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穏やかな

 聞くところによると。


 まず青年が男たちに追われていたのは、その能力に目を付けられてのことだったとか。


 彼は《拒絶》というスキルを持っており、これがまた戦闘に便利なもので。

 傭兵団である男たちは何がなんでも手に入れようと、凶行に走ったのだという。


 次に青年が「俺」たちを拒絶しまくっていた理由。


 どうやら青年は生まれつき、どうしても人間が気持ち悪く感じる体質らしい。

 姿かたち、声、肌の感触、その他もろもろが生理的に受け付けないとのこと。


 そんな体質があるなんて聞いたことが無いが、現に目の前の彼がそうであるのだから、信じざるを得ない。


「じゃあなんで俺たちについて行くことにしたの?」


「……お前を、好きになりたいと思ったから」


「俺?」


「お前は俺を助けた。気色の悪い下心も、対価を求めることも無く。だから、好きになりたい」


 青年の返答を、「俺」は反芻した。


 つまりなんだ、体質のせいで感覚的に人を好きになれないけれど、感情は多少の好意を示している。

 ので、感覚の方でもどうにか「好き」になりたい、と……そんな感じだろうか。


「……頑張れ!」


「ああ、頑張る」


 照れくささから若干、意味のわからないコメントをする「俺」に、青年は至極真面目な顔で頷いた。


「ではそろそろ、自己紹介をしませんこと?」


 ぱん、と手を叩き、デレーが言う。


「あ、そうだね。ええと、俺の名前はフウツ。確か15歳だったと思う。よろしくね」


 村の奴らが「あいつの役職判定どうする?」「別にいいだろ、戸籍無いし」みたいな会話をしてたのが5年前だから、たぶん合ってる。


「俺はヒトギラ。年は17だ」


 大人っぽいから20歳くらいかな、とか思っていたけれど、意外と若かった。

 この身長差も、彼が大きいか「俺」が小さいかのどちらかっぽい。


「最後は私ですわね」


 にこ、と笑い、デレーは小さく息を吸う。

 そして。


「改めまして、お初にお目にかかりますわ。私はデレー=ヤンと申します先日フウツさんに助けていただきこの人生を捧げると誓ったものですわええ言うなれば正妻ですのよあなたがどういう心づもりかは存じ上げませんがあなたが私に勝つということは万が一にも有り得ませんので思い上がることのないようよろしくお願いいたしますわ」


 その笑顔を一切崩さず、ひと息に言い切った。


「……ああ、お前たち付き合ってたのか」


「いや付き合ってないよ」


 困惑しつつも納得しかけるヒトギラに、「俺」はすかさず訂正を入れる。


「なるほど。こいつは頭がおかしいんだな」


「あら、ご挨拶ですわね。仮にも助けられた相手に、無礼なんじゃあなくって?」


「俺が助けられたのはフウツだ。お前はフウツが動かなければ何もしないつもりだったろう」


「もちろんですわ。フウツさん以外の命に価値なんてありませんもの。どこか問題でもありまして?」


「ある。お前の思考回路にな」


「ま! お可哀想に、乙女心を解することができませんのね。恋する乙女には、正常な思考回路など無いも同然なのですわよ?」


「知るか。あと勘違いするな、お前のそれはただのいかれた執着だ。恋だの何だのとのたまうならもう少し相手のことを考えたらどうだ?」


 初対面とは思えない勢いで言い争うデレーとヒトギラ。

 両者一歩も譲らず、ひたすらに煽り合う。


 「俺」はというと、情けない話だがどうすることもできず立ち尽くすのみ。


 いっそ「俺のために争わないで!」なんて言って茶化せれば良いのだが、デレーには本気にされそうだしヒトギラには冷たい目で見られそうだしで実行する勇気が出ない。


 ……もしかしたらこの2人、根本的に相性が悪いのかもしれない。

 同行者が増えたと少々喜んでいたが、一気に先行きが不安になってきた。



 そんなこんなで、なんとか2人の争いが集結する頃には日が傾き始めていた。


 青々とした木々は次第に黒く染まり、同じく黒く塗りつぶされつつある空に溶け込んでいく。


 特段、急いでいるわけでもないし、夜の山を行くのは危険だろうということで「俺」たちはここらで野宿をすることにした。


「よい……しょっと。こんな感じでいいかな」


「ええ、上手くできましたわね」


 視界が完全に塞がれる前に、「俺」たちは集めて積み上げた木の枝を石で囲い、焚火の準備をする。


 ヒトギラが火を点けた木の葉をそこに放り込むと、ほどなくしてじんわりと炎が膨らみ始めた。

 熱を振りまきながら揺れる炎が、周囲を照らす。


「そういえば、ヒトギラって【聖徒】じゃなくて【魔法使い】なんだね」


 「俺」は少し離れたところに座るヒトギラに言う。


「意外か?」


「ううん、イメージ通り。でもなんか、【魔法使い】ってあんまり見ない気がするから」


 村を焼き出されて以来、ヨツ国中をふらふらしていた「俺」だが、その間に魔法を使っている人を見たのは片手で数えられるくらいだった。


「ああ……それはきっと、大部分の【魔法使い】が戦場に駆り出されているからですわね。【魔法使い】は戦争向きですから、国が高給で釣ったり強制的に招集したりしているんですの」


「へえ、そうだったんだ」


 まったくの初耳である。

 村人たちの話にはしばしば聞き耳を立てていたが、これは聞いたことが無い。


 村に【魔法使い】はいなかったし、自分のことしか頭に無いあいつらのことだ、わざわざ話題に上げることでもなかったのだと思われる。


「じゃあヒトギラも招集とかされたの?」


「された。が、蹴った。そのせいで村にいられなくなったが……まあ、ゴミ溜めに行くよりはマシだ」


 国の命に背くとは、なかなか大胆なことをしたものだ。

 しかしそれも、彼の体質を知った今では頷ける。


 と、そこでデレーが何かを思い出したようで、「もしや」と呟いた。


「ヒトギラさん。その村というのは、カーク村ではなくって?」


「……なぜわかる?」


 出身地を言い当てたデレーに、ヒトギラはやや警戒の色を込めた視線を送る。


「お父様が以前、仰っていたもので。カークという田舎の村にいる【魔法使い】が有用なスキルを持っているというから招集をかけたのに逃げられた、と」


 大層頭を抱えておりましたわよ、とデレーは付け加えた。


 というかその言い方からすると、十中八九、彼女は領主の娘ということになる。

 「俺」は彼女を連れて来たことの重大さを改めて感じ、少し身震いした。


「そうだ、デレーは何の役職なの? やっぱり【剣士】?」


 なんとなく沈黙を作りたくなくて、「俺」は会話が終わりかけたところに新たな話題を投入する。


「いいえ。私は【斧使い】ですわ」


「あれ、そうなの」


「剣も使えますけれど、やはり斧が一番、といったところですわね」


「そっかそっか。あ、それなら明日、さっきの傭兵のとこから拝借する? 斧を使ってた人、何人かいたよね」


「待て、それなら奴らの野営地に行った方が良い。おそらくまだ予備の武器やらが残っている。あと――」


 ……その後も、「俺」たちは話を続けた。


 そうしていると、このあての無い旅路への不安とか、焦燥とかがどこかへ消え去るようで。

 いつの間にやら「俺」は、穏やかな眠りの底へと落ちて行くのであった。


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