閑話:目撃者
○月○日
とても恐ろしいことが起きた。
字を綴る手が震える。
何か書くべきなのだが、何も言葉が思い浮かばない。
私は現在、妹と共に障壁を張った部屋に隠れている。
どうか早く過ぎ去ってくれ。
○月△日
夜が明けた。
黒い波はもう見えない。
しかし街の者は皆、死んでいる。
生き残りはいないのか。
○月×日
黒い波が過ぎ去って2日。
北の街で親子2組と出会った。
よかった、生きているのが私たちだけでなくて。
よかった……。
○月▲日
不思議な少年と出会った。
見たこともない魔力量だ。
彼は生き残りを探すのを手伝ってくれるのだという。
有り難いことだ。
○月◇日
昨日の少年とまた会った。
彼はなぜだか、私たちのことをよく覚えていない様子。
だが生き残りを集めるのは引き続き手伝ってくれるそうだ。
・・・
○月■日
連日、少年は生き残りを連れてきたり、食料を集めたりしてきてくれる。
しかし奇妙なことに、次の日にはその全てが曖昧になってしまっているようなのだ。
自分が助けた人々に囲まれながら、少年は今日も怪訝な顔をしている。
・・・
□月×日
少年を中心に、生き残りたちの集落ができてきた。
場所は旧王都。
妹も元気にしている。
本当に、少年には頭が上がらない。
・・・
▽月□日
明日、我々は正式に少年を王とする。
記憶に関する件の問題はあったが、見て来た限りではリーダーとしての活動に支障は出ていない。
よって問題無しと、我々は判断したのだ。
……が、正直なところ、少々罪悪感は残る。
年若い少年にこんな重荷を背負わせるなんて、我々は大人失格だな。
・・・
・・・
◆月○日
私たちの国はおおむね順調だ。
魔王様の力に嫉妬したのか反抗する者たちもいるが、大した勢力ではない。
じきに頭が冷えるか、魔王様から直々に灸を据えられるだろう。
それにしても洗脳だ何だと、酷い言いがかりをつけてくるものだ。
・・・
・・・
▲月□日
妹に子が生まれた。
角と尻尾の生えた赤子だった。
……厄災以降、新生児は皆こうだ。
人間の姿をしていない。
それでも妹は、自分の子を愛おしそうに撫でていた。
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・・・
・・・
×月○日
近頃、ひしひしと死期を感じる。
恐ろしくはないし、未練も無い。
しかし、魔王様のことだけが気がかりだ。
厄災の日から少しも年をとらない少年。
「良い記憶」を覚えていられない少年。
我々は皆、彼に救われた。
だが……彼のことは、誰が救えるのだろう。
・・・
×月■日
何者かがこの手記を奪おうとしてきた。
名乗ってはいなかったが、おそらくは魔王様を妬むレジスタンスとかいう奴らだ。
これは私の思い出であり、貴重な記録になりうるもの。
絶対に渡してなるものか。
・・・
×月▽日
私がこの手記に文を書くのは、今日が最後だ。
私はこれから、手記を特殊な魔法をかけた箱に収納する。
本人が死んでも空気中の魔力を消費して発動する、保護魔法だ。
これで卑劣なレジスタンスから、真実を守ることができる。
そして今、この手記を読む者よ。
できることならどうか、どうか。
あの悲しい少年を救ってやってくれ。




