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『勇者』召喚!

 翌日、俺たちは第三支部に帰って来た。


 ゼンは水族館、もとい本部に「出勤」するらしく、2日は戻らない予定とのことだ。

 おそらく今後のことを決めてくるのだろう。


「お帰りなさい」


 ジェシカさんに先導してもらって支部に入ると、真っ先にリーシアさんが迎えてくれた。

 彼は相変わらず落ち着いた雰囲気を纏って、しかしどこか悲しそうな視線を送る。


「何があったかは既に聞いています。いろいろ大変でしたね。さ、皆さんのところへ行きましょう」


「んじゃ、あたしは上に戻るよ」


 ジェシカさんを見送り、俺たちはリーシアさんについて行く。


 向かった先は、左側の階段を上がってすぐの部屋。

 促されて扉を開けると、そこには見慣れた面々が勢揃いであった。


 何やら作業をしているようだったが、俺たちに気付くと、各々手を止めてこちらを向く。


「あ! お帰りー!」


「ちょっとバサークさん、そこ踏まないでくださいよ!」


「や。何日か振りだね」


「はっはっは、元気が良くて結構結構」


「ふふ、お年寄りみたいですよ、エラさん」


「エラは年寄りだろう」


 バサーク、トキ、フワリ、エラに、ククとミフムさんも。

 みんな上手くやっているみたいだ。


「おお、そうじゃ。デレーや、アクィラはおるかえ?」


 床に散らばる紙をまたいでエラが歩いて来る。

 手には何やら、首飾りのようなものを持っていた。


「おりますわ。アクィラさん、アクィラさん」


 デレーが斧を軽く揺する。


「んもう、聞こえてるわ。そう揺らさないでちょうだい」


 斧からぷりぷりと怒るアクィラの声がした。

 姿は見えないが、それなりに元気そうだ。


「アクィラ、ちと出てくるが良い」


「はいはい。手短にお願いね?」


 するりと彼女が実体を持って現れる。


「これをおぬしにやろう」


「へえ、きれいな首飾りね……あら?」


 エラから首飾りを受け取ると、アクィラは目を丸くした。


「ふふん、どうじゃ? 楽になったろう?」


「ええ、ええ! さすがエラね! これで魔界でもフウツちゃんをしっかり守れるわ!」


 どうやら首飾りは、彼女を魔界の魔力から守る道具だったらしい。

 くるくると嬉しそうに回り、アクィラは感謝の言葉を述べる。


「ああ、数日振りの生フウツちゃん……お姉さん、思いっきり甘やかしちゃう!」


「ちょっとアクィラさん! フウツさんにベタベタしないでくださいまし、と何度言ったらおわかりになりますの!?」


 俺を撫でんとする彼女を諫めるデレーも、心なしか活き活きとしている。

 やはり生身でないと張り合いが無いのだろう。


「綺麗だ……」


 ぽつりとミフムさんが呟いた。


「精霊・アクィラ……なんと美しい……」


「あらあら、嬉しいこと言ってくれるじゃない。お礼に抱きしめてあげる!」


「い、いや私は遠慮して……ああっ! 困る、そんなことをされては困るぞ!」


 ミフムさんは顔を真っ赤にし、口では拒んでいるものの、まんざらでもなさそうである。


「そ、そうだ! エラ、フウツたちが来たのだから、アレを!」


 ぎゅうぎゅうとアクィラに抱きしめられながら、ミフムさんは言う。


「うむ、そうじゃな。アクィラよ、いったんミフムを離してやれ」


「ふーんだ、貴女に言われなくても離すわよ。ミフムちゃん、またいつでも可愛がってあげるからね」


「あ、いや……うう……」


 はっきり「嫌」とは言えず、返答をうやむやにしてミフムさんは部屋の中央へ移動する。

 そして咳払いをひとつし、「これを見てくれ」と床を示した。


「魔法陣?」


「ああ、そうだ」


 散らばった紙やら道具やらで隠れて気付かなかったが、そこには大きめの魔法陣が描かれていた。

 ちょうど、ミフムさんの屋敷にあったくらいの大きさだ。


「聞いて驚くがよい。これはなんと! 召喚魔法用の魔法陣なのじゃ!」


 エラが高らかに言う。


「わしらおはな組は、まず人間界にいるナオを呼び寄せる方法を考えた。『勇者』たるあやつがおれば、かなり勝率が上がるからの」


 俺は反射的に彼のことを思い返した。


 竜人の足止め役を買って出てくれた彼だが、今ごろどうしているだろうか。

 生きてはいると思うけど、果たしてどこで何をしているのやら。


「緑色の石を作り、人間界へ行く魔法を編みだして……とかしてもよかったんじゃが、それだと丸っきり魔王側と同じになるじゃろ? それはちとダサい。誰もしたことのないことをしてこその天才じゃ」


 エラらしい理論である。

 是が非でも自分のこだわりを貫こうとする彼女の姿が目に浮かんだ。


「そこでわしはミフムのファグラ魔法に目を付けた。これならば、新しく、画期的な魔法を生み出せるのではないか? とな。で、ミフムらと協力し、できたのがこの召喚魔法じゃ! これを使えば、わざわざ迎えに行かずとも任意の相手を呼び寄せられるというわけよ!」


「というわけで、先ほどまで皆に手を貸してもらい、召喚対象の情報を書き込んでいたのだ」


 最後にミフムさんがそう付け加えた。

 なるほど、それでみんな集まってたのか。


「ようし、ではさっそく始めるとするかの!」


 ひとしきり説明を終えて気がすんだようで、エラは腕まくりをしてミフムさんと共に魔法陣の正面に立つ。


「計画としては、まずナオを呼び出す。次に状況を把握してもらい、あわよくば一度人間界に帰って騎士団を戦力として引き込んでもらう。といった感じじゃ」


「普通の人間を魔族と戦わせても大丈夫なんですの? 個人的にはフウツさん以外が何人死のうと構いませんけれど」


「魔王の力同様、『勇者』も周囲の者の能力を引き上げることができる可能性が高いからの。まあそこはナオ本人に確かめてもらって判断するぞい」


 言いながら、エラは魔法陣に魔力を流しだす。

 具合を伺いつつ、ミフムさんも彼女に続いた。


「私もお力添えいたしますね」


 さらにリーシアさんも加わり、3人の力が注ぎ込まれる。

 彼らの魔力に呼応するように、魔法陣が光を発した。


 光は徐々に強まり、やがてその光に包まれて誰かが出てくる。

 頭から肩、胴、足と、池から上がるみたいにひとりの少年が姿を現した。


「は?」


 彼は唖然とした様子で、そうもらす。


 声変わり前の高い声、小柄な身体、吊り気味の目、そしてなにより『勇者』の気配。

 正真正銘、ナオその人だ。


「成功じゃな!」


 エラが満足げに頷く。

 対するナオは何が何だかわからない、という顔である。


「何これ? おれカターさんと喋ってたんだけど」


「わしらの傑作、召喚魔法じゃ!」


「うわ、あんたかよ……。おれに用があるから強制的に呼び出したってわけ?」


 絶妙に物分かりが良い。


「その通りじゃ」


「ならカターさんにそう言って来るから、それからにして。で、ここは第何領地?」


「魔界」


「え?」


「魔界」


 頬を引きつらせて固まるナオ。

 そりゃそうだ、彼は俺たちが魔界に行ったということすら知らない。


「……ふざけてる?」


「いやいや。ほれ、こやつら魔族じゃろ? 外に行ったら魔族ばっかじゃぞ」


 エラがリーシアさんたちを指差す。


「周囲の魔力も人間界のそれとは違う。おぬしならわからろう?」


「うわ、ほんとだ……って何してくれてんの!?」


 一転、怒りを露わにしてナオはエラに詰め寄った。


「あ」


 と、エラが声を上げる。

 彼女の視線の先では、魔法陣から完全に外れたナオの足があった。


「? 何、いいから人間界に帰してくれる?」


 もっともな要求をするナオに、無慈悲にもエラは次の言葉を放った。


「無理じゃ。というか、たった今、無理になった」


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