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隠し書庫

 ゼン曰く。


 今回の目的はあくまで陽動。

 それだけでいけばイリアを倒す必要は無いのだが、この状況で追い打ちをかけないのは不自然だ。


 とのことで、俺たちはより「ぽく」見せるため、少々危険ではあるが2手に分かれることにした。


 一方はナオ、俺、デレー、ヒトギラ、バサーク、アクィラ。

 もう一方はゼン、トキ、フワリ、エラだ。


 俺たちは2階から下を、ゼンたちは3階から上を捜索。

 その間に何かしら大きい音が聞こえたら集合、となった。


「申し訳ありませんわ、フウツさん」


 2階の通路を歩いていると、ふとデレーが言った。


「ん、何が?」


「先ほどのことですわ。あの女がフウツさんに色目を使ってきやがりましたのに、私ときたら何もできず……。次は必ず四肢を捥いで首を晒しますので、どうかこの失態をお許しくださいな」


「そ、そこまでやらなくていいんじゃないかな……」


 いつもの過激な発言はさておき、できれば次は逃がしたくない、という点は俺も賛成だ。

 ゼンの言う通り、陽動のためには全力で対応しなくてはならないし、早期に無力化できるならそれに越したことはない。


「あれ?」


 不意にバサークが立ち止まる。


「ねえみんな、ここなんか変だよ」


 彼女は壁を指差した。

 見たところ、何の変哲もない石造りの壁だ。


「どう変なの?」


「んー、なんかスカスカしてる」


「スカスカ……?」


「壁の中が空洞になってる、とかじゃない? おれにはよくわからないけど」


 コンコンと壁を叩きながら、ナオは言う。


 何か隠されているのだろうか。

 確認してみたいところだが、壊したら大きな音を立てることになり、集合の合図になってしまう。


 反対側に回り込もうにも、歩いてきた感じだとここは外壁に面する、一番端の通路だ。

 はてさて、どうしたものか。


「あっ!」


 悩んでいると、バサークがまた声を上げた。


「次は何だ」


「ね、ヒトギラ! そこ押して!」


「は?」


「そこ! それ!」


 ぴょんぴょんと飛び跳ねながら彼女が指すのは、壁を構成するブロックのひとつ。


「はあ……こうか?」


 ヒトギラは面倒くさそうな顔をしつつも、渋々その言葉に従った。

 が、ブロックが動くなんてことはなく、壁にも変化は現れない。


「おい、何も起こらんぞ」


「えっとね、そのままちょっと待っててね。たぶん、こう!」


 バサークがまた別のブロックを押す。

 と、今度はズズ……と沈み込み、ややあって壁の一部が上下に開き始めた。


 俺たちは唖然としてその光景を眺める。


「な……なんでわかったの!?」


 おそらく全員が思っているであろうことを、アクィラが真っ先に口に出した。


「なんかここかなあって」


「まあ! 凄いわ、バサークちゃん! なでなでしてあげる!」


「えへへ」


 バサークの勘には何度が助けられてきたが、それにしても今のは本当に驚きである。


 一か所を押すだけならともかく、一見、何の反応も見せない部分を押しつつもう一方を押すなんて、よく一発で当てたものだ。


「ほら、入ろ!」


 意気揚々と壁の向こうに足を踏み入れるバサークに続き、俺たちも慎重に進んで行く。


 そこにあったのは小さな部屋だった。

 多少分厚くはしてあるだろうが、壁の中という性質上、やたら細長い形をしている。


「暗くてよく見えないね」


 棚らしきものがあるのはうっすらと見えるけれど、灯りが無いため視界が悪いことこの上ない。


「ヒトギラさん、火をお点けになってくださいまし」


「ああ」


 ヒトギラの手から、ぽ、ぽ、と小さな炎が生み出され、次々と宙に浮かんでいく。

 炎は列を成し、それぞれ天井付近で静止した。


「ありがとう。これで……」


 俺は炎に照らされ、露わになった室内を見る。


 先ほどから少しだけ見えていた物体は、推測に違わず棚……本棚だった。

 そして入り口付近を除き、最奥に至るまでそれがずらりと置かれている。

 部屋の約半分が、本棚で占められている形だ。


 察するに、ここは隠し書庫なのだろう。

 俺は適当な本を1冊取り出し、見てみる。


「『ワープ魔法に関する研究 第一巻』……」


 修繕の痕跡のあるその本は随分と古いものらしく、表紙は擦れ、中の紙も茶色く変色していた。


「なんか書いてある?」


 ナオが後ろから覗き込む。


「難しくてよくわかんないけど、たぶん名前の通りだよ。変わったことは書いてないと思う」


「そ。『魂についての基礎』、『魔法変異論』、『魔法式の大いなる可能性』……うーん、ただの学術書ばっかだね」


 そこでふと、俺はあることを思い出した。


 第三支部でリーシアさんが見せてくれた、初代リーダーの手記。

 あそこには、魔王があらゆる書物を焼いたと書いてあった。

 魔王が自分の所業を知られることの無いようにやったのだろう、とも。


 もしそれが事実なら、これらの古書も焼かれているはず。

 しかし現実には、こうして厳重に保管されている。


 ……そうか。

 焼却したと見せかけて、自分だけは読めるように隠してたんだ!


 それなら辻褄が合う。


 当時の魔王が既に読んでいたかは不明だが、見るからに高等な知識が載った本ばかりだ。

 手放すには惜しかろう。


 故に、レジスタンス含め民衆には見られないよう、こっそり所有していたというわけである。


 ……まあ、気付いたからと言って、何がどうなることでもないけど。

 ともあれ、昔の書物が残っていたのは良いことだ。

 合流したらゼンたちにも教えよう。


「特に目ぼしいものは無いみたいだし、捜索に戻りましょうか」


「うん、そうだね」


 ヒトギラが炎を消し、俺たちはぞろぞろと書庫から出る。


「じゃあ玄関ホールの方に――」


 続く言葉は、何かが崩れ落ちる轟音によってかき消された。


 ゼンたちからの合図、もしくはその間も無く戦闘に入ったのだ。


「行こう!」


 俺たちは走り出す。

 今、俺たちがいるのは2階奥。

 音がしたのは、まさに向かわんとしていた玄関ホール方面だ。


 剣を抜き、通路を駆ける。

 いくつか角を曲がって中央通路に差し掛かると、前方――玄関ホールに土煙が立ち込めているのが見えた。


 ホールは吹き抜けになっており、1階と2階を隔てる天井が無い。

 3階以上にいたゼンたちが1階まで来ているということは、おそらく2階の天井をぶち抜いて下りてきたか落ちてきたのだろう。


「あ、いた!」


 俺の予想は的中しており、玄関ホールでは風穴の空いた天井の下、ゼンたちとイリアが戦っていた。


「あたしも混ーぜて!」


 手すりを飛び越え、バサークが乱入する。

 相変わらずの好戦家っぷりに苦笑しつつ、俺たちも戦場に飛び込んだ。


「うむ、無事合流できたな! 見ての通り、イリアと戦闘中だ! 3階で遭遇したのだが、狭い場所では先ほどの二の舞だと思ってな! ホールまで下りてもらった!」


「言っときますけど、僕フワリさんがいなかったら死んでましたからね! 床に穴空けるなら先にそう言ってください!」


 エラたちに強化魔法をかけながら、トキが苦情を入れる。


「はっはっは! 大丈夫、フワリがトキを助けるのを見越してのアレだ!」


 ゼンは飛来する刃を弾き、そう返した。


「さあ、全員揃ったからには本腰入れて行くぞ! 二度は逃がさない、ここで決着を付けよう!」


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