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囚われの友だち

 大壁の穴から一直線に歩き続け、「俺」たちはとうとう王城までやって来た。


「わあ……」


 目の前にそびえる巨大な建築物に、「俺」は思わず溜め息をつく。

 遠くから見てもかなりの規模であることはわかったが、いざ近くに来るとかなり迫力がある。


 イファ国で見た領主の屋敷よりひと回り大きい。

 壊れていてもこれなのだから、元はとてつもなく……それこそ天に届くくらいのものだったのかもしれない。


「安全な場所ってここのこと?」


 「俺」はフワリに尋ねる。


「うん」


 軽く首肯する彼。


「友だちがいるんだ」


「友だち……?」


 こんなところに居着く物好きがいるというのだろうか。

 もしくは、彼のことだから動物を友だちと呼んでいる可能性もある。


 言葉の仔細を尋ねる前に、またフワリは先へ進み出した。

 どこまでも自由奔放な人である。


 柱だけになった門を通り過ぎ、朽ちた扉を踏み越え、「俺」たちは王城内へと入って行く。


 まず玄関ホールというやつだろう、大きな広間が「俺」たちを出迎えた。

 美しかったであろう床は砂利や土に覆われ、一歩踏み出すたびに擦れて乾いた音を出す。


 規則正しく並んだ窓は枠だけが残っており、そこから舞い込む風が淀んだ空気をかき混ぜる。


 上の階に繋がる階段には手すりが付いているが、あまりにもボロボロで手を置こうとは思えない。


 しかし床と同様に階段も砂だらけなので、足を滑らせてしまいそうだ。

 できれば階段自体、使いたくないものである。


「足元、気を付けてね」


 フワリは床の陥没した部分をひょいと飛び越え、奥の通路へ向かう。


 そこそこ大きな窪みだ、下手をすると落ちてしまうかもしれない。

 「俺」は彼に続き、少々気合を入れて跳んだ。


 ここを子どものトキに跳ばせるのはいささか危険だろう。

 反対側から手を差し伸べるかたちで、移動を補助した方が良い。


 と、「俺」が振り向くより早く。


「トキさんは私が運んであげますわね」


「えー……。まあ背に腹は代えられませんね、よろしくお願いします」


「ええ、困った時は助け合うものですわ」


「……あなた絶対フウツさんに僕を手助けさせたくないだけでしょう」


「うふふ」


 デレーに先を越されてしまった。


 その隙にヒトギラも、2人を横目に悠々と窪みを越える。


 言いたいことが無くはないが、みんな無事に渡れたならそれでいいか。


 さてそんな具合で薄暗い城の中を歩き続け、とある大きな扉の前でやっとフワリは立ち止まった。


「エラ」


 彼は部屋の中にいる何者かに向かってか、呼びかける。


「エラ、来たよ」


 少し間を置き、返って来たのは――


「おお、フィンドールか」


 幼い少女の声だった。


 予想の斜め上を行く展開に、「俺」たちは目を丸くする。


 フワリが「友だち」の元へ向かっているらしいのはなんとなくわかっていた。


 だがその「友だち」が物好きの大人でも、ここに住み着いている動物でもなく、小さな少女だなんて誰が想像できたろう。


 いや、もしかすると扉の向こうの「エラ」は「友だち」ではなく、その娘か何かなのか?

 そう考える方が自然だけど……。


「友だちを連れて来たよ」


「ほうほう! それは良いことじゃ」


 「エラ」は声に似合わず、老人のような話し方でフワリと会話する。


 というか、フワリの中では「俺」たちももう友だち認定されているのか。

 嫌ではないが、少々驚きだ。


「さあ、早う入れ」


「うん」


 フワリは扉を両手で押す。

 形は保っているものの、この扉もやはりどこか壊れているようで、ぎぎ、ぎ、と歪な音が鳴った。


 半分くらいまで開けると、これで十分と判断したの彼はするりと中に入って行く。


 特に何を疑問に思うでもなく、「俺」も続いて部屋に足を踏み入れ――息を呑んだ。


 光りを反射するほどに磨かれた床。

 ひびのひとつも入っていない壁、歪みなく凜と立つ柱。

 蝋燭に灯された火が煌々と辺りを照らし、まるで昼間のように明るくなっている。


「いやに綺麗ですわね」


「うん……なんか、別の世界に来たみたい」


 いきなり変わった景色に、なんとなく落ち着かなくて視線が泳いだ。


「よく来たのう。はてさて、いつ振りじゃ?」


 部屋の中央、円を描くように立てられた柱の隙間から「エラ」の声が飛んでくる。


 よくよく見ると、「エラ」を囲む柱は周囲のそれらとはいささか造りが違う。

 おそらく王城とは別に、後から設置されたものだろう。


「2年振りだよ。本当は来たかったんだけど、色々あって」


 フワリは柱に近寄りながら、「俺」たちに手招きをした。


「紹介するね。フウツくんと、デレーさんと、ヒトギラくんと、トキくん。さっき友だちになった」


 何本もの柱は、ちょうど「俺」の腕が通るくらいの間隔で並べられている。

 柱自体は細めだが、こうも詰まっていては中がよく見えないし、向こうからも見えにくいに違いない。


 それでも顔くらいは合わせておきたい。

 「俺」は少し身をかがめ、柱の間から中を覗き込んだ。


「は、はじめまして」


 すると、橙色の瞳の少女とぱっちり目があった。


 そう、少女。

 声色に違わず、やはりそこにいたのは幼い少女だった。


 彼女の姿を、存在を目の当たりにして、情報過多でこんがらがっていた頭がようやくはたらき出す。


「……なんでこんなところに女の子がいるの?」


 聞きたいことは山ほどあるが、「俺」が最初に口にした疑問はそれだった。


「む? なんじゃフィンドール、おぬしここまで連れて来ておいて何も話しておらんのか?」


「うん。後でいいかなって。あ、あとボク、フワリって名乗ることにしたんだ。別にどっちで呼んでもいいけどね」


「まったく、その能天気さは相変わらずじゃのう。さてはとうとう本格的に家を出たか?」


 ころころと笑って、エラは「まあ良い、後で詳しく聞かせてもらうぞい」と付け加える。


「さて……。ではおぬしらに説明してやろう。わしが何者なのか、なぜここにいるのか、そしてフィンドール……フワリとどのような関係にあるのか」


 にやり、と口角が上がるのが見えた。

 なぜだか少女とは思えない威厳を感じる。


「端的に言ってしまえば」


 息を吸う音。


「――わしは天才じゃ」


 あまりにも大真面目に吐かれるふざけた台詞に、「俺」は拍子抜けしてしまった。


 いきなり何を言い出すんだこの子は。


「わしは天才なのじゃよ」


 今度は溜め息混じりに言う。


 溜め息をつきたいのはこちらである。

 整理されかけていた頭の中が、一気にぶっちゃかされた気分だ。


「故に、こうして囚われの身となった。全ての罪と共に、そしてその証たるこの旧王都でな」


「罪……?」


「うむ。もう数百年は経とうか……。あれはそう、ユラギノシアの大地で戦が起こる前のことじゃった――」


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