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仲良しコンビ

 彼は何者なのだろうか。

 少なくとも、味方ではないことだけは確かだ。


 直接手をかけるまではいかないが、俺たちはいつでも武器を取れるよう神経を尖らせる。


「颯。颯はいじみく、あるいは蝶々」


 彼の地に付くほどに長い髪が、風も無いのにざわりと動いた。

 途端に視界が黒く染まる。


 咄嗟に剣を構えかけたが、やみくもに振っても仕方がない、と抑えることにした。


「うわっ!?」


 直後、不意に右手を掴まれる。

 何も見えないが、手の感じからしてヒトギラだとわかった。


「ヒトギラ、大丈夫?」


 答えは無い。

 代わりに手は俺をぐいと引っ張る。


「っとと」


 背中に少し暖かい感触。

 この暗闇の中ではぐれないよう、ヒトギラが引き寄せてくれたようだ。


 ややあって、誰かが横から俺にぴたりとくっついてきた。

 これも見えなくてもわかる、デレーだ。


 傍から見たらかなり珍妙な格好になっているだろうが、そうも言っていられない。

 見えず聞こえず、何が来るのか予測できないからには、ひとまずひとところに集まっておくほか無いのだ。


 あとはゼンだが……と空気の動きに集中していた、その時。


「こらっ!」


 突然、少女らしき声が響き、同時にパッと暗闇が晴れた。

 木の葉の擦れる音などの雑音も戻ってくる。


 状況を把握するべく急いで周りを確認すると、案の定ヒトギラとデレーは俺とくっついていた。

 一方ゼンはというと、なぜか木に立てかけられた板のようにひっくり返っている。

 ……何がどうしてそうなったの?


「む! みんな無事だな、良かった!」


 よいしょ、とゼンは器用に回転して立ち上がる。


「いやあ、ごめんなさい。びっくりしたでしょ?」


 陽気な声に振り向くと、小柄な少女がそこにいた。

 傍らには正体不明の彼もいる。


「ほらジギも」


「稲穂」


 先ほどまでの得体の知れない雰囲気はどこへやら、少女が背中をぽんぽんと叩くと彼は素直に頭を下げた。


「って、ジギ?」


 俺は一拍遅れて気付く。

 少女が口にした名前は、俺たちが協力者候補として探していた人物のものだった。


「そう、この子はジギ。私の弟分とか妹分とか、そういう感じ」


「朝は花、夜は海、したがって雲流れる」


「えー? 確かにそうだけどさー。やっぱ私としてはどんなに大きくなってもジギはジギっていうか」


 少女はジギの言っていることが理解できるようだ。

 ちんぷんかんぷんな台詞に、さも当然かのように返答している。


「ああそうだ! あなたたち、この辺はあんまりうろつかない方がいいよ。実はね、そこの木がとある場所に繋がってるんだ。ジギはその場所の用心棒でもあるんだけどさ、あなたたちを不審者だと勘違いしちゃったみたいなの」


「とある場所、というのは……地下闘技場か?」


「ん? 知ってたの? そうだよ、闘技場の裏口。あれ、やっぱり不審者?」


「詮議?」


 少女が疑いの目を向け、共鳴するようにジギもまた髪をざわつかせる。


「いや、違……わないかもしれないが、危害を加えようという気は無い」


 またあれをやられてはかなわない。

 ゼンは慌てて訂正した。


「じゃあなんの用?」


「ジギだ」


 え、ジギ? と少女が彼の方を見る。


「この際、全部言ってしまうとだな。オレたちはレジスタンスの者で――」


 事の次第をかいつまんで、ゼンは2人に説明した。


「というわけで、ジギに協力を頼みたいんだが」


「うんうん、事情はわかったよ。私は良いと思う!」


 少女はあっさりと言う。


「地下闘技場もある意味、あぶれ者たちの行きつく先っていうかさ。魔王は良い顔しないけど、私たちの居場所なんだよね。だから魔王を倒すの、私は賛成!」


「深夜……船を押すは疾風の意志」


「あー、そっか。そうだよねえ」


 ジギの言葉を聞き、少女は渋い顔をした。

 何か不都合でもあるのだろうか。


「彼は何と?」


「支配人の許可が無いとそれはできないって。私もジギも闘技場で衣食住確保してもらってる身だから、勝手に行動できないんだ」


「花開けば地見上げる」


「んん……まあそれが一番かな。ねえゼンさんたち、戦うのって得意?」


「ああ、それなりに自身はあるぞ!」


 そっかそっか! と少女は頷く。

 そして木に隠されている裏口を、何のためらいもなく開けた。

 ぽっかりと幹に穴が空き、下へと続く階段が見えている。


「じゃあついてきて! 良い方法があるよ」


 そう言って、にこ、と少女は笑った。


 俺たちは少女に続いて地下に降りる。

 レジスタンスの支部とは違い、通路は案外シンプルで、ほどなくして小さな部屋の中に出た。


「ここは控室。今は誰もいないけど、夜になると戦士の人たちがここで試合の準備をするんだ」


 廊下に出ると、同じようなズラリと扉が並んでいる。

 全て控室らしく、いかにこの闘技場の規模が大きいかがよくわかった。


 石造りの壁を横目に進んで行くと、ひときわ大きな扉が2つ。

 少女曰く、ここから戦士が入場するのだという。


「登場の仕方にもいろいろあってね。床がせり上がってくるのとか、煙幕の向こうから歩いて来るのとか、好きなのを選べるんだよ」


「深海。絶海」


「あはは、ジギは昔からずっとそれだよね」


 楽しげに語る少女の姿を見ていると、ここが本当に彼女の居場所なのだということが伝わってくる。

 物騒だし、倫理にも少し反しているこの施設だが、それはそれとして。


 少女は大きな扉を素通りし、その横の階段を昇ってやや雰囲気の違う通路へと入って行った。

 簡素な造りだった先ほどまでの廊下とは打って変わって、壁には絵が飾られていたり、ところどころに花瓶が置かれたりもしている。


「はい、ここだよ!」


 やがて少女が示したのは、見るからに「偉い人の部屋です」といった感じの豪華な扉だった。

 おそらくは支配人の部屋だろう。


「こんにちはー! ニギとジギでーす!」


 少女……ニギは遠慮なしにその扉を叩く。

 すると中から「はいはーい」と拍子抜けするくらいに明るい声がし、ガチャリとごく普通の音を立てて扉が開いた。


「やあニギ、ジギ。何か用かな?」


 人の好さそうな笑みと共にニギたちを出迎えたのは、少し長い白髪をひとつに束ねた男性。

 珍しいことに、その下半身は蛇の体と同じだった。


「ちょっと相談!」


「そりゃまた唐突な……。ええと、その人たちについてだね?」


「うん」


「なるほどね。まあとりあえず入りなよ」


 彼は苦笑しながらも、扉を大きく開けて俺たちを部屋に招き入れる。

 地下闘技場の支配人って言うくらいだから怖い人だと思ってたけど、案外優しそうでよかった。


「油断は禁物ですわよ、フウツさん」


 警戒を緩めかけた俺に、デレーが小声で忠告する。


「優しい顔をしている者ほど、腹の底では何を考えているかわかりませんわ。どうか簡単には心を許さないでくださいまし」


「わ、わかった」


 そういえば魔王も最初、味方の振りをして近付いてきたんだっけ。

 また騙されて仲間を危険に晒すことだけは避けたい。

 人を疑うのは苦手だけど、そう甘いことも言っていられないな。


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