裏返しの愛情
しばらくすると、リュキが戻って来た。
少年は見当たらず、代わりに3人の男女がどやどやと入って来る。
「まったく、急に何なんですか。幹部が暇ではないことくらい……おや、知らない顔がいますね」
「またリュキが厄介事持ってきたんじゃねーの?」
「別にどーでもいいよ、うちに仇成すなら殺せばいいだけじゃん」
つややかな亜麻色の髪の女性、バンダナを巻いたガタイの良い青年、目元にどこか既視感のある青年。
彼らは口々に喋りながら、思い思いの席に座る。
口ぶりからして、リュキの言っていた「他の幹部」のようだ。
当のリュキはむすっとした顔のまま、室内で一番上等な椅子の、すぐ横のソファに腰を下ろした。
「リュキ、なぜこの者たちと私たちを引き合わせたのですか? 説明なさい」
高圧的な態度で女性が言う。
「こいつらと協力関係を結ぶためだ」
「は? たかだか魔人4人なんかと?」
「4人じゃねえ。こいつらはレジスタンスだ。近々魔王と決戦をするってんで、俺らと共闘しねえかっつって来たんだよ」
「勝率は?」
「知らね。まあ俺の直感じゃあ、俺らが2倍いて5分5分だな」
「随分といい加減ですね。短慮もいいところです。さすが、数年間子どもじみたわがままを貫き通しているだけはありますね」
「……んだとテメエ、喧嘩売ってんのか?」
「ただの事実でしょうに、そう怒らないでくれます?」
なんだかものすごく険悪な雰囲気だ。
にもかかわらず、残る2人の青年が止める気などさらさら無さそうなところを見ると、いつものことなのだろうか。
「はあ……。話になりません。時間の無駄です、あなたたちも帰ってください。もしくはそれ相応の利益を提示することです」
「ふむ、利益か! ならそうだな……魔王を倒した暁には、オレたちがキミたちのボスを鍛えるというのは?」
「なるほど、ボスを――え?」
女性がはたと言葉を止める。
「どうしてあなたがそれを?」
「あ」
しまった、とゼンは目を泳がせた。
「まさか……」
じろりと女性がリュキを見る。
マズい、このままじゃリュキが口を滑らせたのがばれてしまう。
するとそこで、デレーが口を開いた。
「あら、やっぱり何かありますのね」
慌てる俺たちに反して、彼女はいつもの調子で言う。
「ボスが変わったというのは聞き及んでおりましたので、少々鎌をかけさせていただきましたわ。まさか的中するとは思いませんでしたけれど、あなた方のボスはそんなに頼りないんですの? それとも他に問題が?」
さすがデレー! と俺は心の中で喝采を送った。
女性は彼女の言葉を聞いて、リュキに対する疑いの目をやめる。
「そういうことでしたか。姑息な真似をしてくれますね」
「お褒めに預かり光栄ですわ。それで、私たちと手を組んではいただけませんこと? もし断られるなら、それでも構いませんが」
「一丁前に脅しですか? 『友好会』を舐めた者たちがどんな末路を辿ったのか、その身に教えてあげましょうか」
バチバチと火花が散る。
そこへ、片方の青年が「まあまあ」と割って入った。
「共同戦線、俺は良いと思うぜ? レジスタンスにこっちを裏切る利点はねえから、後ろから刺される心配がいらねえんだしよ。魔王をぶっ飛ばすのに参加すること自体、ボスにゃ良い刺激になるんじゃね? なあ、クーキヨ」
「どっちでもいーんじゃない。ま、少なくともレジスタンスは敵にはならないだろうね」
クーキヨ、と呼ばれたもう一方の青年は投げやりに答える。
その姿……というか目元? に既視感があるような気がするのだが、何だったろうか。
「ほらみろ、2人ともこう言ってるぜ。俺の判断は正しかったってことだ! 意地になってねえで認めろよ、レジスタンスと協力した方が良いってよ!」
勝ち誇った様子でリュキは女性に言う。
女性は何か言いたげに押し黙った後、「好きになさい!」と捨て台詞を吐いて部屋を出て行った。
「へっ、やってやったぜ。見たか? あいつ、顔真っ赤にしてやんの! デレーっつったけか、テメエもやるじゃねえか!」
デレーの背中をバシバシと叩くリュキ。
彼女を言い負かしたことがよほど嬉しいようだ。
当初から目的が変わっている気がするけど、本人が楽しそうなのでここは流しておこう。
「でもいいのかな。あの人も幹部なんでしょ?」
「いーんだよ、ほっときゃそのうち戻ってくるさ。気になるってんなら見に行ってもいいけどよ」
俺は少し迷い、しかしやはりそうすることにした。
やっぱり仲間なんだから仲良くした方がいい。
部外者の俺なんかが行っても……という思いもあるが、逆に第三者だからこそ、みたいなこともあるかもしれない。
何より、今の俺は嫌われていないので、たぶん会話くらいはしてもらえる。
「あいつ……ヴィヌの部屋は階段上がって右、奥から2番目だ。あ、どんな感じでへこんでたか、後で聞かせろよな!」
上機嫌のリュキに部屋の位置を教えてもらい、俺は廊下に出た。
今度はベットさんが付いて来ることもなく、完全に1人である。
交渉が成立して味方認定をしたとはいえ、会ったばかりの相手に拠点内を歩き回らせるなんて、少々不用心ではなかろうかと思ってしまう。
いや、もしくはそうではなくて、クーキヨさんが言っていたように、「何かあれば殺すから大丈夫」という思考なのかもしれない。
いずれにせよ、俺に悪事をはたらこうという意志は無いので関係ないのだが。
「階段を上がって右……」
リュキに言われた通り、ヴィヌさんの部屋へと進む。
ここの並びにある4つの扉はそれぞれの装飾にやや個性が出ており、幹部たちの私室らしいことが推し量れた。
俺はその奥から2番目の扉の前に立つ。
「ふー……よし!」
深呼吸をし、ノックをしようと手を伸ばした、その時。
「…………い……!」
ふと、中から叫び声のようなものが聞こえてくることに気付いた。
そんなに怒り狂っているのだろうか。
もしそうなら、出直した方が得策かもしれない。
そう考えた俺は悪いとは思いつつも、彼女の様子を少しだけ窺おうと扉の隙間から中を覗いた。
するとどうだろう。
「かっ……くぁわっ……! もうっ可愛い! そしてカッコいい! 最高すぎる!!!」
ヴィヌさんが、麺棒のごとくベッドの上で転がり回っていた。
あまりに予想外の光景に、思考が停止する。
「『……んだとテメエ、喧嘩売ってんのか?』ですって! 売ってる売ってる~! あなたのカッコよくて可愛い怒り顔を見るために! 売りに売っていますとも! はー凄い、眼福加減が凄い! でもベットには妬いてしまいますね。いつもリュキさんの横にいられるなんて、羨ましい……妬ましい……。いえ、いいのですヴィヌ。私には私だけの特等席があるのですから! そう、犬猿の仲という特等席が!!! うふ、うふふふふふふ!」
デレーばりの勢いで独り言を叫ぶヴィヌさんは、とても先ほどの冷徹な女性と同一人物に見えない。
というか、とんでもない事実を知ってしまった。
ここはあれだ、見なかったことにして引き返そう。
みんなには「やっぱ無理そう」って言おう。
ヴィヌさんに気付かれる前に――
「……誰かいるのですか?」




