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134/212

分別はしっかりと

「ちっ、もう来たのかよ。クズの代わりにポンコツが足になったってわけか」


 アルケが忌々しげに言う。

 どうやら彼の行動は、ゼンが魔力不足で飛んでこられないことを予測してのものだったようだ。


「余所見してる場合?」


 いつの間にやら彼の背後に回っていたナオが、2、3発ほど矢を連射する。

 矢は変則的な軌道を描きアルケを貫かんとするも、彼の爪によって弾かれてしまった。


「はっ。『勇者』だか何だか知らないけど、人間ごときが俺に勝てると思ってるの」


「勝てるさ、だってあんた鳥じゃないか。鳥は射られて墜ちるのがお似合いでしょ?」


「ふん……安い挑発だね。まあ、あれだ」


 アルケはひらりと舞い上がると、後方を見やった。


 視線の先には、影の兵士の群れ。

 そしてそれらと交戦する、レジスタンスたちがいる。


「競争、続けよっか」


 ニヤリと笑い、彼は飛び立った。


「させない!」


 ナオが即座に後を追う。


「オレたちも行こう!」


「うん!」


 次いで、俺たちも走り出した。


 が、下は影の兵士に埋め尽くされているため、屋根の上を伝って行くほか無い。

 栄えたこの街には建物が密集しており、足場には困らないのが不幸中の幸いか。


 一方アルケは、何を意図してかさっきほどの速度は出していない。

 竜人ですらない俺たちでさえ、なんとか追いつけそうなほどだ。


 しかも時々その場で宙返りをするなど、露骨に俺たちを「待って」いる。

 残虐な彼のことだ、もしかしたら「ギリギリのところで間に合わなかった」という状況を作り出そうとしているのかもしれない。


「バサーク、トキ、フワリは右へ! ナオ、デレー、アクィラは左へ! 奴を包囲する形をつくってくれ! オレ、フウツ、ヒトギラ、エラで真後ろから攻める!」


「はーい!」


「わかった!」


 ゼンの指示に従い、それぞれ散開する。


 それに気付いたのか、アルケはさらに速度を落としてわざと包囲網に入って来た。


「ほら、撃ってきなよ!」


 後ろを向き挑発する。


「どんな手札を持っているかわからん。みんな、くれぐれも慎重に行くぞ」


「もちろん」


 ナオが矢をつがえ、キリキリと狙いを定めて発射した。

 一直線に飛ぶ矢。

 なぜかアルケは避けない。


 鋭い光の線が彼の翼を撃ち抜く……かと思われたが、しかしそれは直前で何かに遮られ、消滅した。


「なっ!?」


「ふ、あははははは!」


 まさか『勇者』の力を以て射られた矢が、と驚く俺たちをアルケは嘲笑する。


「さすが魔王様! 『勇者』ごとき、魔王様の足元にも及ばないんだよ!」


 もしや、と俺は思う。


 いつか彼が人を部屋に閉じ込めるために使ったという、障壁を張る魔法道具。

 彼は魔王から与えられたそれで、ナオの矢を防いでみせたのではないか?


 『勇者』の力と魔王の力は相反するもの。

 つまり、ふたつの火力に差があった時、大きい方が残って小さい方は消滅する。


「はは、これでもう俺の勝ちだね。クズは残弾僅かだし、『勇者』も無力同然とわかった。ポンコツもその様子じゃ、魔王様の障壁を割れるほどじゃなさそうだ」


 そう言って、アルケは空中で停止した。


「それじゃ、ここらで余分な奴を消しておこうかな」


 余裕綽々に彼は言う。

 槍を器用にくるくる回し、ゼンたちに刃を向けてぴたりと止めた。


「余分な奴、っていうのは」


 ふ、とアルケに影が落ちる。


「キミのことかな?」


 隣の建物から飛び降りてきたフワリが、彼に拳を叩き込んだ。


 『勇者』の矢をものともしなかった障壁に敵うはずもなく、彼の拳は呆気なく弾かれる。

 だがフワリは軽やかに着地すると、エラに「どうだった?」と尋ねた。


「うむ、やはり破れるぞい!」


「は?」


 場違いに笑うエラに、アルケは顔をしかめる。


「何言ってんの、お前」


「そのままの意味じゃよ。その障壁、確かに頑丈じゃが割れぬほどではない。今のでも、先のでもちゃんとひびが入った」


 わしの目に狂いは無いからのう! とエラは付け加える。


 どうやらこのことを確かめるため、フワリに攻撃をさせたらしい。


 離れているのにどうやって意思疎通を行ったのかが疑問ではあるが、常人には理解できないものを持つ友人同士だ。

 少しの目配せでもあれば、考えを伝えることくらいできてもおかしくない。


「さらに言うなれば、いくら魔王の作ったものとて、使用者の魔力には底があるじゃろうて。いずれにせよ、その障壁は無敵ではない。というわけで皆の者、気合を入れて叩き割ってやろうではないか!」


 言い終えるが早いか、エラはアルケに魔法でできた石礫を撃ち込む。

 これもあえなく弾かれたかに見えたが、彼女の言う通り僅かに障壁を削ってはいるのだろう。

 アルケの顔色が変わった。


「く……。っでも、障壁が割られるより早くお前らを殺せば済む話だ!」


 仕返しとばかりに、四方へ氷魔法を放つ。


「荒いな」


 しかし氷の刃は誰の元へも届かぬうちに、ぐるりと弧を描くようにうねるヒトギラの炎に溶かされた。


「アクィラさん!」


「ええ、とびっきりの加護をあげるわ!」


 アクィラによる強化を受け、デレーが斬りかかる。

 斧と障壁がぶつかる鈍い音が響き渡り、空気を震わせた。


「ナオ、合わせてくれ!」


「はいはい!」


 ゼンの大剣と、ナオの矢が同時に障壁を打つ。

 絶え間ない攻撃に、アルケは防戦一方だ。


 ……いや、というよりこれは。


「みんな! たぶんあの障壁、内側のものも通さないようにできてる!」


 俺はみんなの耳に届くよう、大声で言う。


 そう、確かアルケに襲撃されたあの建物の、あの部屋の扉。

 彼が魔法道具で障壁を張り、あそこの人たちを閉じ込めた部屋の扉は、綺麗なままの状態だった。


 ああなっていたのはきっと、障壁が両面とも異物を弾くようにできていたからだ。


 通常の障壁は外から来るもののみを拒む。

 一方で、飛行時にヒトギラが張ってくれたような障壁は、強度が増す代わりに内と外、両方からのものを拒む。らしい。

 アルケのあれは、十中八九後者だ。


 ゆえに、障壁を張っている間はアルケ自身も攻撃ができないのである。


「じゃあどんどん攻撃できるってわけだ!」


 回避しようとするアルケに、バサークが逃すまいと食らいつく。


「でもつまんなくない? これじゃ戦ってる感じしないよー!」


 不満をもらしつつも、彼女は攻撃の手を緩めない。

 そうしてひときわ力を込めた一発をお見舞いしようと、勢いをつけて飛びかかった瞬間。


「かかったな、馬鹿が」


 アルケが口角を上げる。


 目前まで迫るバサークに向かい、翼をついと動かす。


 ちり、と火花が散ったかと思うと、途端に火柱が上がった。


「バサークさん!」


 トキが叫ぶ。


「ははははっ! 調子に乗るからだ! ざまあみろ、丸焦げになって死ね!」


 焦るようなその反応がお気に召したのか、アルケは心底愉快そうに笑った。


「ほう。障壁を解除し、瞬時に固有魔法を放ったか」


 やるのう、とエラは顎をさする。


「薄情なもんだね。仲間が焼かれたっていうのに」


「しかし……あれじゃな」


「? 何――」


 アルケの言葉が止まる。


 炎が晴れた。


 一度燃え移れば消えないはずの炎が。

 跡形もなく、晴れた。


 なぜならば――燃やすものが、無かったから。


「勉強不足じゃよ、小僧」


 そこには、けろりとした顔のバサークが立っていた。


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