師と世のために
推奨:第4章の「同好の士」まで読了
リーシア・ヴィクティは優秀な魔法使いである。
彼は幼い頃より学校では優等生として一目置かれ、教師も彼の将来を有望視していた。
さらにどこぞの珍奇な人間とは違い、穏やかで協調性のある彼は周囲の人々とも上手くやれていた。
まさに順風満帆。
そんなリーシアの元へ1人の魔法研究者がやって来た。
学校を卒業する直前のことである。
研究者は彼に、自分の弟子にならないかと持ち掛けた。
もちろん、リーシアは快諾した。
というのもその研究者は、その道ではそれなりに名のある人物だったからだ。
師を得たリーシアは、それからどんどん才を伸ばしていった。
なにせ、師は学校の教師とは比べ物にならないほどの知識を持っている。
栄養を与えられた植物がすくすくと育つように、リーシアが成長するのは自明の理であった。
そんな彼は師を「先生」と呼び慕い、師もまた彼を可愛がった。
しかし、否、だからこそ。
リーシアが魔界の歪みに気付くのはそう遅くなかった。
師は素晴らしい魔法研究者だ。
また、彼の知人にも多くの優れた魔法研究者がいる。
にもかかわらず、どうして魔界は未だにこの程度しか発展していないのか?
疑問を呈するリーシアに、師はこう答えた。
魔王がそうさせているのだ、と。
師曰く、魔王は民が行き過ぎた力を持ち、暴走することを恐れて技術の発展を抑制しているらしい。
研究者としては賛同しかねるが、わからないでもない理由だ。
加えて師は、魔王が「良し」と判断したものならば世に出すことができる、と言った。
そして自分も今、魔王に提出するための論文を書いているのだ、とも。
ほどなくして、論文は完成した。
師は「危険性が無いことは明確に証明できている」「これならば魔王も認めてくれるだろう」と自信満々に語り、魔王城へと出向いた。
そうして、数日後。
研究所の扉を叩いたのは、師ではなく魔王軍の者であった。
彼らは、危険な研究を行ったという疑いが師にかかっているので弟子であるリーシアにも取り調べを行いたい、と言った。
――嘘だ。
リーシアはすぐさま、その場を逃げ出した。
師は殺された、自分も殺される。
聡明な彼は、すべてを見抜いていた。
なんとか軍の者から逃げ切った後、リーシアは人気の無い路地裏でひとり泣いた。
師の論文の内容は知っている。
間違いなく、危険性は無かった。
なのに師は殺された。
やるせなさに打ち震えるリーシア。
そこへ、ある女性が現れた。
警戒する彼に、女性は「自分はレジスタンスの者だ」と言い、続けて魔王の所業、その真実を語った。
当然のことながら、リーシアは困惑した。
聞いたことの無い組織名はさておき、まさか魔王がそのような悪行をはたらいていたなんて、夢にも思わなかったのである。
だが彼は女性の言うことを信じた。
彼女の言うことが本当ならば、師が殺されたのにも合点がいく。
こうしてリーシアはレジスタンスの仲間入りを果たした。
無論、魔王の歪んだ治世を正すためである。
それが師の敵討ちにもなると、彼は判断したのだ。
亡き師のため、そしてこれからの世のために。
リーシア・ヴィクティは戦いに身を投じるのであった。




