思わぬ増援
リュキと共に、魔物に乗った人たちが影の兵士の群れに突っ込む。
数にすれば10ほどであるが、その力たるや凄まじく、彼女らは片っ端から兵士を蹴散らし、また押し込んでいった。
兵士たちは、嵐のように暴れまわる彼女らに連携を乱され思うように応戦できていない様子だ。
芳しくない状況だと判断したのか、別部隊の方を向いていたであろう兵士たちもがリュキら目がけて攻めて来た。
しかし、それらはリュキらのところに到達する前に、炎で焼き払われ、鋭利な風で切断されていく。
「あれは……」
隣にいるデレーが呟く。
「魔法攻撃班、断固阻止なさい! リュ……魔物使い班に奴らを近付けさせてはなりません!」
見ると、ヴィヌさん率いる何十人もの魔族たちが、加勢せんとする影の兵士たちにかわるがわる魔法を撃ち込んでいた。
「はーい、歩兵も行くよー。突撃突撃ー」
ヴィヌさんたちの横を通り抜け、間延びした声の青年――クーキヨがこれまた大勢の魔族を引きつれて戦いの渦に飛び込んで行く。
「よ、レジスタンス」
各方向で戦闘が行われている中、オーレイアさんが杖を片手に俺たちの方へ歩み寄って来た。
後ろには白衣に身を包んだ人たちがずらりと並んでいる。
「調子はどうだ? 怪我人がいたら俺らが診るぜ」
その姿に、俺は首を傾げた。
確か以前会った時は槍を武器に戦っていた気がする。
それもかなり手練れっぽい動きだったのだが……。
「いいか、2人1組で救護に当たれ。くれぐれも前には出過ぎるなよ。余裕がある奴は強化魔法もかけてやれ」
後ろの部下であろう人たちに指示を出す彼の様子もまた、慣れたもののようでであった。
てっきり武闘派だと思っていたけれど、ともするとこちらの方が主なのかもしれない。
「あ、ありがとうございます」
呆気に取られていた思考がようやく正常に回り出し、俺はオーレイアさんに頭を下げる。
『友好会』が来てくれたおかげで、俺たちは影の兵士たちの猛攻から距離を置くことができていた。
休息というほどまでには気を抜けないが、それでもひと息つけるのは有り難い。
「いいってことよ。うん、お前らは特に目立った怪我もねえみたいだな。人間なのによくやるぜ」
彼はぐるりと周囲に視線を巡らせ、俺たちの状態を確認しながら言う。
「……?」
ふと、俺はその姿、それと口調に違和感を覚える。
嫌な感じはしない。
喋り方も記憶の中の彼と同じだ。
でも決定的にどこかが、違うような。
「あの、オーレイアさん。何か雰囲気とか、変わりました?」
疑問を呑み込んでおけず、俺はつい尋ねてしまった。
失礼だったろうか、と思うも口から出た言葉は戻せない。
俺は自業自得ながら緊張しつつ、彼の返事を待つ。
「いや? 俺は俺さ。お前もお前だろ」
けれども、あっけらかんとオーレイアさんは答えた。
おそらく嘘でも誤魔化しでもない、正直な台詞だ。
……俺が気にしすぎなだけだったのだろうか。
「オーレイア!」
と、後方からゼンが駆け足でやって来た。
俺は下らない疑問を頭の隅に追いやり、そちらに目をやる。
「すまない、ここをキミたちに任せても良いだろうか」
「おう、もとよりボスもそのつもりだぜ」
ボス、という言葉に俺はハッとする。
「あの! ナ……ボスもここにいるんですか?」
「おう。俺ら幹部の代わりにベットを護衛に置いて、指揮を執ってるぞ」
そうか、あの少年が。
俺はボスがいるであろう方向に目をやる。
人混みに隠れて少しも見えはしなかったけれど、気弱ながら逃げるまいとする彼の姿が脳裏に浮かんだ。
「では頼んだ。主力部隊、前進! ウラハ、ジギを拾いつつこの先にいる第3部隊と合流するぞ!」
ゼンの号令で、俺たち10人は再び走り出す。
「のうゼンよ。おぬし、なんぞ焦っているようじゃが」
エラが尋ねると、彼は前を向いたまま答えた。
「うむ。各部隊からの伝令を聞いていたんだがな、どうも思ったより影の兵士の増殖が速いみたいなんだ。行ける時に行っておかないと、すぐにまた数で押し戻されてしまう」
「ほうほう、そういうことか。魔王め、膨大な魔力を惜しみなく使って来ておるのじゃな」
俺は兵士たちの動力となっている魔力を見てみる。
単純な魔法で消費するそれと、さして変わらなかった。
兵士たちがどんな魔法式で構成されているかはわからないが、一部に強化を施した上でのこれだ。
おそらく、かなり魔力の消費効率が良くなるように式が編まれているのだろう。
でもそうか、と俺は気付く。
わざわざ数を用意してレジスタンスの「相手」をしている、ということは……やっぱり魔王も、俺と同じことを考えているんだ。
だったら魔王城に到達できるかどうかは、そう案じなくても良い。
よほどのことが無い限り、必ず俺だけは、というより俺だけが辿り着ける。
いかに早く魔王のところへ行って決着を付け、こちらの損失を最小限に留めるか。
それが肝なのだ。
戦闘している集団と集団の僅かな合間をすり抜け、俺たちは先へ進む。
ほどなくして、先頭で戦っているウラハとジギが見えた。
後退しないよう頑張ってくれているようだが、やはり苦戦を強いられているのが見て取れる。
『友好会』の戦闘員は左方から押し寄せる兵士たちや、先ほどまで俺たちが戦っていた兵士たちを抑えるのに精一杯で、こちらにまでは手が回っていない。
「ふむ……ウラハたちにはここから離脱して共に来てもらおう。一時的に戦線を後退させることになるが、もう少しすれば『友好会』も前進してくるはずだ」
ゼンはそう言い、「さあ、2人が離脱する隙を作るぞ!」と剣を構える。
が、その瞬間。
どこからともなく大きな蛇が現れ、ウラハたちの前に立ちふさがる兵士たちをいっぺんに丸呑みにした。
「えっ!?」
あまりにも突然のことで、俺は思わず間抜けな声を上げる。
魔物なのだろうか、蛇は見上げるほどに大きい。
とても隠れて近付けるような図体ではない。
どこから、どうやって出てきたんだ、と俺は次々と兵士を喰らっていく大蛇を目で追う。
するとヒトギラが「なんだ、あいつも来てたのか」と呟くので、俺は誰なのかと聞いてみた。
「お前も1度会っているだろう。……いや、あの姿は見ていなかったか」
ヒトギラは答える。
「地下闘技場の支配人の……確かシハクとか言う、あいつだ」
それを聞いて、俺は妙に納得した。
そう言えばあの人は下半身が蛇の姿だったし、察するにゼンのような変身系の固有魔法を持っているのだろう。
「何をもたもたしているんだい、レジスタンス」
大蛇、改めシハクさんがこちらに言葉を投げかける。
「ここは俺たちが持ってあげるから、先に進むといいよ」
俺「たち」? と引っ掛かり彼の周囲を見てみると、数人ほど新手の魔族たちがおり、兵士たちと戦っていた。
なるほど闘技場の戦士を連れて来たのか。
「上でこうも騒がれるとさ、やかましくて敵わないんだよ。そうそうやかましいと言えば、さっきたまたま会ったニギもジギのことが心配だ何だってうるさくてさ。別に俺はどうでもいいんだけど、仕方なく来てあげたというわけだ」
尻尾でウラハとジギを掴んでこちらに寄越し、シハクさんは言う。
「む? ニギは城下にはいないぞ」
「…………いいから早く行ってくれるかい? 俺の気まぐれが終わらないうちに」
「ああ、それもそうだな!」
ゼンは頷くと、未だ状況を把握しきれていないウラハたちの方を向く。
「2人とも、これから第3部隊と合流するからついて来てくれ!」
「お、そういうことな! わかったぜ!」
「河川」
そうしてシハクさんたちに背を向け、俺たちは先を急ぐ。
着実に、魔王の元へと近付いて行くのであった。




