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最後に向かって

 時間はあっという間に過ぎ去った。

 なにせ2日なんて、2度寝て起きてを繰り返すだけで経ってしまう。


 慌ただしくも準備を終え再戦を四半日後に控えた俺たちは、各々最後の休息をとっていた。


 いつもと変わらぬ調子でくつろぐ者もいれば、少し緊張しながら来る戦いに備えている者もいるだろう。

 まあおそらく、約7名は前者だろうけど。


 俺はどちらかというと後者であり、自室で1人、不安を拭うように剣の手入れをしていた。


 静かだからか、いやに思考が回りやすい気がする。

 体と心が分離しているみたいに、俺は黙々と手を動かす一方で悶々と物思いにふける。


 魔王との一騎打ち……正直、勝算は五分五分だ。

 大敗する未来は見えないが、圧勝する未来もまた見えない。


 しかし俺は、何が何でも勝たねばならない。

 勝って、無事にみんなの元へ帰らなければならないのだ。


 力は互角、技も記憶を見て盗んだから互角のはず。

 あとは、根性だ。


 俺は己を鼓舞するように、ぐっと拳を握りしめる。


 と、ちょうどその時、部屋の扉がコンコンと叩かれた。


「フウツ、今いいか?」


 張りのある若い男性の声。

 ゼンだ。


「いいよ、入って」


 いつの間に帰って来てたのだろうと疑問に思いつつも、俺は返事をする。

 すると扉が開き、ゼンが姿を現した。


「悪いな、こんなギリギリの時に」


 眉を下げながら彼は軽く謝罪をする。

 気にしないで、と言いながら、俺は彼に椅子をすすめた。


「ゼンこそあちこち飛び回ってたんでしょ? 休まなくて大丈夫なの?」


「ああ、平気だ。少なくとも、疲れで戦闘に支障をきたすような真似はしない。安心してくれ。……で、ここに来た用件なんだが」


 ゼンは持っていた鞄をまさぐり、手のひらサイズの赤い石を取り出した。

 石は照明の光を反射し、キラキラと輝いている。


「フウツ、魔王と戦うならこれを持って行くといい」


 言いながら、ゼンは石を俺に手渡す。


「これは何?」


「魔法道具だ。少量の魔力で発動する。もし負けそうになった時は、これを使ってくれ。いやなに、威力は十分だが、ともするとキミをも傷付けてしまうかもしれなくてな……。まあ、奥の手ということにしておいてくれ」


 俺は、朗らかに笑うゼンと手元の石を交互に見た。


「…………」


「ん、どうした? 何かわからないことでもあったか?」


「……ううん、何でもない。有り難く持ってかせてもらうね。ありがとう、ゼン」


「うむ!」


 満足げに頷き、彼は「ではまた後ほど!」と言って部屋を出て行った。

 相変わらず行動が早い。


 再び静かになった部屋の中、俺は赤い石に目を落とす。


 鮮やかな赤色。

 ゼンの髪の色とそっくりだ。


 ……奥の手、か。


 俺は魔王の記憶の中で得た膨大な量の知識を掘り返す。

 確か魔法式がどうなっているかは、それを隠蔽する式が編みこまれていない限り可能だったはず。


 見よう見まねで、俺はゼンからもらったこの石の魔法式を探ってみる。

 完全に記憶頼りだったが、疑似体験のおかげか案外すんなり成功した。


 石の中に編みこまれた式を読み解く。


「『発動条件:魔力を込める』、『効果:任意の対象の命を奪う』……ええと、それでこれが『動力:使用者の魔力と』……」


 続く1文を読み、俺は式を探る手を止めた。


 そして石を床に置き、剣を突き立てる。

 バキ、と音を立てて石は真っ二つに割れた。


 念のため再度、式を見てみる。

 基盤である石が壊れたので、魔法道具としての機能は無くなっていた。


「これでよし、と」


 俺は割れた石を鞄にしまう。

 仮にもゼンからの贈り物だ、さすがに捨てるのは忍びない。


 にしても酷いことをするなあ、と俺は軽く溜め息をつく。

 こんなものを使って勝ったところで、俺やみんながどう思うかくらいわかるだろうに。


 いやまあ、わかっててわざとぼかした言い方をしたんだろうけど。

 嘘は言ってないっていうのがまた彼らしい。


 原因を作った俺が言うのも何だが、こうも自罰的になられては困ってしまう。



 さてそうこうしている間に出発の時間となり、俺たちは第三支部を出て魔王城下の目前へと足を運んだ。


「いよいよですわね」


 具合を確かめるように軽く斧を振ったり、右手と左手とで持ち替えたりしながらデレーが言う。


「うん」


 答えて、俺は眼前に悠々とそびえ立つ城壁を見つめた。

 この向こうに影の兵士がわんさかいるのだと思うと、改めて身が引き締まる。


「わくわくするね! 今度こそいっぱいの敵と戦えるんでしょ?」


「ええ、ええ。思う存分、暴れていいわよ」


「ちょっとアクィラさん、バサークさんを甘やかさないでください」


「トキも甘やかしてほしいの?」


「はっはっは、やめておけフワリ。トキの血管が切れるぞ」


「はあ……相変わらずやかましいな」


「奇遇だね、おれも同じ意見」


 後ろから聞こえてくるみんなの声に、俺はついつい頬が緩んだ。


 不意に、サッと地面に影が落ちる。


「すまない、少々遅れた!」


 ほどなくして、快活な声と共にゼンが空から降り立った。

 何をしに行っていたのかというと、単純に各部隊の配置確認である。


 「遅れた」とは言っているが、特に慌てた様子も無いところを見ると滞りなく準備は完了したのだろう。


「確認ついでに、件の追加人員と合流して来たんだ」


 ゼンがそう言うと、彼の後ろから2人の人物が歩み出て来た。


 1人は、うごめく髪と薄赤色の肌の少年。

 もう1人は、とても長い黒髪のひと。


「ウラハ、ジギ!」


 それは俺たちがいつか、レジスタンスへの協力を要請した2人だった。


「おう! 俺たちだぜ! って言っても俺、こいつとは初対面だけどな!」


「演繹、帰結」


 しばらく会っていなかったけれど、元気そうで安心した。


「どういう基準でこの2人なんですか?」


「『単騎で本領を発揮できる』かつ『前衛向き』だ。組織に属するならそこでまとまってもらった方が良いし、道を開くのを手伝ってもらいたいからな」


「ふふん、とにかく先頭で暴れりゃいいんだろ? 任せとけって!」


「煎じて如意」


 2人ともやる気・自信ともに満々のようだ。


 いつもニギと一緒だというジギのことだ、彼女がいないとやる気が下がってしまうのではないかと思ったが、そんなことは無さそうである。

 離れていても心は……というやつだろうか。


「さあみんな、用意はいいか?」


 ゼンの言葉に、俺たちはそれぞれ肯定の言葉を口にした。


 ふ、と。

 辺りが明るくなる。


 日が昇ったのだ。


「――全軍、進め!」


 同時にゼンが、魔法で生成した閃光を空高く打ち上げた。


 俺たちは一斉に走り出す。

 城下を、魔王城を目がけて。


 ……正真正銘、これで最後だ。


 俺は遠くに見える城を、真っすぐに見据えた。


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