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いざ突入!

 地上へ出た俺たちはそのまま歩を進め、指定された地点――近くの小高い丘に到着した。


 この丘は、魔界にやって来た時に降り立った場所だ。

 あの日のことが随分と昔のことのように感じられる。


「うん、全員揃っているな!」


 湖畔に立って待っていたゼンが、俺たちの姿を認めスタスタと歩いてきた。


 太陽はちょうど、真上に辿り着きつつあるところだ。


「ほれゼン、おぬしもこれを持っておけ」


「む? ああ、ありがとう!」


 エラは彼にも謎の札を渡す。

 本当に何なんだろう、あれ。


「それじゃ……変身!」


 ともあれ毎度のごとく奇妙なポーズをとり、ゼンは炎に包まれて大きな魔物へと姿を変える。


「へえ、これがあんたの固有魔法?」


「ああ! そうか、ナオは初めて見るんだったな! ちなみに今回は9人乗りができるよう、大きさを増してみたぞ!」


 その言葉に違わず、協力者確保のために支部や本部を行ったり来たりしていた時と比べ、彼は二回りほど巨大になっていた。

 というか大きさの調整ってできたんだ……。


 ゼンは体に比例して太く長くなった尻尾で、俺たちをひょいひょいと背中に乗せていく。


「このまま魔王城の1階に突撃する。できる限り防御はするが、念のため障壁を張っておくといい」


「ふん、言われなくてもそうする」


 最前に座るヒトギラがぶっきらぼうに言い放った。


「心の準備はいいか?」


 俺含め、みんなが口々に肯定の言葉を発する。


「よし。しっかり掴まって、顔は下向き! 口は閉じたまま薄目でオレの背中を見ておくこと! 行くぞっ!」


 ぐわりと体が持ち上げられ、ばさ、ばさ、と翼がゆっくり動き出す音がした。


 ヒトギラが障壁を張ったのを感じた後、物凄い勢いでゼンが発進する。

 俺は後ろに引っ張られそうになるのをぐっと堪えた。


 まだ幼いトキなんかだと飛ばされてしまいそうなくらいだが、彼が嫌がりながらもバサークに抱えられるのがちらっと見えたから、まあ大丈夫だろう。


「もう少しで着く! 舌を噛まないようにな!」


 びゅうびゅうと風の音が耳を叩く中、ゼンがそう叫ぶのが聞こえた。


「あと5秒! 4! 3! 2! い、あ」


 内臓や骨にまで響くほどの衝撃、そして石造りの壁か何かが盛大に崩れる音。

 減速の末に停止した後も、視界がぐわんぐわんと揺れているようだった。


「みんな、無事か?」


 魔物の姿とはいえ生身で城に突っ込んだはずのゼン本人は、ケロッとして俺たちを地面に下ろしていく。


「いやー、すまん。ちょっと目測を誤ってたみたいだ」


 さっきのカウントダウンが実際のタイミングと合わなかったことを言っているようだ。

 衝撃の余韻でふわふわする頭では、そう受け取るので精一杯だった。


「して、ゼンよ。ここが魔王城で間違いないのじゃな?」


「ああ」


 魔物から元の姿に戻り、ゼンは頷く。


「だが……妙だな」


「うむ、そうじゃのう」


 きょろきょろと辺りを見回し、2人は顔を曇らせた。


 俺たちが侵入したのは玄関ホールだ。

 ちなみに壁に空いた穴の位置からして、門を越えて正面から突っ込んだ形になったと思われる。


 あちこちに手の込んだ装飾が為されており、豪華絢爛な……と言いたいところだが、その雰囲気はどこか暗く不気味だ。


 お城と言えば、王様たちが住む煌びやかな建物。

 国を治める彼らの偉大さを象徴する、輝きに満ちた場所だと、俺は思っている。


 しかしこの魔王城からは、そんな明るさが少しも感じられない。

 むしろ、憎いとか苦しいとか、どろどろした負の感情ばかりが渦巻いているような気がしてならなかった。


 辛い、悲しい、許さない。

 どこからともなく、いやそこら中に怨嗟の声が響いているみたいで、俺は思わず身震いした。


「静かすぎますわね」


 デレーが言う。


「こんなに派手に突撃して来たのに、騒ぎどころか兵士の1人も来ませんわ」


 俺は、エラとゼンが訝しんでいたのはこのことだったのか、と遅れながら理解した。


「ゼンくん、魔王城にも普通に兵士とか、魔王の部下とかいるよね?」


「ああ。夜ならともかく、今は昼間だからむしろ人が多いくらいのはずだ。使用人も文官もいる想定で、彼らを誘導する用の人員も割いたんだが……もしかして既に避難が終わっているのか? いや、それにしては早すぎるし……」


 不可解な事態に、ゼンはああでもないこうでもないと唸る。


「とにかく先に進みましょう。罠かもしれませんが、動かないことには始まりません」


「そうだなあ……。うん、じゃあみんな、オレが先陣を切るからついてきてくれ!」


 ゼンは大剣を抜いて歩き出し、俺たちがそれに続いた。


 広い城内に、俺たちの足音だけが反響する。

 2階に繋がる階段を昇って奥へ奥へと侵入していくが、やはり誰もいない。


 得も言われぬ不穏さに警戒しつつ通路を通り、3階へと続く階段に足をかけた、その時。


「っ危ない!」


 前方から無数の刃物が飛来した。


 ゼンが素早くそれらを薙ぐも、間髪入れずに何者かが飛びかかって来る。


「やっぱり、あなたたちだった……」


「イリアっ……!」


 腕を刃に変えたその女性、イリアはいったん後ろに飛び退いた。


「あれ、なんで名前、知ってるの」


 彼女はゼンが名を呼んだことに首を傾げるが、すぐに「まあいっか」と戦闘の構えに戻る。


「『器』と人間と精霊……わあ、みんな揃ってる。みんな捕まえたら、魔王様、褒めてくれるよね」


「捕まえられたら、な!」


 ゼンは階段を駆け上がり、イリアの懐に飛び込む。

 俺も加勢を……と思うが、如何せん幅の狭い通路では彼女の背後に回ることはおろか、ゼンの隣に立つことすらできない。


 かくなる上は……。


「デレー、アクィラ!」


「わかりましたわ、逆側から回り込むのですわね」


「理解が早くて助かるよ!」


「えっ? あ、デレー貴女またフウツちゃんの心読んだのね!?」


 確か3階に上がる階段は真反対にもあったはず。

 手元に地図が無いため若干不安だが、挟み撃ちを狙おう。


 イリアはゼンとの戦いに集中している。

 加えて見通しの悪い通路だ、残りの9人中3人がいなくなったとて、すぐには気付かないだろう。


 俺たちはそっと来た道を引き返し、もうひとつの階段から先ほどの通路を目指した。


「さすがフウツさんですわ。城の構造を覚えていらっしゃるのですわね」


「い、いや、半分勘……かな」


 我ながらふにゃふにゃの根拠に苦笑いする。

 だが今日の俺は相当勘が冴えているらしく、自然と足が目当ての場所へと運んでくれた。


「! いたわよ、あそこ」


 いくつめかの曲がり角の先で、イリアがこちらに背を向けてゼンと交戦している。


 俺は体に魔力を巡らせ、彼女目がけて駆け出した。

 足音は極力立てないようにしていたけれど、それでも気配というものはするようで、パッとイリアがこちらを振り向く。


 避けるか?

 いや、このまま攻撃だ!


 来るであろう彼女の迎撃を意識し、俺は剣を振りかぶった、が。


「魔王様……!」


 目が合う。


 人殺しのそれではなく、無垢な敬愛を映し出す目と。


 時間が、すべての動きがゆっくりに感じられた。


「でりゃあっ!」


 と、ゼンの声で我に返る。

 彼はイリアの注意が俺に向けられた隙を突いて、渾身の斬撃を繰り出したのだ。


「くっ」


 イリアは慌てて回避行動をとるが、完全には避けられず、左腕に深い傷を負った。


「う……あああああ!」


 叫び声と共に、まばゆい光が彼女から発せられる。

 俺たちは思わず目を瞑った。


「目くらましか!」


 悔しげなゼンの声がする。

 光が止んだ後、目を開けるとイリアの姿はそこに無く、ただ仄暗い通路があるだけだった。


「逃がしてしまったか……。だがフウツたち、今のは良い動きだったぞ。ありがとう! さあ、後を追おう!」


 ゼンは早々にまた歩き出す。


 さっきのイリア、あれはたぶん魔力で俺を魔王と勘違いしたのだろう。

 そういえば『友好会』での一件でも、魔力を手掛かりに俺を追って来ていたし、もしかすると感知能力に長けているのかもしれない。


 ……なんてことを頭の隅で考えながら、俺はゼンに続くのであった。


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