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ボス

 それからしばらくして、ヴィヌさんやボスを連れたリュキが部屋に戻って来た。


 ヴィヌさんは涼しい顔で適当な席に着き、リュキはボスを一番上等な椅子に座らせる。


「えっと……」


 ボスがリュキを見上げた。

 彼女は小声で「大丈夫っすよ、さっき言った通りに」と優しく言う。


 不安げな様子ながらもボスは頷き、口を開いた。

 と、その瞬間。


「ではこれより、『友好会』とレジスタンスの連携会議を始める」


 俺は思わず背筋を伸ばす。


 その声が、その顔つきが、その眼光が。

 気弱な少年のものから、一瞬で威厳に満ちたものに変わっていた。


 肌がひりつき体が強張る。

 彼から目を離せない、いや離してはならない。

 息をするのも忘れ、俺は彼に釘付けになった。


「レジスタンスの使者よ、お前たちの持つ情報を提供し、我らに献上できるものを言ってみるがいい。私に益有りと思わせることができたら、お前たちの望みに応えてやろう。……こ、これで合ってる?」


 ふ、と。

 最後の一言で、また気弱な少年に戻る。


 同時にこちらへの圧も無くなり、緊張の糸が切れた。


「ええ、バッチリっす!」


「よ、よかった……」


 ボスはまだドギマギしているふうだったが、多少は安心したように胸を撫でおろす。

 ……さっきのはいったい何だったんだ?


「それじゃあ、その、自己紹介……とかお願いしてもいい、かな」


「もちろんだ!」


 ゼンがいつもの調子で言った。


「オレはゼン、レジスタンスのリーダーを務める者だ。そう構えなくていいぞ!」


「俺はフウツ」


「デレーですわ」


「……ヒトギラだ」


 ゼンさん、フウツさん……とボスは復唱する。


「ええと、じゃあレジスタンス側の状況を教えてください」


「ボス、もっと強気でいいんすよ」


 リュキが小声で応援するが、やはりそういう態度は性に合わないらしく、ボスは困ったように笑うだけだった。

 先ほどはまさに「組織のボス」という風な振る舞いをしていたけれど、何かスイッチが入らないとできないのだろうか。


「ではまずこの4人についてだな! フウツたち3人は人間界から来た人間で、あと斧の中にいるアクィラという女性は精霊だ」


「は? マジで? テメエらが人間で、斧がどうとか言ってた奴が精霊? なんで魔界にいんだよ」


「それはだな――」


 魔王の計画やら俺たちの旅路やらの話を、幹部一同は唖然として聞く。

 しかしただ1人、ボスだけは動じた様子を見せずにいた。


 それが意外だったものだから思わずじっと見ていると、ぱちりと目が合う。

 すると彼ははにかんだように笑い、目を逸らすのであった。


「――というわけで、オレたちは仲間を集めているんだ」


「はー……思ったよりすげえことになってんだな。『魔王の器』とか『勇者』とか、もう何が何だかって感じだぜ」


「魔王が何しようとどうでもいいけど、さすがにこれは黙ってられないね。人間界を潰した後は魔界も、とかありえなくはないし」


 リュキたちは難しい顔をする。

 とにかく危機が迫っているかもしれないことは、わかってもらえただろうか。


「しっかし、どうすっかなあ。やれるだけのことはやりてえんだが」


 オーレイアさんが眉間にしわを寄せて唸る。


「そうですね。ゼンさん、我々としてもレジスタンスとの共同戦線に全力を注ぎたいところですが、そうもいかないというのが現実です。ボスが代替わりをしたばかりの今、隙を見せれば敵対組織に取って食われる可能性があるのです」


「む、それもそうだな。そうすると、どのくらい人員を割けるんだ?」


「申し訳ありませんが、良くて5分の1程度でしょう」


「ふむ。だが裏社会一の組織だ、人数で言えば相当なものだろう?」


「いえ、それが……」


 言葉を濁らせ、ヴィヌさんはボスの方を見る。

 ボスは悲しそうな、叱られた子どものような表情で頷いた。


「……実は、先代が亡くなられた後に内輪揉めがあったのです。それも、かなり大きな」


「後継者争いか?」


「はい。先代が時期ボスとして指名していた人物がいたのですが、先代の死の直後に事故死をしまして……」


 曰く、代わりの後継者を誰にするかでもめた末、組織が二分してしまったのだという。

 片方の喧嘩っ早い勢力がもう片方の勢力に手を出したことにより、内部抗争のような状態に。


 幹部たちはこれではいけない、と双方を納得させる第三の後継者候補を探した。

 そうしたのちに先代の孫が田舎でひっそりと暮らしているという情報を掴み、彼を後継者として担ぎ上げることに成功。


 既に組織の構成員がだいぶ減ってしまった後だったがなんとか内輪揉めは収まり、今に至るというわけだ。


「なるほど、そういうことだったのか」


「ですがよくポッと出の子どもにボスの座を渡せましたわね。味方同士で殺し合うほど、各々の候補者を推していたのでしょう?」


 デレーが問う。

 確かに、先代の孫とはいえよく納得したものだ。


「そりゃあアレだよ。ボスが単身、両陣営に乗り込んで候補者ごとコテンパンにしたからだ」


「え!?」


 まさかの事実に、俺たちの視線が一斉にボスへ向く。

 この少年が1人で戦い勝利を収めるなんて、申し訳ないがまったく想像がつかない。


「ち、違うよリュキ。あれは偶然だって! 僕はただ迷子になってただけで、気が付いたらなんかその……」


 もごもごと恥ずかしそうに、ボスは弁明する。

 迷子になってたら相手を倒していた……?

 ますますわからない。


「いーや、あんなの偶然じゃないっすよ。紛れもないボスの実力、才能っす。じゃなきゃ、満場一致でボスが認められたりしませんって」


「で、でも……ほんとに、僕なんか……」


 ボスは赤くなって縮こまる。

 強いのに自覚が無いとか、そういうのだろうか。

 しかし相手に勝ったのなら、多少なりとも強さを自覚するものだと思うのだけれど。


「ボスは強いし、その気になれば威厳も出せる。あとは自信さえ付けば完璧なんだがな!」


「オーレイア、ボスに圧力をかけるような発言は慎みなさい。ボスにはボスのやり方があるのです」


「そうっすよ、ボス。今は自信ないかもしれねーけど、焦らずやっていきゃいいんす。ボスのことは俺らがしっかり支えますから、ね」


 リュキがボスの肩を優しく叩く。


「う、うん。大丈夫。僕が自分で引き受けたんだ、ダメダメなのは百も承知だけど……頑張るよ」


 ボスはそう応えた。

 彼は彼なりに、決意を固めているようだ。


 微笑ましい光景に、ゼンはうんうんと頷く。


「いろいろ大変そうだが、なに、幹部とボスの絆が固ければなんとでもなる! オレも応援しよう。組織としてだけでなく個人的にも、いつでも頼ってくれ!」


「あ、ありがとう、ございます」


 交渉は成立したし、彼らとは良い関係を結べそうだ。

 これでひとまずは一件落着かな。


「あのー」


 と、そこでクーキヨが声を上げる。


「良い空気のとこ悪いんだけどさ」


 彼は壁、ひいては玄関の方向を指差した。


「お客さん。それもとびきり物騒なの」


 言い終わるが早いか、轟音と共に建物が大きく揺れる。

 リュキが素早くボスを、さらにベットさんがリュキを庇うように覆いかぶさった。


 ぱらぱらと木くずが天井から落ちてくる。

 揺れはすぐに収まったが、代わりに玄関の方からゴトゴトと騒々しい足音が。


「ちっ。敵襲だ、全員構えろ。ベット、ボスを頼むぞ」


 リュキが忌々しそうに扉の向こうを睨む。

 だがしかし。


「下がれ」


 ヒトギラが一歩前に出たかと思うと、杖を掲げて思い切り扉に炎魔法を撃った。

 炎は扉を吹き飛ばし、廊下まで貫通する。


「ヒトギラ!? 何やってんの!? ここ人ん家だよ!!」


「ゴミを纏めて丸焼きにするだけだが」


 と言っている間も、ヒトギラの杖は炎を吐き続けている。

 なぜそこまで、と突っ込まざるを得ない勢いだ。


「この部屋に蛆虫の大軍が押し寄せてきたら正気を失う自信がある」


「あっ、そういうこと……じゃないよやりすぎだよ! 建物が燃えたらみんなまで燃えちゃうって!」


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