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昔語り

 それからエラは、自分とこの地について語り始めたのだが。


 合間合間に自慢話(いかに自分が優れているかというアピール)をしたり、かと思えば急に魔法の解説をし出したりと脱線しまくりで、全く話が進まない。


 全体を10とすると、本題は3か4くらいの割合だ。

 よって、余計な話を切り落として要約することとする。


 ――数百年前、エラは魔法研究者として活動していた。

 天才的な頭脳で様々な魔法を開発し、自らに若返りの魔法をかけて半永久の時間を手に入れるなど、まさに天才的な頭脳を思うがままに使っていた。


 しかしある時、とある貴族が王家に反旗を翻したことに始まり、ユラギノシア中で争いが起こる。

 王家は倒れ、我こそが次代の統治者だと奢る貴族たちが王都を手中に収めようと一斉に詰めかけた。


 エラはというと、戦争が始まったことにより「ナナ国お抱えの魔法研究者」として国に協力していた。

 とはいえ、実際は研究資金を貰うだけ貰い、自分の好きなようにやっていたとのこと。


 王都争奪戦は苛烈を極め、各国がありとあらゆる手段で相手を潰そうと躍起になった。

 その過程で利用されたのが「高等魔法」だ。


 曰くそれは、複雑な魔法式で構築された、非常に強力または利便性の高い魔法。

 敵を殺すため、あるいは味方を守るため、王都には数えきれないほどの高等魔法が飛び交った。


 その結果。


 王都は見る影もなく荒れ果て、土や水は変質した。

 汚染された水をそれと知らずに摂取した者の中には、身体が変形した者もいたらしい。


 こうなっては手に入れたところで邪魔になるだけだ。

 揃いも揃ってそう判断した各国は王都から去り、大壁で蓋をした。


 しかし、そこに目を付けた者たちもいた。

 魔法研究者だ。


 エラはじめ研究者たちは、誰も踏み入らないのをいいことに王都――旧王都を実験場とした。

 誰が号令をかけたわけでもないのに、各国の研究者が一斉に集まってくる様子はかなり滑稽だった、とエラは言う。


 彼らは旧王都で実験を行っていることを極秘とし、国にさえも「調査」と虚偽の報告を行った。


 「お互いの研究は邪魔しない」「国には秘密にする」。

 この2つを互いの誓約とし、研究者たちは思い思いに旧王都で活動した。


 非人道的なまでの威力を持つ攻撃魔法を開発したり、動物を強化/凶暴化させる実験を行ったり、希少種であるドラゴンを材料に兵器を造ったり。

 数十年もの間、旧王都は彼らの楽園と化していた。


 だがある時、高等魔法同士が予期せぬ反応を起こすという事故が起こる。


 ぶつかり合い、混ざり合った魔法は衝撃波と化して地中を駆け巡り、ユラギノシア全土を揺るがした。

 これにより研究者たちが隠れてしていた活動が各国に露見、事故のこともあり責任を追及される事態となる。


 さて困ったのが研究者たち――ではなく、領主たち。


 あまりに多くの研究者が旧王都の一件に関わっていたため、全員を処罰してしまうと国家にとって重大な損失を被ることになってしまう。

 かと言ってお咎め無しでは民に示しが付かない、と頭を抱えた。


 そこで、ひとつの提案がなされる。


 「エラに全ての責任を被せよう」。


 エラは天才であった。

 他の研究者など比べ物にならないほどの頭脳を持ち、その代償か性格には非常に難があった。


 故に、選ばれたのだ。

 「道徳心に欠ける天才が身勝手な行動の末に大災害を引き起こした」という筋書きの生贄に。


 これには誰もが賛成した。

 研究者からすれば、優秀すぎる天才は邪魔者だったから。

 領主からすれば、国への忠誠に欠ける天才は脅威だったから。


 そうしてエラは旧王都の城に幽閉されることになった。

 一切の魔法を封じられ、特殊な魔法で仮死状態にされ、以降囚われの身のまま数百年を過ごしたのだ。


 と、そこでふと疑問に思った「俺」が


「なんでおとなしく捕まったの? そんなに凄い魔法使いなら、自力で逃げたりなんかもできたんじゃ……」


 と尋ねると、エラは


「はっはっは! それを聞くのは野暮というものじゃよ」


 と返した。

 天才と言われ、自身もそれを自称するだけあって、心の内がいまひとつ読めない。

 なんとなく追及するのはやめておいた。


 話を戻して、時は数年前。


 エラの元に1人の少年……というか、屋敷を抜け出した幼き日のフワリがやって来た。


 余談だが、彼は城に着いた時点でかなりボロボロだったらしい。

 まあ当然と言えば当然だ。


 エラはそんな命知らずな真似をするフワリを気に入り、彼のために安全な「道」を作った。

 他でもない、「俺」たちが通って来た道である。


 魔法により土水の汚染が除かれ、動物を近寄らせないようにしてあるとのこと。

 その仕組みをエラが自慢げに解説してくれたが、1割も理解できなかった。


 まあ、かくしてフワリとエラは友人となり、ちょくちょく会っては談笑するようになったというわけだ。


 魔法を使えないまま仮死状態にされていたのでは? という話だが、なんでも自力で魔法を解いたのだとか。

 彼女曰く、「結び方を知っているなら解き方もわかる、時間と根気さえあればなんとでも」。


 全くもって意味がわからない。


 とにかく、エラの話……の、要点はこの通りである。

 無駄に長い、しかし重要な部分も含む話を延々と聞かされた「俺」たちは一様に疲れた顔になっていた。


「それにしても」


 エラがさらなる語りを開始する前に、トキが口を開く。


「僕たちの知る情報とエラさんの持つそれとでは、かなり齟齬がありますね」


「ああ、確かに。空の変色の理由は合ってるけど、旧王都に関してははまるっきり話が違うもんね。まったく、何が『謎の災害』なんだか」


 「俺」は溜め息をついた。

 領主や研究者たちの身勝手さにはほとほと呆れる。


「あやつらが実際にどういう動きをしたのかは知らんが、大方、全部うやむやにしようとしたが一部の情報は漏れてしまったーとかじゃろうな。ま、どうでも良い話じゃ」


「エラさんは、世間でどういう話になっているのかご存知ですの?」


「うむ。フワリから聞いた。しかしなんというか、つまらんのう。全て予想の範疇じゃ。数百年経ってもまだ世界がわしに追い付いておらんとは……」


 エラは物憂げな表情で目を伏せた。


 自分に全責任を押し付けた者たちに対する恨み言が一切出てこないあたり、精神構造がイカれているのだろう。

 他人から目の敵にされるのも少し頷ける。


「では、今度はそちらの話を聞かせてもらおうか。フワリのことも含めてな」


 彼女はごろりと寝転がり、にこっと笑った。

 やっと聞き手に回るつもりのようだ。


 「俺」はこれまでのいきさつをかいつまんで話した。


 デレー、ヒトギラ、トキと出会った時のこと、フワリを塔から連れ出したこと、彼の置かれていた状況のこと。

 全てを語り終えると、エラは「そうかそうか」と満足げに頷いた。


「つまり、おぬしらがフワリを救ってくれたのじゃな。礼を言うぞい」


 彼女は立ち上がって、膝を払う。


「さてさて。情報共有を済んだことじゃし、そろそろ行くかの」


「? 行くってどこに――」


 ばき、と。


 エラを囲む柱にひびが入った。


「む? そりゃあ、あれじゃよ」


 直後、一斉に瓦解する幾本もの柱。


 呆気にとられる「俺」たちを余所に、ガラガラと崩れ落ちるそれらの中心で彼女は笑う。


「城の外、じゃ」


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