。
既存の単語を奔放な表現の中にねじ込むその言語は、残念ながら人間向きではないのだ。
で、誕生からいくらか経ったある日。
ひとりの少女がそれのもとに現れた。
言わずもがな、ニギである。
ニギは薄暗いところにいるそれに、臆することなく話しかけた。
そうして何がどう転がったのか、彼女はそれを「ジギ」と名付け、自分の弟分とした。
ちなみに弟分、というのは便宜上そう表現しているだけで、ジギは性別も不明である。
さて、こうして出会ったニギとジギは、信じられないほど波長が合った。
ニギはジギの話す難解な言葉を当たり前のように理解したし、ジギはジギでニギの心をいつでも正確に読み取った。
またまた何がどう転がったのか、ふたりが地下闘技場の支配人に拾われてからも、それは変わらない。
仲の良い友人のような、もしくはきょうだいのようなふたりは、それはもう元気にすくすく育った。
ジギは魔法のような力を使い、さらにそれがけっこう強いので、そのうち闘技場の戦士兼用心棒になった。
対してニギの方は、戦いはからっきしなので裏方に。
物騒だし、裏社会に片足を突っ込んでいるみたいな環境だったが、ふたりはびっくりするくらい平和だった。
支配人がふたりを騙して殺しをさせないよう仕向けていたのも、要因の1つかもしれない。
レジスタンスがやって来て、魔王を倒すのに協力してほしいと言って来た時も、ふたりは呑気なものであった。
へー、今そんなことになってるんだ。
いいよ!
……くらいの、本当に軽いノリだった。
特にニギ。
ジギは見るからに変わった存在だが、ともするとニギも負けず劣らずおかしな人なのかもしれない。
ニギはなんというか、悪意というものを持っていなければ、理解もしていないふうであった。
支配人が金のためにあくどいことをしているのも、当然よくわかっていない。
天性のものか、どこかでネジが飛んだのか。
まあ、本人からすればどうでもいいことである。
ジギとニギ。このふたりはおそらく、どこまで行ってもいつまで経ってもこの調子だろう。
それこそ、死がふたりを分かつまで。




